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お、おくりもの!

アモンの機嫌が良くなり、トリニティはホッと一息。


「それでは私はこれにて……」


すすすーっと出口に向かってスライドしていくトリニティ。

しかしそうは上手く行かないもの。


「待て」

「はっ」


バエルの待ったがかかりピタっとトリニティの動きが止まった。


「な、なんでしょうか……」

「ワシのぶんは?」


当然あるでしょ?と言わんばかりの態度にトリニティは一瞬フリーズした。

サロンのお目付け役として行った上に土産話と銀写真まで持って帰ってきたのにこれである。


「えっと、そのあの……写真の方で……」

「それはお目付役として行ったのだから当然であろうが」

「えっ」


確かにそう言われてはトリニティに返す言葉がない。しかしちらちらとアモンが持っているガラス細工に目が行っているあたりに別の意図が含まれている気がしてならない。

すこぶる嫌な予感がするのでトリニティは鞄をごそごそと漁る仕草をしたのちに


「えっと、その、あー……もしかすると持って帰ってくるのを忘れたかもしれません!」

「なんだ、忘れたのか。仕方のない奴だ」


あはは、と汗を流しながら答えるトリニティにバエルはそうなのか、と息を吐いた。

無いと答えたらどうなっていたかを考えるとトリニティは気が気でない。


「ふふ、あまり我儘を言ってはいけませんよバエル様」


まるで香りを楽しむかのように花の部分を口元に寄せて微笑むアモン。

そしてくすくすと笑いながら続けた。


「この花はあなたに振り回される私の為に嬢が作ってくれたものなのですから……あなたのぶんがあるわけがない」


私の為、の部分を最大限に強調しながらアモンは笑いをかみ殺している。

トリニティは即座に逃げだしたい気持ちで一杯だったが退出の許可が出ていない。

ここで逃げだしたら処罰を受けるので身動きが取れなかった。


「ワシにそれを譲るつもりは?」

「ありませんね」

「どうしても?」

「ありません」

「丸焼きになってから差し出すハメになるぞ」


バエルが杖を取り出して立ち上がったがアモンは涼しい顔だ。それに理由がある。


「何が可笑しい」

「あなたの炎ではこのガラス細工も、彼女が織ったこの布も耐えられないでしょう。贈り物を台無しにする覚悟があるならどうぞ」

「ぬぐっ!」


アモンの余裕は自分にはこの世のどんな加護を得た防壁やタリスマンよりも強力な御守りがあったからだ。

バエルの起こす炎の温度は金属すらも焼き切ってしまうだろう。

アモンの体に影響を与えるだけの炎ならばその温度は当然高くなる。

そうなるとルナの作ったガラス細工は見るも無残な姿になってしまうだろう。

そうなると魔法はもちろん、力任せに奪い取ることも難しい。

ガラス細工はとても繊細だ。ルナの特殊能力によって細く、細かい造形の花はその特徴をさらに顕著にしている。


「トリニティ!!!!!」

「ひゃいっ!」


バエルの怒号に等しい大声にトリニティは飛び上がった。

アモンはガラスの花が割れないように咄嗟に魔法でガードした。


「忘れたといったな!すぐに!取りに行くのだ!」

「ひゃっ!は、はいぃぃぃ!」


口の端から炎のような魔力を噴き出しながらバエルは言った。

迫力満点の顔にトリニティは頷くとすぐに部屋を飛び出していった。


「うぇえええん!もうやだぁぁぁ!」


泣きながら城を走って出て行くトリニティはそのまま地上にとんぼ返りする羽目になった。

ルナに呼び出してもらえばいいとも考えたがそれではいられる時間が短い。


「ひぐ、ぐっ、うぐぐ……ルナ様たちけて」

「何があったんですか……?」


夕方、泣きながら家の前に立っていたトリニティを見てルナは不思議そうにしていた。


「バエル様が、お土産がないからって……」

「あらら」


とりあえず部屋に招いて訳を尋ねるとどうやらアモンに贈ったガラス細工のことで一悶着あったらしい。

ルナはアモンにだけ贈り物をしたのが失礼に当たったのかと考えていたが、実際はただやっかんだだけだ。

トリニティは二人のマウントの取り合いに巻き込まれたのである。


「泣かないで、考えが至らない私が浅慮だったんですから」

「うぅぅー……」


めそめそしているトリニティを見てルナはとても可哀想だと思った。

バエルはとても威圧感があるので怒った顔はさぞ怖かっただろうと。


「こうなったら何か特別なものを作って……」

「あ、いや、あの、あんまり良いのつくると……」

「任せてくださいね!」

「え、いや……」


ルナがやる気を出したのを見てトリニティは頭を抱えた。

組織の問題でバエルは怒ったのだとルナは思っている。王になくて副官に贈り物をしてしまったからだと。

しかしだからといってそれでまたバエルに贈り物をしたらまたアモンの機嫌が悪くなるのは明白だ。

そしてバエルの自慢話のネタが増えることで大悪魔間のいざこざが起こることも。


「ああ……争いがなくならない!」


トリニティは一人、やる気を出しているルナを見ながらぐんにゃりと脱力した。


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