技
「何のことでしょう?」
グレーテルは表情を変えないまま魔女の視線を受け止め、小さく首を傾げました。魔女は不信げに目を細めます。
「とぼけるんじゃないよ。幻の中で『魔女』に投げたろう? 偶然とは言わせないよ」
グレーテルはかすかに笑みを浮かべて答えました。
「憶えていないわ。あのときは夢中でしたから」
魔女はじっとグレーテルの目を覗き込みます。グレーテルは凪いだ瞳で見つめ返します。ふん、と鼻を鳴らし、魔女は呆れたように言いました。
「可愛げがない子供だね。まあいいさ。知らないというなら教えてやる。見てな」
魔女は立ち上がり、部屋に散乱しているガラス瓶の中から黒い粉末が入ったものを選ぶと、粉末を白いつるつるとした皿に移しました。グレーテルは皿の粉末を見つめます。
「それは?」
「鉱石を砕いて焼成したものだ」
魔女はそう言いながら、机に置いてあった細いガラス棒を手に取ると、同じく机の透明なガラス瓶の蓋を外しました。わずかに緑がかった透明な液体がぬらりと光を反射します。魔女は慎重にガラス瓶の口にガラス棒を当て、ゆっくりとガラス瓶を傾けました。粘りを帯びた透明な液体がガラス棒を伝い、ぽたり、皿の黒い粉末に注がれます。
――ジュッ
液が粉末に触れた瞬間、皿の上が鮮やかな青緑色に染まります。液体は激しく泡立ち、ツンと鼻を刺す異臭が広がりました。
「息を止めときな。うかつに吸い込むと死ぬよ」
グレーテルが素早く両手で口と鼻を覆います。同時に窓が自然と開き、外から風が通り抜けました。しばらく発泡していた液はやがて落ち着き、皿の上には絵の具のように鮮やかな粘り気のある物体が残りました。グレーテルは呆然と皿を見つめています。魔女は「ふぅん」とグレーテルを眺めて言いました。
「『緑礬の油』は知っていても、どう使うかは知らなかったようだね」
グレーテルは魔女に視線を移します。
「これも、魔法?」
魔女は首を横に振りました。
「いいや。これは魔法じゃない。同じものを使い、同じ手順で行えば誰でも再現できる。これは薬学――医療の技だ」
「医療――」
グレーテルは口の中で魔女の言葉を繰り返します。ガラス棒をガラスの空き瓶に入れ、魔女は青緑色の液体が乗った皿を手に取りました。
「数多ある鉱物から成分を抽出し、薬効を調べる。鉱物だけじゃない、植物、動物、試せるものは何でも試すよ。効果のあるものを選別し、今度は組み合わせを試す。ある病に効くものと別の病に効くものを合わせれば両方に効くものができるはず――その無限の試行の果てに、万能薬エリクシールはある」
魔女はグレーテルをひどく冷たい目で見下ろします。
「時間はいくらあっても足らない。喰われるまでの半年、その小賢しい知恵で私を補佐してみせな」
魔女の言葉が届いているのかいないのか、グレーテルは何も答えず、ただ魅入られたように皿の上の物体を見つめていました。




