王城での調査開始
【第二章 第41話】
王城での調査が始まりました。
そこにいるのは、優秀な人間ばかり。
それでも、どこかに歪みがある。
直人たちは、一人ひとりの声を聞き始めます。
王城へ足を踏み入れるのは、これが初めてだった。
高い城壁。
広い中庭。
整然と並ぶ騎士たち。
廊下を行き交う文官たち。
外から見れば、すべてが完璧に機能しているように見える。
けれど――。
「……思っていたより、人が多いな」
俺がそう呟くと、隣を歩いていたセリアが小さく頷いた。
「はい。でも、少し変ですね」
「変?」
「人の数は多いのに、どこか忙しさが偏っています」
さすがセリアだ。
まだ調査を始めたばかりだというのに、すでに何かを感じ取っている。
俺たちの後ろでは、レオンとエドも周囲を見回していた。
「確かに、あっちの部署は人が余ってそうだな」
レオンが指差した先には、何人もの文官が書類を抱えて立っている。
一方、その反対側では――。
「こちらは……かなり忙しそうですね」
エドが呟く。
数人の職員が、次々と書類を運び、別の職員から指示を受けていた。
同じ王城の中なのに、明らかに空気が違う。
そして、その隣には凛がいた。
「王城って、いつもこんな感じなの?」
「……私も、全部を知っているわけじゃないわ」
凛は少し困ったように笑った。
「勇者として呼ばれてから、騎士団や訓練関係の人とは話すけど、王城の中の全部を見ているわけじゃないから」
「それでいいと思う」
「え?」
「知らないからこそ、先入観なく見られることもある」
俺がそう言うと、凛は少しだけ表情を緩めた。
「……そういうところ、昔から変わらないね」
「何が?」
「人を見るとき、最初から決めつけないところ」
そう言って、凛は前を向いた。
俺は少しだけ照れくさくなって、視線を逸らした。
今日の目的は、王城の調査だ。
だから、余計なことは考えない。
俺は改めて周囲を見回した。
――人財鑑定。
意識を集中させる。
目の前を歩いていた文官の情報が浮かび上がった。
【事務処理能力:A】
【記憶能力:A】
【交渉能力:C】
【統率能力:D】
ここまでは、いつも通りだ。
だが――。
その人物が別の部署へ入っていった瞬間。
一つの表示が目に入った。
【組織構築適性】
俺は思わず足を止める。
「……またか」
「どうした?」
レオンが振り返る。
「いや、なんでもない」
まだ話すべきではない。
この能力が何なのか、俺自身にも分かっていない。
だからこそ、慎重になる必要がある。
俺たちは最初の調査対象となる部署へ向かった。
そこにいたのは、十数人ほどの文官たちだった。
「本日は、皆さんのお仕事について聞かせてください」
セリアが穏やかに話し始める。
「仕事の内容だけではありません。困っていること、やりにくいこと、こうだったらいいのにと思うことがあれば、遠慮なく教えてください」
最初は、誰も口を開かなかった。
王城という場所のせいだろう。
上司でもない俺たちに、本音を話すのは難しい。
だが、一人の若い女性が恐る恐る手を挙げた。
「……質問してもいいでしょうか?」
「もちろんです」
「私たちの話をして……本当に大丈夫なんでしょうか?」
その言葉に、俺は少し考えた。
「大丈夫かどうかを決めるのは、俺たちじゃありません」
「え?」
「皆さんが今より働きやすくなって、王城全体がうまく回る。そのために話を聞きに来ています」
俺は続けた。
「誰かを責めるためじゃありません」
女性はしばらく黙っていた。
そして、小さく頷いた。
「……それなら」
そこから少しずつ、声が出始めた。
「書類の確認が二重になっています」
「私の部署では人が足りません」
「こちらは逆に仕事が少ない時期があります」
「誰に確認すればいいのか分からないことがあります」
「前の部署ではもっと効率よくできていたんですが……」
一つ。
また一つ。
小さな不満が積み重なっていく。
俺は黙って聞いた。
そして、気づいた。
これは単純な人手不足じゃない。
むしろ――。
「人が足りないんじゃない」
俺が呟くと、エドが顔を上げた。
「はい」
エドも同じことを考えていたらしい。
「仕事と人の配置が合っていません」
「そうだな」
さらに話を聞いていく。
すると、ある職員の名前が何度も出てきた。
「その件なら、ミレアさんが詳しいです」
「ミレアさんに聞けば分かります」
「昔からここにいる人なので」
俺は、その名前を聞いて周囲を見回した。
「ミレアさんは、どなたですか?」
「あ……」
一人の職員が指差した。
部屋の隅。
大量の書類を整理している女性がいた。
年齢は三十代半ばくらいだろうか。
派手さはない。
目立つ立場でもない。
ただ、黙々と仕事をしている。
俺は彼女に近づいた。
「ミレアさん」
「はい?」
「少しお話を聞かせてもらえますか?」
「私ですか?」
「はい」
彼女は驚いた顔をした。
俺は人財鑑定を使う。
そして――。
思わず目を見開いた。
【事務処理能力:A】
【記憶能力:S】
【危機察知能力:A】
【教育能力:A】
そして、その下に――。
【組織構築適性:――】
「……」
まだ、判定されない。
だが。
俺には、なぜか分かった。
この人は、この部署の中心にいる。
肩書きではない。
権限でもない。
誰かに命令する立場でもない。
それでも、この人がいなくなれば、この部署は確実に混乱する。
俺はミレアさんを見た。
「ミレアさん」
「はい」
「この部署で、何年働いていますか?」
「……十二年です」
「十二年」
「はい。でも、私はただの事務員です」
その言葉に、俺は少しだけ笑った。
「本当に、そうでしょうか?」
ミレアさんが目を丸くする。
俺はまだ、答えを言わなかった。
――王城の問題は、人が足りないことではない。
必要な人が、必要な場所にいること。
そして、その価値が正しく認識されていること。
俺たちがこれまでやってきたことと、同じようでいて――。
規模が、まるで違う。
俺はもう一度、ミレアさんを見る。
その瞬間。
頭の中に、あの表示が浮かんだ。
【組織構築適性】
【対象規模:大】
【適性判定――解析中】
そして今回は――。
前とは違う文字が、その下に一瞬だけ現れた。
【重要人物候補――確認】
俺は息を呑んだ。
人財鑑定が、俺に何かを伝えようとしている。
でも――。
その意味は、まだ分からなかった。
王城という場所を「華やかな舞台」だけではなく、一つの大きな組織として描いてみました。
そこには、そこで働く人たちの悩みや、それぞれの事情があります。
今回の調査が、直人の考え方にも新しい変化を与えていきます。
Amane




