* 10話 * 尋問タイム *
タイトル変更しました!
引き続きよろしくです。
「――」
小太りの男が口を開こうとした瞬間、男の魔力のゆらぎが伝わってきた。
俺は即座にバンビとサナウェイに向けて叫んだ。
「俺の後ろに入れ!」
俺の指示と、男の宣唱は同時だった。
「――キャスト。結晶溶解『強化鍛認』」
宣唱と同時に男の魔力が跳ね上がった。
その小太りの、鈍重そうな身体とは明らかに不釣り合いなエネルギーが漏れ出している。
「――使いやがったな、”禁呪”の呪文結晶。持ってたのかよ」
俺の呟きに、サナウェイが焦燥のこもった声で、
「ちょっと、あの魔力量ヤバいんじゃない? さっきとは桁違い――」
「キャスト! 星界『星雲招』」
男が目にも留まらぬ速度で拳を撃ち込んでくるのを、かろうじて間に合わせられた重力の盾で受け止める。
そのまま重力の方向を操作して受け流し、男の拳を地面へと逸らした。
轟音とともに、石畳が割れた。
「マジか」
想像以上に身体能力が増強している。
さすがにあの拳を食らったらひとたまりもない。
そして、身体能力が強化されるということは、すなわち――
男が咆哮のように俺に向けて叫んだ。
「金、置いてけば、許す。金、置いてけ。金、次の、結晶買える、金、置いてけ――」
おそらく読み通り、呪文結晶を使い切ってしまい、次を買う金が無かったんだろう。
「やだね。禁呪だろうがなんだろうが、雑魚は雑魚のまんまだろうがよ」
男は俺の軽い挑発には乗ってこず、というより聞こえていないような様子で、唸るように修飾句を並べ立て始めた。
「やべえ、来るぞ! 俺はスタンバイする! サナウェイ、お前が守れ!」
身魔一意。
身体能力が強化されるということは、同時に魔法出力の強化を意味している。
「もうやってる――キャスト!」
サナウェイが歯切れ良く宣唱した。
「キャスト! 金界『大銀城』」
「キャスト! 石界『刃甲投石』!」
サナウェイが銀の城壁を発現させるのと、男が石片の雨を放つのはほぼ同時だった。
石の刃が銀の壁へとめり込む激しい音が幾重にも響いた。
バンビが悲鳴を上げる。
狙いを外した刃は石畳にめりこみ、馬鹿みたいなひび割れを作っている。
一片一片が異様な破壊力。
こりゃ死人が出るわけだ。
サナウェイの盾はなんとか耐えているが、いつ決壊してもおかしくない。
さっさと仕留めよう。
「雨には雨、だな。キャスト――星界『流星軍』」
俺はサナウェイの盾に隠れつつ、上空へと魔力を昇華させ、宣唱した。
奴の身体能力の強化具合を踏まえて出力を調整し、死なない程度の威力に抑える。
ほどよい殺生能力を持った流星の雨が男へと降り注ぐ。
「金――」
男が流星を避けようと身構えたが、回避など許すような甘い速度じゃ無い。
星の雨は狙い通り男へと墜ち、男は鈍い断末魔を上げながら倒れた。
**
「3つ選択肢をやる」
俺は小太りの男に向けて3本指を立てて言い放った。
すでに呪文結晶の効力は切れたらしく、男から強い魔力は感じられない。
「その1。無重力3次元メリーゴーランド。無重力のなかで前後左右上下に回転させ続ける。多分3分以内に吐くと思うから、それ以降は自分の吐瀉物と一緒にぐるぐる回る。最高のアミューズメントになるよ」
指を1つ折る。
「その2。雲の上から自由落下キャッチボール。サナウェイが上空からあんたを落として、俺が星の呪文でキャッチして斥力で上空に打ち返す。サナウェイがキャッチしてまた落とす。意外と気持ちいいかも? ただし胃とかその他の内臓がマラカスみたいにシェイクされるから間違いなく吐く」
さらに指を折る。人差し指だけを立てた状態に。
「その3。禁呪の呪文結晶について知ってること全部話す。さ、選べ」
「何でも話します」
男は両手を上げて従順を示した。
まあ誰でもそうするわな、という態度。
俺は早速質問を始めた。
「お前、この呪文結晶使ってどのくらいになる? 量と期間を教えてくれ」
「初めて、使ったのは、1週間、前から。毎日、喧嘩してた、から、毎日、使ってた。1回喧嘩するごとに、1回。さっき、使った、のが、最後の1つ」
呂律がいまいち回っていない上に、やたらと区切りの多い口調。
苛々するが、我慢して質問に進める。
「使うときの手順は? 通常の呪文結晶を使うときと同じか?」
「同じ。結晶溶解の呪文を唱えるだけ」
「使うとどうなる? ……まあ、さっきの見てたらある程度分かるけど」
「身体が最強になる」
「いいね、そういう頭悪い回答好きだわ。効果の持続時間は?」
「5分も、保たない。5分も、たたずに、敵、倒せるけど」
「副作用みたいなものはあるのか?」
「使ったあと、身体バキバキになる」
身体の限界を超えた動きをすることによって反動が来るのだろう。
ついでにいうと、脳の状態にも悪影響を及ぼしてそうだ。
こいつのこの喋り方は、生まれつきってわけじゃないだろう。
ここまではおおむね想定通りの問答だった。
ここからが本題だ。
「じゃ、お前、これをどこから手に入れた?」
男の顔色がさっと変わった。
「それは本当に無理。マジ無理なんです許してください」
「OK。サナウェイ、キャッチボールの用意しといて」
「いやほんとに勘弁して下さいどうしてもそれだけは無理なんです」
男はそれまでの途切れ途切れの話し方とは打って変わって、怒濤のように「無理」と繰り返した。
相当きつい口止めをされているらしい。
「心配するなって、お前がチクったなんて誰にも言わないし。さくっと話してくれよ」
サナウェイも同調して、
「そうよ。だいたい、単純に考えてみなさい。あんたが誰から呪文結晶を買ったのかしらないけど、あたしたちと比べてそいつの方が怖い? そんなわけないでしょ」
サナウェイの言葉に、男は半泣きになりながらも、覚悟を決めたようだった。
「俺が買ったのは、う――」
男が喋ろうとしたそのとき。
男の口が、火を吹いた。
「ぎゃああああ――――」
鈍い、耳の奥で何度も反響してしまうような、嫌な悲鳴。
男の口から、水色の炎が煌々と立ち上っていた。
斗型
「マジかよ。くそ、水界はあんま得意じゃないが……キャスト――水界『達水消浄』」
俺の宣唱とともに、水の球体が男の口を包み込んだ。消火と治癒を一度にできる呪文。
火はどうにか収まったが、男は気を失ってしまった。
「罠タイプの呪い……相当ハイレベルな術者ね」
「ああ……」
俺とサナウェイが意見を交換していると、バンビが狼狽しながら横を指さした。
「アストさん、あっちの人たちも!」
目をやると、バンビが倒した2人の男達の口元が燃え上がっていた。
「――連帯責任、ってわけか。どんだけ複雑な呪いだよ」
俺は再び消火の呪文を唱え、2人の口から立ち上る炎を消し止めた。
ひと呼吸の間があり、場は静寂に包まれた。
「……こいつはなかなか、エグそうな案件じゃねーか。ここまで徹底した口封じは久々だ。」
「あたしも正直、ここまでややこしい案件だとは思わなかったわ。けど――こんなにヤバいブツ、ヤバい売り手がいるのに、あたしに全く情報が入ってきてないのは屈辱ね。悪いけどもう少しつきあってもらうわよ、アスト」
「もちろん、俺もそのつもりだよ。で――これからどうする? とりあえず禁呪の呪文結晶ってやつの破壊力は理解した。次は流通ルートを探りたいところだが」
「今回の件を教えてくれた、あたしの商売仲間の商人のところに行こう。中央区にいるわ」
サナウェイが箒にまたがりながら、北東側を指さした。
中央区――王都で最も栄えている行政区。
王宮があるのも中央区である。
「そいつが最初に、この呪文結晶の存在を察知してた。何より、王都の流通に詳しい。表も裏もおしなべて、ね」
サナウェイの口調から、その商人とやらに信頼を置いているのが伝わってくる。
「早速行こうか。中央区なら治安もいいし、気も抜けるだろ。で、その商売仲間ってのは何者なんだ?」
俺の問いに、サナウェイは曖昧に笑いながら答えた。
「あんたも知ってる奴よ、アスト。ユージン=ドルフィン。子供の頃、裏王都のゴミ部屋で一緒に遊んでたの、覚えてる?」
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