開戦前に詰んでいます
全4話のコメディーです。
日曜日のお昼頃に完結予定です。
北方の小国にて。宴の最中に、宮中伯の一人が謀反を起こしました。
(あと少し⋯⋯、あともう少しで、推しの宮廷楽士、ギル様の出番だったのに⋯⋯!)
当然、宴どころではありません。演奏は中止され、わたくしは国王夫妻を連れて、塔に逃げ込みました。侍女服を握りしめ、謀反を起こしたアランへの怒りに震えます。
しばらく膠着状態が続きましたが、城を取り囲む反乱軍の中から、首謀者のアランが前に歩み出てきました。
「国王ローハン、大人しく降伏せよ! 今降伏すれば、国王夫妻以外は助けてやろう」
逆に言えば、ローハン陛下と王妃のソニア陛下は助からないということです。わたくしは窓から身を乗り出し、叫びました。
「アラン、宮中伯の一人でありながら謀反を起こすなど、恥を知りなさい!
たしかにローハン陛下は文官と間違えられるくらい影が薄いし、武術師範に『私が教えられることは何もありませんな⋯⋯悪い意味で』と、さじを投げられるレベルの運動音痴ですが!」
「えっ、悪口⋯⋯?」
ローハン陛下が何かおっしゃいましたが、興奮するわたくしの耳には入りません。
「でもたぶん良いところもたくさんあります! それは、えーと、頭が良いところとか、頭の回転が早いところとか、あとなんだ、えーと⋯⋯くっ、出てこない⋯⋯!」
「⋯⋯ねえ、余の良いところ、二つだけなの? ていうかそれ、実質一つだけだよね?」
陛下が半目で尋ねてきました。
わたくしたちのやり取りを聞いて、アランがせせら笑います。
「ふん、弱き王など何の意味がある。私が忠誠を誓った相手は先王陛下のみ。
知っておるぞ、城内の酒が多く消費され、国外に機密情報が漏れていること。
遊興にふけり、間者の侵入にも気付けない王など不要! 愚王を打ち倒し、私がこの国を立て直す!」
アランの力強い宣言に、反乱軍が「うおお!」と沸き立ちます。その勢いに、陛下はさらに弱気になってしまったようです。
「⋯⋯やはり降伏するしかないんじゃないか? 余が降伏すれば、そなたらは助かる。できれば、王妃の助命を嘆願したいところだが⋯⋯」
視線を落としてぽつりと言います。
これはいけませんわね。暗い雰囲気を打ち消すためにも、何か明るい話題を⋯⋯。
「し、しっかりなさいませ! 今、メイドのニーナが助けを呼びに行っています。
宮中伯の一人、アルジュンは弓の名手です。彼が来れば百人力ですわ!」
「なにっ! それはまことか?
アランは槍、アルジュンは弓でその名を轟かせている。しかも、二人は従兄弟で同等の兵力を持つと聞く⋯⋯。アルジュンが助けに来れば、アランは兵を引き揚げざるを得ないだろう」
アルジュンは実直な男なので、反乱軍に与することはありません。
「王妃つきメイドの姿がないからてっきり逃げたと思っていましたが、ニーナは助けを呼ぶために離脱しただけだったとは⋯⋯。疑ってしまい申し訳なかったです」
無邪気に喜ぶソニア陛下。わたくしの顔が盛大に引きつりました。
◇◇◇
実はニーナは反乱軍が蜂起した瞬間に、脱兎のごとく駆け出していました。彼女の危機察知能力と保身にかける情熱を見込んで、わたくしはとっさに宝石を投げました。
ぱしっ。
数メートルの距離をものともせず、彼女は華麗にキャッチしました。
(えっ、今もしや前方ニ回半ひねりをしました?)
大技に戸惑いながらも、彼女に向かって叫びます。
『それあげるから、砦を守っているアルジュンを呼んできて!! 彼が来るまで、わたくしは籠城して陛下をお守りします!』
わたくしがそう言うと、彼女は妖艶に微笑みました。いつもは結んでいる髪をほどいて、今は右肩に流しています。不敵な笑みは、わたくしが知るニーナではありませんでした。
『あらぁ、さすがね。私が西方の間者だと見抜くなんて』
『えっ、何のこと⋯⋯』
『とぼけなくていいわ。私を試すために、宝石を投げたんでしょう? とっさに、普通のメイドではありえない反射神経を見せてしまった⋯⋯。私の完敗だわ』
よくわからないけど、褒められて悪い気はしません。
『それに、西方までの道中にちょうどアルジュン閣下の砦があるのも、偶然とは思えないわ。
おそろしい子⋯⋯。いつから私が西方の出身だと見抜いていたの?』
貼り付けた笑顔のまま、畏怖するような目線を送ってきます。明らかに勘違いなので、流し目の無駄遣いでしかありませんが。
『⋯⋯ふっ、答える気はなさそうね。まあいいわ、素直に負けを認めて、あなたの望みを叶えてあげる。もらった宝石分はきっちり働くから期待してて』
ウインクするなり、スカートの裾を両手でつまみ、わたくしに背を向けます。シュタタタ、とメイドにあるまじき脚力で走り去っていきました。おそらく、馬小屋に向かったのでしょう。
結局、状況が飲み込めないまま、ニーナは嵐のごとく去っていきました。まあ、あの様子なら約束どおりアルジュンを呼んでくれるでしょう。
◇◇◇
――はい、回想終わり。
ていうか思いっきりいましたね、間者。アランの言うことも、あながち間違っていないような気がしてきました。
⋯⋯はっ、ダメですわ! わたくしはいかなるときも陛下をお守りするのです!
それに、わたくしは一人ではありません。
「ローハン陛下、ソニア陛下。ご安心ください。アルジュンが来るまでは、わたくしたちがお守りしますわ。」
「シャリニ⋯⋯。だが、馬でもアルジュンの砦まで半日かかる。アルジュンが来るのは最速であさっての夜だろう」
普通のメイドなら、ですわね。ニーナならもっと早く着くのではないでしょうか。
そこからアルジュンが挙兵して救援にくるのは、ざっと見積もって明日の夜。つまり、わたくしたちは明日を持ちこたえれば良いのです。
「アルジュンが一刻も早く駆けつけてくれることを祈りましょう。
でも大丈夫ですわ。ここにいるのは数名ですが、裏を返せば、この絶体絶命のピンチでも裏切らなかった忠義者ばかり。きっと良い働きを見せてくれることでしょう」
城まで必死に走ってきたので、後ろを振り返る余裕はありませんでした。でも、隙のない足音から、騎士だということはわかっていました。
さぞかし勇気ある猛者がついてきてくれたはず。期待を込めて、心強い仲間たちを振り返ります。
――ところが。
「ちょっとちょっと、前フリ長すぎ〜。ローハンもソニアちゃんもあたしのこと空気みたいに扱うのやめてよ〜。
まあ、あたしサバサバしてるから? 別にこだわらないけどさ〜」
「くっ、殺せ⋯⋯! 宴で酔った勢いでついてきてしまうとは一生の不覚ッ!まさか謀反が起きていたとは⋯⋯!」
ん? 心強い仲間たちはどこ? 勇気ある猛者はどこかな〜?!
きょろきょろと辺りを見渡してみましたが、どう見ても国王夫妻以外はわたくしたちしかいません。
国王夫妻についてきた臣下は三人。自称サバサバ系女騎士のバルサと、しょっちゅう「くっ、殺せ⋯⋯!」と言っている女騎士キラン、そしてわたくし。
⋯⋯この籠城戦、早くも詰んでいませんか?
次回は土曜日のお昼頃にアップする予定です。
どうぞよろしくお願いします。




