ラブレター
月が木の後ろに隠れた。小学校の校庭で月見をする私たちからはそう見えた。
「沙夜。燵淤と結婚して何年だっけ~?」
酔っ払いの呂律のおぼつかない言葉に同じように酔っぱらった頭が昔のことを思い出させる。
「ん~・・・12・・・年?・・・だっけ?」
「ほれ、水。14年だ、短くすんなよ。深香芽の年齢だぞ。」
お酒を一滴も飲めない私の夫は、苦笑いして私よりしっかりと覚えている結婚生活の時間をこたえる。私は差しだされた水を受け取り、璃李に答える。
「14年だって~。」
「だって~。」
キャハハと繰り返された語尾に笑いあう。
「燵淤~。飲め~。」
酔っ払いはもう周囲が見える状態ではなくなっている。
「友平、水。」
酒が飲めんと言ってんのに、勧めてくる。俺が酔い潰れたら、こいつ、どうやって帰るつもりなんだ?
「燵淤~。水じゃなくて~酒~。」
「あー、はいはい。それ飲んだら酒やっから、まず水な。」
沙夜も璃李ももうそろそろつぶれるだろう。
『月が満ちるように君に恋をしています。だけど、月が欠けるようには恋を失くさず、愛で欠けた部分を埋め尽くしたい。君がこの手紙を読んで、少しでも僕に時間をくれるなら、放課後屋上で待っています。』
・・・これは見つけてはいけない物だ、と思う。・・・・でも、まるで読んでくださいと言うように机の上に広げて置いてあるということは・・・・いや、そんなことはない。絶対に。・・・・見なかったことにしよう。違う、お父さんには謝っておこう。お母さんが勝手に私の机でお父さんからのラブレターを読んで、そのまま置いて行くから私には非はないと思うけど。でも・・・・お父さんからのラブレターって今とそんなに変わらないんだなぁ。
3人を車に乗せる。缶も瓶も分けて袋に入れ、ゴミと一緒にトランクへ。シートをたたんで、同じようにトランクに積む。
「帰るぞ~。」
返事なんて返ってこない。酔い潰れてシートに座った途端にいびきをかく始末。それも、3人そろって。
うるさいいびきでないのが幸いだ。起きない程度の音量で音楽を流す。
『♪君が好きだとまっすぐに言えなくて
♪君は僕の太陽なんだと言う
♪もっと恥ずかしくなって
♪赤くなる顔を君の視線からそらそう
♪追いかけてくる君の視線に僕はとらわれた
♪君は笑って僕を見る
♪じゃああなたは地球なの?って
♪君が僕に愛をくれる
♪太陽の恩恵を受ける地球は
♪確かに今の僕にはぴったりだ
♪君が笑って言う
♪ちょっと付き合って
♪うなずくことしか僕にはできない
・・・・・・・』
MDに入れっぱなしで隠している沙夜へのラブレター。今だけなら、流していても聞かれないだろう。
曲が終わったら、CDを流せばいい。
『♪愛しているよ
♪貴方が大好き
♪貴方は知らないけれど
♪私は貴方に一目ぼれだった
♪貴方に振り向いて欲しくて
♪たくさん頑張ったの
♪愛してるよ
♪貴方が大好き
♪恥ずかしくていつもは言えないけど
♪私を愛してくれてありがとう
・・・・・・』
思わずブレーキを踏んだ。一曲しか入っていないはずのMD。沙夜へのラブレターが終わった後から流れてきたのは、間違いようのない沙夜の声。
「車の通らない道で助かった。・・・・これ、聞かなかったことに出来ないかなぁ。」
CDをかけてアクセルを踏む。聞いたことのなかった沙夜からの“愛してる”。運転中に、しかも本人が酔っぱらって寝ている状況で―ましてや、2人友人が寝ている状況で―、聞いてはいけなかったと思う。驚きすぎて、この道でなかったら、事故っていたかもしれない。
・・・・ラブレターは当分書かないでおこう。
「あれ?でもなんで私の部屋にお母さんが居たんだろう?・・・・・・ん?・・・・・あ、これ・・聞いちゃいけないんじゃ・・・・ってか、消していってよ、お母さんたらっ!」
2012/08/25




