第一章サージエンス編⑥ テンプレに遭遇すると感動すら覚える
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「今はまだヒミツ♡」
https://youtube.com/shorts/ztOAm6DjzNI
さても白騎士団のご威光とは凄いものだ。
明けて翌日、いの一番に受診とあいなった。
…ホントに他の患者、いたのか?
受付を済ませ待合室で待つ間もなく診察室に呼ばれる。
「フルルさーん。フルル=オヌマーさーん」
せっかくオヌマー姓を名乗る事になったのならと診察カードを「フルル=オヌマー」で登録したのだが、反応があったのはこっちだった。
「いーなー、メルリもメルリ=オヌマーって呼ばれたーい…」
「じゃぁ診察してくか?」
「い、いえ! 特に悪いところはありませんので?!」
…顔真っ赤なのは…健康な証拠、だよな?
診察室には…失礼ながら、その…カバみたいな医者がいた。
…顔でっか。
「診察の前に、フルルさんに会ってほしい方がいるんですがね。入ってもらいなさい」
看護師が奥の病室のドアを開ける。
そこには…誰もいない? いや、いた!
「ルククちゃんっ!」
真っ先に反応したのはフルルだった。
ドア開口部の真ん中あたりにふわふわと浮く人型。
ニンフだ。
「あ、あーら、ど、どうも。おひさしぶり。フルル」
その姿…ビクトリアン調ロングスカートのメイド服に銀髪ポニーテール。
すなわち先日盗賊に捕えられていたニンフだ。
「おや、知り合いだったかね」
「フルルのおともだちなのでして!」
「あーら、わたくしとともだちなんてじゅうねんはやいですわ」
なんてこと言うんだ、このニンフ…と一瞬思った。
違うな。
これはアレだ、ツンデレだ。ツンデレのテンプレそのまんまだ。
その証拠に
「じゅうねんごもおともだちなのでもんだいないのでして」
フルルはさっぱり気にしていない。
なかなかリアルではそうそうお目にかかれない高飛車系ツンデレが今目の前に。
しかもニンフだからちっこい。
よってツンデレの「ツン」の部分がよりツンツンに尖っている気がするぞ。
「ルククは高貴な家柄なのか?」
思い切って声を掛けてみたぞ。
「気安く声を掛けないで頂きたいですわ、このブタが」とか言われちゃうのかな?ワクワク
「いえ、ふつうにしょみんですが、なにか?」
思いの外親しみやすい子だったわ。
「さてルククさんはね、盗賊に捕らえられた際にかなりの怪我をしていたのでこちらで保護していて先ほどまで休んでいたんだがね、フルルさんが来るというので大層楽しみにしていたようでなのでね」
「あらいやですわどくたー、わたくしまったくたのしみになんかしていませんでしたわ」
「わー、ありがとうなのでしてー」
字面的に話が噛み合ってないようだが、当人たちはこれでいいのか?
「さて、ルククさんはそろそろ病室へ戻ってお休みになられないと」
「あらどくたー、わたくしはなんてことありませんことよ?」
「そう言ってウロウロしているとまた落っこちますよ?」
「ううぅ…しかたがありませんわ…びょうしつへもどってさしあげましょう」
「よろしくお願いします」
「ではみなさまごきげんよう。おーほほほ」
バタン
「とまぁこんな感じでね。保護した時にはかなり消耗しきっていたんだが、今ではあんな具合に飛べるところまで回復したんだがね」
「先生、他のニンフは? アイツら運んでいたかもしれないんだけど」
「すでに移送した後だったんじゃないかね。残念ながら保護できたのは彼女だけだったんだがね」
「そうなのでして…」
フルルがあからさまに落胆している。
こういう時にかける言葉をオレは知らない。
何を言っても軽薄な感じがしてならないから。
だから
「また一緒に探そう。そのためにもまずは診察してもらおうか」
「はい…なのでして…」
「ではこれから検査に入りますんで、お二方は待合室でお待ちください」
検査は多岐にわたるそうだ。
レントゲン、エコー、MRIなどなど。
おおよそファンタジー世界じゃ聞かんものだらけなんだが。
「あの、ご主人様」
さっきから口数が激減していたメルリが口を開いた。
「ん? なんだ?」
「あの…あの子、なんかイヤな感じなんですけど」
「あの子…? ああ、ルククのことか。何か変だったか?」
「一族が離れ離れになってしまったのにフルルちゃんにあんな態度って…ヒエロフで会ったあの子みたいで…」
ん? ちょっと怒ってる? …あー、もしや。
「メルリはツンデレって分かるか?」
「ツンデレ? いえ…」
「色々定義はあるようだが、ホントは嬉しいくせに、ついつい照れ隠して相手にツンツンとした態度を取ってしまうってヤツだ。ルククはモロそのタイプだな。毒キノコんとこのアレとはまた別種だ」
「そうなんですか?」
「現にフルルは何も気にしてない、平気の平左だったろ? 多分ルククは日頃からあんなんなんだと思う。そして周りはそういうものと思っているからなんともない。まぁニンフにはニンフの文化があるだろうからよくは分からんが、フルルが気にしてないならいいんじゃないか?」
「そうなんですか。そう…メルリ、そういうの全然分からなくて」
「オレもよくは分からんよ。でも何でも悪意と受け取るよりも理解しようと努力する事も大事だと思うよ。相手が自分の都合だけ押し付けてくるってんじゃなければな」
「そうですか。分かりました。メルリ、がんばります!」
と、ガッツポーズ。
がんばるほどのものでもないけどな。
イヤなら距離を置けばいい、それだけのことなんだが。
「ヒエロフのあの子はツンデレとは違うのですか?」
「アッチはメスガキ、という種だ」
「なるほど…がんばって覚えますね!」
「いや、がんばることでは…」
◆
さても検査の数が多い分、待たされること待たされること。
時計のない世界なのでどれほどかは分からんが、相当な時が過ぎてから
「オヌマーさん。終わりましたので診察室にお入りください」
やっと呼ばれた。
「フルルちゃん、お疲れ様でした」
「ふいー。へとへとなのでして」
と言ってぽすっとメルリの胸の上に乗る。
「さて検査の結果なんだがね、正直、再生は無理なんだがね」
「え…?」
医者にまで来たんだ、何とかなるという淡い期待もあった分、ショックはデカい。
いやオレたちよりフルルの方がよっぽどだとは思うが。
「取られた時に羽を作る特殊な細胞を根こそぎ持ってかれたようでね、もっともこれだけのダメージ、命にも関わるほどのものだったはずなんだが傷口がキレイに塞がっていてね、どういう治療をしたものやら、全く不思議なんだがね」
メルリの笑顔の魔法の威力、恐るべし。
だが考えようによっちゃ、それほどの回復をしたにも関わらず羽が生えて来なかったということは、その時点でダメだった、とも言えるのか。
「そうなのでして…このたびはしんさつしてくれてありがとうなのでして」
お行儀よく礼は言うものの、やはり声に元気がない。
(ちょっとまった! なのですわ!)
ドアの向こうから声がした。
(あ、あの、どなたかここをあけてくださらないかしら?)
看護師がドアを開けると
「あら、ありがとうございましてよ」
ルククだ。この子も何だかんだ礼儀正しいよな。
「はなしはきかせてもらいましたわ!」
「ルククさんは病室だったんではないんですかね?」
「とものぴんちとあっては、ねていられませんわっ!」
多分そこのドアにずっと張り付いていたんだろうな。
「はえてこないというならワタクシのハネをいしょくすればよろしいのですわ!」
「羽の」
「いしょく?」
「このまちのみなさんはとてもよくしてくださるのでわたくしはずっとここでくらしてもよろしいかしらとおもっていましたの。それならハネなんかなくてももんだいありませんもの。ただしじょうけんがありましてよ?」
「条件?」
「おおばばさまをわたしにゆずりなさい!」
「大婆様…って何?」
「やれやれ、仕方ないねぇ」
微かに目を離した隙にフルルは眠っていて、バb神様が現れた。
ルククは両手でスカートと摘むとぺこりとお辞儀をする。
「大婆様って…ばぁさんのことかよ!」
「な、なんてやばんなニンゲン! おおばばさまをそのような!」
おー、怒っとる怒っとる。
「ルククよ、此奴は良いのだ放っておけ。それにしてもルクク、相変わらずじゃのう。フルルの旅の手助けをしたい、同時にわしを旅の危険から避けたいと素直に言えば良かろうが」
「べ、べつにそんなんじゃありませんわ!」
プイっと横を向く。
あぁ…美しきかなテンプレツンデレ。
本音はそんなところだったのか。
やっぱりいいヤツだったじゃないか。
「さてカナートよ。フルルは見ての通り眠っているので決定はお主がせい。どうあってもフルルはお主を恨んだりはせんぞ」
「…ルククはそれでいいのか?」
「とうぜんですわ。さっさとしやがれですわ」
「そうか。ありがとう。せっかくの好意、ありがたく受け賜る」
「か…かんしゃされてもこまるだけですわ」
ルククは真っ赤になって否定する。
「なれば早速始めるとするかのう、医者よ」
「はい。仰せのままに」
医者も深々と頭を下げる。
今さらだが、この神様本当に偉いんだな…
そんなわけでフルルは手術とその後の経過観察ということでしばらく入院。
この街を発つのはもう少し先になった。
◆
ED「この穏やかなぬくもりに」
https://youtube.com/shorts/TfUN7HlPlsI