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48 Hours: 台湾海峡 2026  作者: 八咫 日本


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44/54

第44話「戦術核の影」

【作中時間】2026年6月21日 18:00 - 19:00(台湾標準時 / UTC+8)

※日本標準時(JST / UTC+9):6月21日 19:00 - 20:00

※米国東部夏時間(EDT / UTC-4):6月21日 06:00 - 07:00

18:05 中国・北京/中南海 中央軍事委員会 地下統合作戦指揮所

台湾標準時、午後6時5分(北京時間 同刻)。

開戦から42時間が過ぎ、北京の空は赤黒い夕焼けに染まり始めていた。しかし、中南海の地下深くにある統合作戦指揮所は、冷酷な人工照明の下で、完全な「狂気」に支配されようとしていた。

日米の潜水艦隊による無制限潜水艦作戦(第39話)と、台湾軍のドローン飽和攻撃(第41話)により、中国軍の「台湾侵攻」という巨大な軍事機械は、完全に兵站の血を抜かれ、物理的に停止した。台北市内に取り残された第72集団軍の数万の将兵は、弾薬も燃料もなく、ただ台湾軍のゲリラに狩られるのを待つだけの「肉の標的」へと成り下がっていた。

「……これ以上の通常戦力による作戦継続は、我が軍の完全な『壊滅』を招きます」

統合参謀総長は、もはや死を覚悟したような表情で、円卓の奥に座る最高指導者(総書記)に進言した。

「我が国のメンツを守るためには、直ちに日米に対し『無条件の停戦交渉』を申し入れるしか……」

「黙れ」

総書記の、氷のように冷たく、しかし地鳴りのような怒りを孕んだ声が、将軍の言葉を叩き斬った。

「私が、あの憎きアメリカ帝国と、格下の島国(日本)に頭を下げろというのか? 我が国が、台湾というたかが一つの反乱省に敗北したと、世界に宣言しろというのか!」

総書記はゆっくりと立ち上がり、ホログラム・テーブルの電源を乱暴に叩き切った。

「戦争はまだ終わっていない。連中は、我々が『最後のカード』を切らないと高を括っているから、ここまで調子に乗っているのだ。ならば、教えてやるしかない。我々が、中華民族の偉大なる復興のためであれば、世界を道連れにしてでも『そのボタン』を押す覚悟があるということを」

総書記は、傍らに控えていた宣伝部のトップ(政治局常務委員)を指差した。

「ただちに、中央電視台(CCTV)を通じて『全世界に向けた緊急声明』を放送しろ。文面は私が決める。……全核戦力の警戒態勢を『第一級』へ引き上げ、内陸部のミサイルサイロを開け放て。アメリカの偵察衛星に、我が国の核ミサイルが天を仰ぐ姿をはっきりと見せつけてやるのだ」

数分後。

中国国営放送(CCTV)の電波、そしてインターネットのストリーミング配信を通じて、赤いネクタイを締めた報道官の姿が、全世界のスクリーンに映し出された。

その内容は、人類が冷戦終結以来、最も恐れていた「最悪の恫喝」であった。

『――我が国は現在、台湾という神聖なる不可分の領土において、平和的な解放作戦を実施している。しかし、アメリカおよび日本という「外部の覇権主義勢力」が、不当に軍事介入を行い、我が国の人民解放軍兵士に対して無差別な殺戮を行っている。さらに日本は、我が国の本土に対して直接ミサイル攻撃を行うという、許されざる戦争犯罪を犯した』

報道官の声は、機械のように抑揚がなく、それゆえに恐ろしかった。

『我が国は、平和を愛する国家である。しかし、国家の主権と領土の完全性が、これ以上外部勢力によって脅かされるのであれば、我々は座して死を待つことはない。

……もし、アメリカと日本が直ちに全ての軍事介入を停止し、台湾海峡から完全に撤退しないのであれば、我が国は、国家の存亡を懸けて、**「あらゆる手段」**を排除しない。我が国が保有する「究極の抑止力」をもって、外部の干渉勢力を完全にこの世から消し去る準備があることを、ここに厳重に警告する』

「あらゆる手段」。そして「究極の抑止力」。

核兵器という言葉こそ直接使われなかったものの、それが何を意味しているかは、軍事や政治の専門家でなくとも完全に理解できた。

通常戦力で敗北を悟った中国指導部は、自らの体制崩壊を防ぐために、ついに「核の恫喝エスカレート・トゥ・ディエスカレート」という、世界を終わらせるパンドラの箱を公然とこじ開けたのである。

18:25 米国・ワシントンD.C./ホワイトハウス 地下シチュエーション・ルーム

米国東部夏時間、午前6時25分。

ワシントンの空が白み始める中、ホワイトハウスの地下では、中国の「核使用を匂わせる声明」を受けた直後の、絶望的で緊迫した会議が続いていた。

「……CCTVの放送と完全に同期して、中国内陸部のロケット軍基地で、DF-41(大陸間弾道ミサイル)を搭載したTELが多数、偽装網から姿を現しました! さらに、ゴビ砂漠の地下サイロのハッチが開放されています!」

国防長官が、血の気の引いた顔で報告した。

「あれはハッタリではありません。彼らは本気で、核の引き金に指をかけています。我々に『引け』と強要しているのです!」

合衆国大統領は、モニターに映る中国のミサイル基地の衛星写真を見つめ、両手で顔を覆った。

「……もし我々がここで引かなければ、彼らは本当に台湾や日本、あるいは我々の空母に戦術核を落とすのか?」

「確率は、極めて高いと言わざるを得ません」

統合参謀本部議長が、重い口を開いた。

「中国の指導部は、もはや通常兵器での勝利手段を失いました。彼らに残された『勝利(あるいは引き分け)』の道は、我々に核の恐怖を与え、我々自身の国民の世論によって戦争から手を引かせることだけです。彼らは我々が、同盟国のためにニューヨークやロサンゼルスを核の炎で焼かれるリスクを取らないと、完全に足元を見ています」

「同盟国の声はどうなっている?」

大統領が、国務長官に問う。

国務長官は、絶望的な表情でタブレットを掲げた。

「……ヨーロッパは、完全にパニックに陥っています。フランス大統領とドイツ首相から、先ほど相次いで緊急の電話がありました。『アメリカは直ちに台湾から手を引け。台湾のために、地球を核の冬にする気か』と。……彼らは中国の核の恫喝に完全に屈し、我々を非難し始めています。国連安保理も、ロシアと中国の拒否権で完全に機能不全です。我々は、世界中から孤立しつつあります」

同盟国のために戦っているはずのアメリカが、「第三次世界大戦の引き金を引く狂人」として、世界中から非難されようとしている。核兵器がもたらす究極の心理戦サイコロジカル・ウォーフェアが見事に決まったのだ。

「……大統領、決断を」

国防長官が進言する。

「我々も核戦力の警戒レベル(デフコン)を上げ、B-2爆撃機を空に上げていますが、もし中国が先に沖縄や台湾に低出力核を落とした場合……我々は本当に、北京に対して核で報復するのですか? それをやれば、米本土への核攻撃ハルマゲドンが確定します」

大統領は、シチュエーション・ルームの天井を見上げた。

歴代のアメリカ大統領が、冷戦時代からずっと自問自答し続けてきた究極の命題。

『アメリカは、同盟国(パリや東京)のために、ニューヨークを犠牲にできるか?』

「……日本の総理を繋げ」

大統領は、ゆっくりと、しかし絞り出すような声で言った。

「我々は、同盟国を見捨てない。しかし、この恐怖の中で、彼らがどう動くか。直接聞いてみる必要がある」

18:40 日本・東京/首相官邸 地下危機管理センター

日本標準時、午後7時40分。

東京湾岸部への弾道ミサイル着弾による火災が、夜の東京の空を不気味な赤色に染め上げていた。

官邸地下の危機管理センターには、ワシントンからの暗号通信ホットラインが繋がれ、高市総理とアメリカ大統領の直接対話が始まっていた。

『……高市総理。中国の声明は聞いたはずだ』

大統領の声は、翻訳機を通しても、その深刻な疲労と恐怖が伝わってきた。

『彼らは、戦術核兵器の使用準備を終えている。標的は、嘉手納基地のある沖縄か、あるいはあなたがいる東京の真上の高高度(EMP攻撃)の可能性が高い。……私はあなたに問わねばならない。日本は、核の火に焼かれるリスクを背負ってでも、台湾への支援作戦(軍事介入)を継続する覚悟があるのか?』

防衛大臣や官房長官が、息を呑んで総理の顔を見た。

「総理、ここでアメリカが手を引けば、我が国に核が落ちることはありません。……台湾を諦めれば、日本は助かるのです」

閣僚の一人が、震える声で懇願するように囁いた。

しかし、高市総理は、真っ直ぐにモニターのカメラ(アメリカ大統領)を見据えていた。

その瞳には、一国のリーダーとしての究極の覚悟が宿っていた。

「……大統領。我が国は、世界で唯一、核兵器の惨禍を経験した国です」

総理の声は、静寂の官邸地下に、凛と響いた。

「核の恐怖、それがもたらす地獄を、私たち日本人は誰よりも深く理解しています。……だからこそ、私たちは、核の恫喝ブラックメールを外交や戦争の道具として使う国家を、絶対に許してはならないのです」

総理は、両手を机の上で強く組んだ。

「もし我が国が、ここで核の恐怖に屈して台湾を見捨て、アメリカに『介入をやめてくれ』と頼めば、それは『核兵器さえ持てば、いかなる侵略も許される』という最悪の先例を人類の歴史に刻むことになります。

……明日、彼らが同じように核をチラつかせて『沖縄をよこせ』と言ってきた時、我々はまた屈服しなければならないのですか? 奴隷としての平和を生きるくらいなら、私たちは自由な国家として、理不尽な暴力に立ち向かいます」

『……総理。それは、日本が核攻撃の標的になることを受け入れる、という意味か』

大統領の声が、微かに震えた。

「大統領。我が国には、自前の核抑止力がありません。私たちが頼れるのは、アメリカの『核の傘(拡大抑止)』だけです」

総理は、一字一句を刻み込むように言った。

「私たちは、一歩も引きません。台湾へのロジスティクス支援、および中国軍への反撃作戦は継続します。……ですから、アメリカも絶対に引かないでください。もし中国が日本に核を撃てば、アメリカは必ず中国を核で滅ぼす。その『絶対の確信』だけが、唯一、中国に核のボタンを押しとどめさせる手段なのです」

日本の最高指導者は、自らの国を、いや一億人の国民の命を、アメリカの「核の傘」という一枚の布に完全に委ね、その上で「死のチキンレース」のアクセルを踏み抜く決断を下したのだ。

『……分かった。日本の覚悟は、しかと受け取った』

大統領の声から、迷いが消えていた。

『アメリカ合衆国は、同盟国を見捨てない。……我々も、最後まであなた方と共に盤面に残ろう』

18:50 台湾・台北市/中正区 総統府周辺の最前線

台湾標準時、午後6時50分。

台北市内の最前線。陽が沈み、破壊された街並みが火災の炎に照らし出される中、台湾軍と中国軍の兵士たちは、互いの息遣いが聞こえるほどの至近距離で対峙していた。

しかし、戦場には奇妙な沈黙が広がっていた。

中国国営放送の「核の恫喝」の声明は、台湾の電波ジャックを通じて、台北市内で戦う中国軍の将兵たちのスマートフォンや携帯無線機にも、否応なしに届いていたのだ。

「……あらゆる手段を排除しない。……究極の抑止力……?」

瓦礫の陰に隠れていた中国軍の若い歩兵が、スマートフォンの画面を見つめながら、絶望的な声で呟いた。

「おい、冗談だろ……? 北京の連中、ここに『核』を落とす気か!?」

隣にいた古参の軍曹が、青ざめた顔で空を見上げた。

彼らは、日米の潜水艦によって補給を断たれ、弾薬も水もなく、台北の市街地に見捨てられた孤立部隊であった。その上、自らの国の指導部が、台湾の抵抗を折るために「自分たちの頭上」に戦術核を落とすかもしれないというのだ。

「俺たちは、見捨てられたんだ……。北京の連中にとって、俺たちの命は、台湾の独立派を吹き飛ばすための『巻き添え(コラテラル・ダメージ)』でしかないんだ!」

中国軍の兵士たちの間で、これまで保たれていた軍紀が、音を立てて崩壊し始めた。

祖国統一という大義名分は、完全に消え失せた。彼らは今や、敵の弾丸よりも、味方の指導者が落とすかもしれない「核の炎」の恐怖に完全に精神を破壊されていた。

アサルトライフルをその場に放り出し、頭を抱えて泣き叫ぶ者。暗闇に紛れて、軍服を脱ぎ捨てて民間人のマンションへと逃げ込む者。中国軍の前線は、文字通り「内部崩壊」を起こしていた。

一方、その様子をわずか数十メートル先のバリケードから見ていた台湾軍の予備役兵たちは、無言のまま、小銃のボルトを引き直していた。

「……中国が、核を撃つかもしれないってよ」

若い予備役兵が、手製の火炎瓶を握りしめたまま、小隊長に言った。

「俺たち、どうせ死ぬんですかね」

「ああ、死ぬかもしれないな。上空で核が爆発すれば、こんな土嚢なんて何の意味もない」

小隊長は、泥だらけの顔に、不敵な笑みを浮かべた。

「だがな。あの中南海のチキン野郎どもがボタンを押す前に、目の前で震えているあの中共の連中を、一人でも多く地獄へ道連れにしてやることはできる」

台湾の兵士たちの目には、恐怖を通り越した、純粋な「決死の狂気」が宿っていた。

自分たちが核で消滅するかもしれない。だが、だからこそ、消滅するその瞬間まで、自分たちの足でこの台湾の土を踏みしめ、侵略者の喉笛に噛み付いたまま死んでやる。

「……撃てェッ!! 奴らを台湾の土に還してやれ!!」

ダダダダダダダダッ!!

台湾軍のバリケードから、日本から補給された5.56ミリ弾の猛烈な十字砲火クロスファイアが、士気を完全に喪失して逃げ惑う中国軍の歩兵たちへと襲いかかった。

もはや反撃する気力すら失った中国兵たちは、次々と台北の冷たいアスファルトの上に血を流して倒れ伏していく。

午後7時00分。

台湾標準時、午後6時00分。

開戦から、ジャスト44時間が経過した。

「戦術核」という人類最悪の影が、台湾海峡を、そして東京とワシントンを完全に覆い尽くした。

しかし、その絶対的な死の恐怖は、日米台の指導者たちを屈服させるどころか、逆に後戻りのきかない「究極の覚悟」を強要し、戦場をかつてないほど凄惨で、狂気に満ちた消耗戦の極致へと突き落としていた。

48時間のタイムリミットまで、残りあと4時間。

世界が核の炎に包まれるか、それともこの狂気の嵐がどこかに着地点を見出すのか。人類の歴史上、最も長く、最も恐ろしい「夜」が、台湾の空に完全にとばりを下ろそうとしていた。

この話はシミュレーション小説であり現実のいかなる国を中傷するものでは有りません。

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