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* 9話 * バンビ、デビュー戦 *

バトル回です!



 黒髪を綺麗に結い上げ、特に鎧や護符など身につけていないシンプルな服装。おまけに、手には日傘を持っている。


 バンビの恰好は、どう見ても戦闘員には見えない。

 別にその恰好でいいと俺が言ったのだ。



 自分でも戦闘するとは思っていなかったのだろう。

 バンビは本気で驚いていた。


「流石に無理です」


「露払いは助手の仕事だ。俺の助手として、あいつらを倒せ。戦い方は教えたはずだ」


 目の前の恐喝男2人組を顎で指しながら、俺は再度指示を出した。



「ちょっとそんな」


 バンビは恐怖の行き先を探すかのように、日傘をぎゅっと握りしめていた。



「悩むなんて贅沢、あいつらは許してくれないと思うけど?」


 サナウェイの忠言を裏付けるように、2人組の片方、銀髪の男が三日月刀(シミター)を抜いた。



「金になるものくれよなあ、金になるもの何でもいいからなぁ」


 異様な抑揚のつけ方で叫びながら、男がバンビへと斬りかかった。

 横薙ぎに首を払う、殺意を一切隠さない一閃。


「え、止めないの? 普通に死ぬわよ?」

 

 サナウェイが多少の焦りを帯びた声でそう言ったが、俺は動かなかった。



「じ、人界『交換敢行(ハローグッバイ)』」


 噛みながらもバンビが素早く宣唱した。


 次の瞬間、男の手に握られていた三日月刀が、()()に変わっていた。

 振り抜かれた日傘を、バンビが三日月刀で受けた。

 

 日傘は両断され、バンビには傷1つついていない。

 男が困惑している隙に、バンビが素早く後退して距離を取った。



交換敢行(ハローグッバイ)――魔法習熟の初期に教える、低級の呪文じゃない」


 サナウェイが呆れたように――そして、一方では感心するように、そうこぼした。


 交換敢行(ハローグッバイ)は似たような形状・種別の物体の位置を変える効果を持つ。

 きちんと対象を識別する必要があるが、重量に関係なく交換できるので、運送などでよく使われる呪文。


「ああ。実際、初めて教えた呪文だしな。低級だが――戦闘中に、あそこまで素早く、しかも正確に剣と日傘を交換するってのは、そうそう簡単にできる芸当じゃないだろ?」




 距離を取ったバンビは一呼吸置いた後、呪文の修飾句を唱え始めた。


「相手が剣を抜いた瞬間から、交換させる2つの物体にがっつり意識を向けとかないと失敗する。口では戦うのを嫌がってたけど、ちゃんと準備してたんだよ、あいつ」



 男が再び、バンビに向けて殴りかかりにいった。

 どうみても身体能力で勝っているバンビ相手なら、たとえ剣を奪われても殴り勝てると思ったのだろう。



 だが、もう遅い。

 修飾句は唱え終えている。



「キャスト――木界『木撃射(ウッドネス)』」


 バンビの宣唱とともに、バンビが手にした三日月刀から勢いよく木が生えた。

 


 木は幾重にも枝分かれしながら男へと到達し、網のように男を絡め取ったかと思うと、そのまま後方の石壁に猛然と叩き付けた。

 男はあっけなくノックダウン。



 戦闘において、ほとんどの魔法の発動は相手の物理的攻撃に遅れを取る。

 だからこそ、発動の速い低級呪文で隙を作れれば、大きなアドバンテージとなる。


 俺の教えたとおりの動き。

 やはりバンビは優秀な生徒だ。


 だが、敵はもう1人いる。



「キャスト。石界『刃甲投石(ダイアリシスロー)』」


 2人目、スキンヘッドの男の宣唱と共に、鋭利な石片が雨のようにバンビへと襲いかかった。



「人界『交換敢行(ハローグッバイ)』!」



 あらかじめ予期していたかのような素早い行動。


 バンビの宣唱とともに、()()()()()()()()()()()()()()()が入れ替わった。




「生物同士の交換もできるの!?」


 流石に驚いたのか、サナウェイがそう訊いてきた。

 だが、驚いたのは俺も同じだ。

 

 物体同士の交換なら、きちんと意識を注いで識別することさえできれば難しくない。

 だが、生物同士の位置交換となると、そうそうできる人間はいない。

 そもそもそこまでこの呪文を鍛錬する人間がいないからだ。



 低級呪文でも、戦闘で使えるレベルに昇華させる鍛錬――俺の見えないところでも、相当の時間を使っているようだった。


――思った以上の努力家、あるいはセンスの持ち主なのかもしれないな。



 気絶した男に、石片の雨が降り注ぐ。

 呆気にとられ、ぽかんとしているスキンヘッドの男に、バンビが駆け寄りながら左手をかざした。


「キャスト――木界『木撃射(ウッドネス)』」


 先ほどと同じ呪文。

 樹木がスキンヘッドの男に絡みつき、そのまま一度宙に振り上げ、地面へと叩きつけた。なかなか強力な一撃。


 スキンヘッドの男もノックダウンし、静寂が降りた。


 一連の完璧な流れに、サナウェイが口笛を鳴らながら拍手した。


「やるじゃん、お嬢様」


 バンビは自分がしたことを飲み込めていないように、呆然としたまま呟いた。


「勝てた……」



 その時。

 俺はバンビの背後から鋭い気配を感じ、スタンバイしていた呪文を即座に宣唱した。



「キャスト! 星界『星砲慧(スクエアグラム)』」


 バンビの背後の石畳に向け、星の弾丸を撃ち放つ。

 石畳が不自然に砕け、その下に潜んでいた男を弾きだした。


 おそらくは、地上の男2人が仕留め損なった場合に備えて、確実に不意をつけるよう地中に潜伏していたのだろう。



 弾き出された小太りの男は寝転がりながらも、好戦的な顔でこちらを睨んでくる。

 が、2発目をすぐ側に撃ち込むと、一瞬で殺気を解き、その場に硬直してしまった。



「バンビ、今のお前の戦闘はデビュー戦だってことは忘れるくらいに完璧だった。だが、目の前の敵を倒したからって気を抜くのはNGだぜ。減点5点の95点、ってところだな」


 バンビが真剣な面持ちで頷いた。


「たった5点だが、その5点で命を失う。いつでも俺やサナウェイが側にいるわけじゃない。常に100点が要求される。それを覚えててくれよ」



「……そんなこと言って、戦闘中ずーっと呪文のスタンバイしてたんだから。あんたも相当甘いけどねぇ」


 悪戯っぽくサナウェイが笑う。



「うるせえ。ま、総じて――よくやった、バンビ。無理矢理行かせて悪かったな。けど、結局のところ現場が1番の教材だから」



「わたし、魔法で戦えました……勝てました。アストさんのおかげです」


 バンビは瞳をうるませながらそう言った。



「紛れもなく、お前の力だよ。――さて。それじゃ早速、こいつに話を聞こう」


 俺は地中に潜んでいた小太りの男へと目を向けた。



「……なあ、お前ら3人組……()()()()使()()()()()よな?」


 邂逅した際、最初に感じた違和感――こいつらから感じられる魔力は弱小だった。

 禁呪の呪文結晶を使っているにしては、魔力が弱すぎる。



 だが、それにしては魔力のゆらぎが大きすぎた。

 一度、限界を超えた最大出力を経験している兆候。



「俺の予想じゃ、お前らは禁呪の呪文結晶を使っていた。だが、金がなくなったかツテがなくなったか、あるいはその両方かで呪文結晶を手に入れられなくなった、ってとこだろ。違うが?」



 小太りの男は、怯えながら口を開こうとして――





最後までお読みいただきありがとうございました!

ここで書き溜め分が尽きてしまいましたので、

次回更新は10/5(土)の20時です!


引き続きどうぞよろしくお願いします!

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