起きろ!
カティナの実家が大騒ぎになっている最中、ルナ達も困った事になっていた。
「ほげー」
「ピスモ!なんてこった……!」
部屋の中でマヌケ面をしながら虚空を眺めている男性が客間に居た。
「これはひどい」
「ほげげー」
あまりのマヌケ面にカティナは口ではそう言いつつも顔は笑ってしまっている。
「人相が変わるほどの呪いを……」
「いや、顔は元々面白いやつだったんですが……」
ルナのフォローも虚しく、元より面白い顔の男であることがわかった。
面白い顔の男がとぼけた顔をしているのだから面白いのは仕方ないのだが、とにかく意識を取り戻してもらわなければならない。
「呪いはどうやったら解けるんですか?」
「刺激を与えれば手っ取り早く解除できるはずだ」
過去数回、アーデルハイトは彼の解呪に成功している。しかしそのたびに呪いを掛け直されて連れ戻されている。
今回は手引きもあって連れ出すのは容易だ。
「刺激というと……」
「虚構を吹き飛ばす現実の感覚だ。つまるところ痛みだ」
アーデルハイトがそう言うと一行の中で真っ先にルナが手を挙げた。
「だめだめだめ!」
「だめですー!」
「だめですよ!!」
そしてカティナ、クインク、マイルの三人が一斉に待ったをかけた。
そんなことはしないだろうとはおもいつつも、ルナが力一杯殴ると死にかねないので、三人は慌ててすがりついた。
「死んじゃう!死んじゃうから!」
「ピスモは意識が無いも同然なんですよ!」
「ごしゅじーん!」
ピスモから引き離されたルナは不機嫌な様子でそっぽを向いた。
軽く、という言葉がアテにならない。こういう時にエルドの娘というだけで嫌な信頼があるのである。
マイルは付き合いが浅いが風雨をしのぐための雨戸を易々とぶち抜いたルナの怪力を見ているだけに必死だ。
「と、とにかく!実績があるんだからハイジちゃんがやって!」
「わ、わかった?」
皆が何故、ルナを押し留めているのか見当もつかないと言った様子だったがアーデルハイトは近づいてピスモに平手打ちを加えた。
「あでっ!」
「ピスモ!目が覚めたか?」
「あれっ、マイルさんじゃないですか……?ここどこ?」
「エルフの里にある民家だ、悪いヤツがお前の手紙の配達を妨害するために此処に閉じ込めていたんだよ」
意識がはっきりしたのか半開きの口で白目をむいていた顔は元に戻ったが、確かに面白い顔をしている。
しかし彼の顔は意外にも仕事の役にも立っており、数回会うだけで店や依頼主に顔を覚えられるのだ。
そのため安否確認や足取りを追うのが容易で、温厚な性格も手伝って彼を気に入っている人は多い。
マイルが里を訪れたのも中継地点に近い村の人が近頃彼を見ていないと不審に思って連絡を入れたのがきっかけだった。
「そうだったんですか、うーん……なんだか記憶が曖昧で……」
「何度か助けようとしたが失敗したせいだろう」
呪いの重ね掛けはもちろん悪影響の塊である。強制的に精神の動きを操作されるのだから当然だろう。
「とにかく、これでピスモさんも元に戻ったわけですからさっさと脱出しましょう!」
「わかった」
皆がいそいそと民家を出るとなにやら慌てた様子でやってくる一団に出くわした。
「あれは誰だろう?」
「……私の家族たちだ」
アーデルハイトのつぶやきに皆が一瞬驚いたが、その一団がこちらに気付いたのか声を上げたので皆はそちらに視線を戻した。
「お前たちは何者だ!なぜ屋敷から……」
「慮外者に名乗る名前はない!ばーかばーか!」
「やーいやーい!」
「恥ずかしいからやめよ?ね?」
カティナとマイルが相手に不満と敵愾心を露わにする。
ピスモ達はそれを見てちょっと恥ずかしく思い、ルナは二人を宥めて下がらせる。
「父上、聖人様にやられたようですね。もう終わりでしょう」
「アーデルハイト!貴様、我々の足を引くつもりか!」
「だって恥ずかしいから」
アーデルハイトはそう言うとぷい、と視線をそらした。
一団の中で年嵩の男性がそれに憤慨した様子で叫ぶ。
「それが父親に対する態度か!我が一族の誇りを忘れたか!」
「性別を誤魔化し、アインザッツの令嬢を囲い込もうとすることを恥じない誇りなどいらない!」
皆が仰天する中、アーデルハイトは仮面を脱ぎ捨てた。
そしてそれに続くように衣服を脱ぎ捨てた。
「えっ、あなた……」
「女性だったんですか!?」
「でっか……チッ」
ルナとマイルはその容姿と風になびく長髪に驚いた。
体格を誤魔化すためなのだろう。衣服には肩幅などを誤魔化すための詰め物がついており、その下にはコルセットが。
アーデルハイトはそれを遠慮なく外すと、下着同然の姿になった。
そしてカティナはアーデルハイトのスタイルがグラマラスなので舌打ちした。
「こそこそと枝葉の陰にかくれても日輪を欺くことはできない。ましてや妻となった彼女を騙しおおせることなど」
「こんなんついてたら嫌でも気付くわ」
「でき……ひゃいっ!」
「カティナちゃん!」
喋っている最中に横からぺーん!と胸を叩いたのでルナが怒る。しかしカティナの不満はおさまらないのかルナと取っ組み合いのような状態になっている。
「うううー!だってだって!同族なのに!なんでーーーー!」
「カティナちゃん落ち着いて!今真面目なとこだよ!」
ぎゃいぎゃいとルナとカティナが揉める中、アーデルハイトは衣服を着直すとボディラインが出るようにあえて帯をしっかりと巻いて、父親と対峙した。
そんな彼、もとい彼女は真面目なものの、横にいるカティナがぎゃいぎゃいと騒いでいるせいで真面目な雰囲気はぶち壊しの状態であったが。




