異世界転生を起こす
※ ※ ※
「ここは何処だ?」
俺の名前は歳破神綾礼寿。泣く子も黙るキラキラネームだが、ツッコまないでくれ。そのセリフは聞き飽きた。
まず状況を整理しよう。
日曜日、つまり休日に遠出しようと自転車を漕いでいた俺は、交差点で車に撥ねられた。
しかも撥ねられた先でも他の車に撥ねられ、即死したと考えられる。
「ならどうして意識がある?」
それにこの場所も変だ。
真っ白な空間。
「まさか、異世界転生なのか?」
「そのまさかです」
女性の綺麗な声がした。
いや、綺麗なんてものじゃない。鈴を転がすような声、俺が思いつく表現はこれくらいしかないが、そんなものじゃない。
……女神の声に気を取られていたが、もっと重要な事があるだろ、俺。
「本当に異世界転生を?」
「はい」
そうか……
「うおっしゃぁぁ!!」
「……」
俺は自分の名前が嫌いだった。
どこに行っても馬鹿にされるし、小中学校時代はいじめられていた。
それに、改名を親に訴えても聞き入れて貰えず、殴られた経験もある。
世の中が地獄に見えていたあの頃、俺は一冊のラノベに出会う。
中学校二年生の夏、教室に一冊の本が落ちていた。
あれ程のいじめを受けて尚、違うな、あれ程のいじめを受けていたからこそ、悪いことはするまいとその本を拾い、職員室に届けようと考える。
そして、まぁ、本を拾えば読んでみたくなるのが人間の性というもので、俺も例に漏れずその本を読んでしまった。
――そう、これこそ俺が最初に出会ったラノベだ。
いじめられる事に忙しくて娯楽らしい娯楽に手を出せなかった俺にとって、ラノベは自分に足りないものを補ってくれる存在にすら思えた。
高校生になってかっらオタクライフを満喫していた俺は、ある事をふと思う。
『異世界に行きたい』
今まで虐げられてきた人間だからこそ、英雄として扱われる事を激しく求めた。
勿論人生そんな上手くいくとは思っていない。でも、夢を見る事までとやかく言われる筋合いは無い。
それに、……俺の名前を馬鹿にする人間もいないはずだし。
「えっと、それで俺はこの後どうなるんですか」
ずっと無言では悪かろうと、質問をする。
「あなたは幸運にも異世界に、記憶を持ったまま生まれ変わる権利を手に入れました」
未だに女神は姿を見せないが、些事に過ぎない。
「更に、異世界で苦労をしないように、特殊能力も与えましょう」
と、女神は続けた。
異世界転生、しかもチート付きとは理想的すぎて、嬉しい反面怪しくも思う。
「もしかして、魔王を倒す必要とかがあるのか?」
「……その必要はありません。強いて言えば、世界に刺激を与える存在として動いて頂ければ幸いです」
その言葉を聞き安心した。
「転生の件ですが、胎児、もしくは現状と同じ身体で転移するか、どちらかをお選びください」
胎児からとこの身体そのままの二通りがあるのか。
どちらにもメリットデメリットはあるし、正直悩みどころだ。
「……胎児から出お願いします」
寿命、住む家などの問題を考慮し、俺は胎児からやり直す事を選んだ。
「わかりました。では良い異世界生活を――」
案外あっさりとしているな、という感想を抱く。
「心からお祈り致します」
「え?」
最後の言葉、俺の背後から聞こえた。
さっきまではどこからともなく聞こえていた感じだったのに、どうして、そう思い後ろを振り向くと――女神がいた。
事実上の女神という意味でもそうなのだろうが、俺はその容姿を指してそう言った。
美しい、そんな言葉さえ凌ぐほどの美少女がいた。
しかし、その御姿を目に焼き付ける事ができないうちに、俺は転生してしまった……
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