第6話 「聞いてはいけない話を、聞いてしまいました」
――その日は、最悪だった。
朝から、セシルの様子がおかしかった。
✔ 目が合わない
✔ 会話が短い
✔ 迎えに来ない
✔ 昼も一緒じゃない
(……え?)
違和感しかない。
(私、何かした?)
昨日までは、あんなにべったりだったのに。
今日は、まるで他人行儀。
胸が、ちくりと痛んだ。
◆ 不安の芽
昼休み。
私は一人で食堂にいた。
遠くに見えるセシル。
……ローゼリアと一緒。
談笑している。
楽しそう。
(笑ってる……)
心臓がぎゅっと締め付けられる。
(あれ? 私、こんなに気にしてたっけ……)
逃げたいはずなのに。
離れたいはずなのに。
なのに。
目が離せない。
◆ 偶然の盗み聞き
午後。
私は資料を取りに、旧校舎へ向かった。
人気のない廊下。
すると。
聞こえてきた。
「……例の件は、どうなった?」
セシルの声。
思わず、足が止まる。
「順調ですわ」
ローゼリア。
「両家とも、前向きに進めております」
……両家?
進める?
胸が、どくんと鳴る。
「ですが……」
彼女が続ける。
「リリアーナ様には、まだ……?」
「……言わない」
セシルの低い声。
「今は、まだ」
今は……?
(……なに、それ……)
頭が真っ白になる。
◆ 最悪の勘違い
(言えないって……)
(私に内緒で……縁談……?)
脳内で、最悪の展開が再生される。
政略結婚。
破棄される私。
原作ルート復活。
(……やっぱり、私は捨てられる側……)
足が震えた。
それ以上、聞けなかった。
私は、逃げるようにその場を離れた。
◆ 涙と決意
部屋に戻ると、堪えていたものが溢れた。
「……ばか……」
誰に向けた言葉か、わからない。
セシル?
自分?
それとも、この運命?
(やっぱり……逃げなきゃ……)
久しぶりに、心から思った。
今度こそ、本気で。
◆ 第二次逃亡計画
その夜。
私は、机に地図を広げた。
「……辺境領」
王都から遠い。
交通も不便。
情報も届きにくい。
(ここなら……さすがに……)
必要な物をまとめる。
手紙は――
書かない。
書いたら、見つかる。
(さよなら、セシル……)
胸が痛む。
でも。
生きるためだ。
◆ ヒーロー側の真実(読者だけ)
一方、その頃。
セシルは執務室にいた。
「……辺境開発計画は?」
部下に尋ねる。
「予定通りです。
リリアーナ様用の居住区も」
「そうか」
彼は安堵した。
「驚かせたいだけだ」
――将来、二人で暮らすための準備。
すべては、彼女のため。
なのに。
誤解は、深まっていく。
◆ 不穏なラスト
深夜。
リリアーナの部屋。
窓が、静かに開く。
――彼女の姿は、なかった。
それを知った時。
セシルの中で、何かが切れた。
「……逃げた?」
低く呟く。
次の瞬間。
彼の目は、獲物を追う者のそれに変わった。
「……必ず、見つける」
どこまでも。
たとえ、世界の果てでも――。




