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* 6話 * 第3王子 シズル=ボックス *

毎日更新6日目です!



 宮殿から飛来した青い電光がジグザグの軌道で空中を走り抜け、俺のもとへと向かってくる。


――練られた魔力の密度が尋常じゃない。



 直撃すれば、俺はともかくバンビは確実に助からない。

 かといって、防御用の呪文を唱える時間はない。



 俺は魔腕の力で身体への重力を操作し、急降下した。

 重力操作で最も速度が出る、下方向への加速。


 稲妻が俺の頭上をかすめる。すんでのところで回避成功。


 外れた雷撃は尖塔にぶつかり霧散した。尖塔には傷1つない。

 対象以外にはダメージを与えない、高等な技術。


 おそらく、距離がなければ躱す間もなく貫かれていただろう。



 俺は植木の陰に身を隠しつつ、電撃の飛んできた方を見やった。

 バンビの住んでいた尖塔から北に見える、宮殿のテラス。


 ここからでは豆粒ほどにしか見えないが、そこに、いた。



 水色のターバンと、鮮やかなブロンドを揺らして、こちらに手をかざしている男。

 遠すぎて顔立ちや表情は判然としないが、それでもなお男の怒気が伝わってくるようだった。



「シズル兄様――?」


 バンビがそうこぼした。



「シズル=ボックス……第3王子か」


 上位王子の名前は俺も把握している。


 特に、親魔派の疑いが強い王子に関しては。



「〈雷〉属性の使い手ってわけね。この距離で、このレベルの威力で、このレベルの照準(エイム)……王子にしちゃ、戦闘技術が高すぎるな」


「シズル兄様は王子の中で1番、魔法の才があると讃えられていました。お父様の遺伝も強くて……わたしの分まで才能を継ぎ尽くしたんだろう、って言ってました。自分で」



「何だそれ、お前とシズルの間に他の兄弟もいるだろうーに、謎理論だな。しかも周りが言うんじゃなくて自分からかよ。シンプルに腹立つな」


 追撃の気配はない。

 せっかく王宮に入れたのだ、ここは1つ、小手調べくらいはやっておきたい。

 


「あんまり手の内見せたくはないが……一撃、入れてみるか」


 俺は左手をシズルのいる方角へとかざした。



「キャスト、風界『風鈴禍斬(フラッグスローガン)』」



 風が金属音のような高い音を鳴らしながら、斬撃の渦となって宮殿へと放たれた。

 

 それなりに殺傷能力がありつつ、魔力消費が少なく、〈風〉属性なので発動が速い。

 コスパが良いので、星界以外の中ではよく使う呪文。

 

 何より、この呪文最大の特長は、標的に到達するまでに巻き込んだ風の量に比例して、効果範囲が拡大していくことだ。

 

 すなわち、遠ければ遠いほど、デカい攻撃になる。



 おまけに”魔腕”からの魔力供給により、通常時とは練られている魔力の量と質が違う。



 風の渦は宮殿までの大気を巻き込みながら、すでにバンビの部屋が4つくらいは包み込めそうなサイズに成長していた。

 そのまま速度を緩めず、宮殿へと到達する。

 


「うわ、マジかよ」

 

 思わず独りごちてしまう。


 俺の放った風の刃が、宮殿の手前で完全に消滅したのだ。

 シズルは微動だにしていなかった。


 防御系の呪文を使ったり、結界が張られていたのだとしても、()()()()()()()なんてことはありえない。

 そんな芸当ができる存在……可能性は1つ。



――いるな。魔族。



「ま、さすがにサブウェポンでどうにかなるような敵じゃないってこったな」



 俺は反撃を諦め、とりあえず目的を果たすために前進しようとした。



 が、その時。

 俺は背後から魔力を練る気配を察知した。



「キャスト――水界『流鎖(ポロロック)』」



 気づいたときには既に、流水の鎖が俺を捕らえるべく放たれていた

 

 術者は俺の背後の花壇の陰にいた。

 青髪にセーラーハットを被った、華奢な女。



 見た目はか細いが、練られている魔力の密度から、その辺の下っ端警備兵とはレベルが違う使い手だと当たりをつける。



「キャスト――星界『星雲招(ネヴュラアワード)』/火界『大断煙(ロースモーク)』」



 すばやく重力の盾を張って水の鎖を撥ね除けつつ、煙幕の呪文を放つ。


 魔腕発動中は全ての呪文の効果が底上げされる。

 水の鎖は俺に到達する前に呪文の斥力によって跳ね返され、さらに火界の呪文によりあたり一体が煙に包まれる。



「流石に高位の警備兵も集まり始めてるな……」


「だ、大丈夫なんですか? どこの門から抜けるにしても、それなりに距離がありますけど……」

 

 バンビのあからさまに不安げな声。



「門なんて行かねーよ。むしろ、目指すのは()()()()()だ」


 俺は煙幕の中を浮遊しながら、中心部へと飛んでいった。



「ま、真ん中ってそんな……中心に近づくほど警備の質は高くなるはずです。危険すぎますよ!」



 バンビの抗議を無視して、俺は建造物と建造物の間を縫うように飛び、しばらく進んだところで着陸した。



「中央部からは全然遠いけど……ま、いいか。ここに設置しよう」


 周囲を壁に囲われ、身を潜めやすそうな一角。



 俺はローブから1本の短剣を取り出し、手の甲に八芒星の傷をつけた。血がゆっくりと滴る。

 俺は短剣を地面に突き立て、宣唱した。



「キャスト。星界『事象平面シュバルツシルツスロート』」



 たちまち、短剣が溶けるように大気と飲み込まれていった。

 座標を記憶したのだ。


「よし、俺のミッションも達成した。さて、バンビ。お待ちかねの大脱走の時間だ」


「脱走って……ここからどう脱走するんですか? 穴でも掘るんですか?」


「地面の中なんて陰気くせーとこ行かないよ。シンプルに言うと――()()んだ」


「跳ぶ」



「予め言っとくけど――酔うぞ」



 俺は長々と修飾句を唱えると、南方、裏王都の方角へと魔腕をかざした。



「キャスト。星片『夢坑(ワームホール)』」



 刹那、魔腕の先の空間が捻れた。


 その捻れを知覚する暇もなく、俺とバンビの身体がその捻れの中へと吸い込まれた。

 体中が世界のどこにも触れていないような、重力すら感じられない浮遊感と、胃と脳の揺れる感覚が五感をないまぜにしながら満たしていく。

 

 やがて、少しずつ引力のような、指向性をもった力を感じるようになる。

 その力の元へと身を任せ――



「お帰り、アスト。どうやら依頼は完遂――してないみたいだね」


 次の瞬間には、目以外のパーツでにっこりと笑うオニキスが目の前で座っていた。


 夢坑――空間を歪め、瞬間移動をする呪文。

 王宮からアジトへと空間を繋げたのだ。


「殺しの依頼は取りやめだ。バンビは俺の弟子になる。よろしく頼むわ」


 俺はやや息切れしつつ、そう言った。

 魔腕の発動は効力がデカい分かなり消耗するのだ。



「こ、ここは――」


 バンビはあからさまに気分が悪そうな様子で、かつ突然の空間転移についていけないようで、ぽかんとしていた。



「裏王都の中心、オニキス=ハローバックの事務所にようこそ」


 オニキスが、口元だけで笑った表情のままで、そう言った。



「初めまして、バンビランド=ウィッチウェイ。こうして面と向かって会うのは初めてだね」


 バンビは「あなたが、オニキスさ……」と弱々しい声で言いかけながら、その顔をゆがめた。

 その顔の蒼白さから、限界、という状態が分かりやすく見て取れた。


「むり。はきます」


「あ」

「おっと」


 さすがに初めての空間転移、酔うのも無理はなかった。

 俺が側にあったバケツをすかさずセットしたことで、被害は最小限に抑えられた。


「裏王都に来て初めての体験がこれ(嘔吐)ってのも、なかなか洒落が効いてるね」


 オニキスが本当に笑う姿を見るのは相当久しぶりだった。


「……センス最悪だな」


 俺が小さく呟くのが聞こえているのかいないのか、オニキスは素知らぬ顔で、


「アスト、ちゃんと設置はできたのかい?」


 オニキスが元通り口元だけで笑う表情に戻り、そう訊いてきた。



「ああ。ばっちり。これでいつでも、王宮に夢坑(ワームホール)をつなげられる」



「素晴らしい。まずは1歩、前進だね」



 使用人やら掃除夫やらの振りをして正面から入る必要はなくなった。

 夢坑を通じて、いつでも侵入することができる。


 これで、親魔派殺しを次のステップに進められる。





 ***



――王宮中央。



 宮殿の南テラスで、滑らかなブロンドを夜気に靡かせながら、1人の男が南方の尖塔を見つめていた。


「――逃したか。まあ、反魔派に身柄を抑えられるよりはマシだが」


 侵入者の気配が消えたことを認識し、苦々しげにそう呟いた。



 その背後から、声がかけられた。


「シズル。今の気配、もしかして」


 夜闇の中で浮き立つような白い肌を水色のバブルドレスに包んだ、華奢な女。

 柔らかいが芯の通っている声音で、シズルの方へと歩み寄っていく。



「ああ、間違いない。《破片(フラグメント)》の力だ。意図も目的も侵入経路も不明だが、間違いない。おそらくは魔腕、魔翼のいずれかだろう」


「確かにそれっぽかったねぇ」


「それから……バンビランドが殺された。あるいは拉致された」


「あら。人質の子。()()()()()()()()()直前に消えちゃうとは。まさかそんなところ狙ってくるとはねー。確かに、誰も第8王子が狙われるなんて思ってないし、あの隔離塔は警備も手薄だっただろうね。うーむ、敵ながらかしこい」


 どこか暢気な調子の女とは対照的に、シズルはあからさまに焦燥が顔に出ていた。


「あの衝撃を感じた瞬間、速攻で現場に行くべきだった。警備兵ごときに初動を任せざるを得なかったのが最大の不運だ」



「近くに居合わせられなくて残念だったねぇ」


 茶化すように語尾を上げる女に対し、シズルは睨むように一瞥しながら、


()()()()()()()にとっても、良い話ではないはずだ、テレサ。破片を持っている奴は、王宮側と敵対する存在だということになる。早急に《破片》を奪い返す必要がある」


「分かってるよ。そのために同盟組んでるわけだし、本気で協力するよ」


 肩をすくめながら、テレサはそう言った。



「けど、どうせシズルのことだし、ある程度アイディアはあるんでしょ? 魔腕の持ち主をあぶり出す策」


 テレサが妖しく笑った。

 シズルは煮え切らない表情のまま、頷いた。


「禁呪を使う。直接的にではなく、間接的に利用する形で。魔腕の持ち主は必ず見つけ出して腕を取り戻す」


「簡単に言うけど、王宮に侵入して、王子を殺して脱出までしちゃう相手だよ? できるのかな、シズルくん」


 悪戯っぽく笑うテレサに対し、


「できる。やり遂げる。安心して見ていてもらっっていい」


 シズルは毅然として答えた。



「私には”魔眼()”があるのだから」




最後までお読みいただきありがとうございます!

ここで1章が終わり、次から2章に入ります。


まだまだ毎日更新していきますのでよろしく!

明日も20時更新予定です

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