それから
サロンに謎の襲撃者現る!
この噂が一部の噂好きの間で広まり、学生達の間にも少しの間広まった。
内容は参加していた学生を救った謎の人物について。
「誰だったのかな?」
「わからないね」
「学生だった?」
「ううん、わからない」
サロンに参加していた学生達はその時の事を思い出しながら色々と噂していたが、あの時の大立ち回りを演じた魔法使いの事はわからずにいた。
「アンヌちゃんは大丈夫なの?」
そして一部の生徒はアンヌを心配して彼女に話を振ったが、アンヌはそれから暫くぼんやりとしたままだった。
その後話を聞いた皆は魔道具による後遺症と判断してそっとしておくようになり、話題も別のものに移っていった。
ただその中で一人、ルナの正体を見た生徒の一言が学校に広まっていった。
「蜘蛛の特徴を備えた悪魔がこの街で誰かに成りすまして治安を守っている」
サロンに現れた悪魔は蜘蛛だった。そしてあの日、妖精食いが街を襲った日。
あの日に巨大な魔力の光で黒雲を焼き切ったあの一撃はあの悪魔が放ったのではないか。
いくら教会が手一杯だったとはいえ街には上級悪魔が出現し、人々を救っていたと言われている。
あのときの上級悪魔は主人に言われたからと浴びる喝采をそこそこにして飛び去った。
魔界の悪魔が人界の災害を気に掛けるはずもなく。契約した悪魔は自分の契約相手を守るので精一杯。
そんな中である。 もしもその主人が件の蜘蛛の悪魔だというのなら……
上級悪魔を従える悪魔というなら……
たどりつく答えは……
「大悪魔?」
しかしその答えに至った者の言葉は考え過ぎだと笑われて終わってしまった。
「はぁ」
皆が噂話に夢中になっているクラスでアンヌは一人窓の外を眺めていた。
ぼんやりと外を眺めているのは魔道具の後遺症などではなく、ただ……
「ルナちゃんの膝枕が恋しい……」
ルナの膝枕が忘れられないだけだった。
しかし彼女の中にある確信めいたものが囁くのだ。
彼女は普通じゃない。
その感覚は正確なものであったが、ある意味の生存本能的なものなのかその感覚は
(あの包容力は尋常じゃない……)
別の方向にはねた。
一方で人間界でルナの活躍を写真に収め、着々とお土産を仕入れるトリニティ。
バエルの命は無事完遂したもののサロンは中途半端に終わり、アモンの機嫌を直すためのアイテムも必要とあって忙しなく動いていた。
「えーとえーと、なにがいいかな」
ルナの部屋でトリニティはぐるぐると考えている。
ルナの部屋は悪魔や妖精たちにとって非常に居心地のいい高濃度の魔力に満ちている。
「ルナちゃんが作ったものを持っていくとか?」
「採用」
イングリッドが呟いた一言にトリニティは即座に食いついた。
そもそもトリニティにはバエルやアモンといった大悪魔の欲しがるものなど用意できるはずもなかった。
魔界の王とその副官である。彼らは財となれば唸るほど、兵も人間の国を滅ぼすのに容易いだけの人員を持っている。
そしてそれを養うだけの領地も。
金品を渡したところで鼻で笑われるのがオチだろう。
そんな彼らを満足させるとなれば奇貨珍品の類。
もしくは身内からの贈り物。
「そうなるとルナ様にお願いするしかない!」
トリニティは両手をついて額を床にこすりつける練習を始めた。
イングリッドは大の大人に見える悪魔のあまりの必死さに引いた。
「そんなことしなくても……」
そしてその様子をみたルナもちょっと引いた。
「それじゃあとりあえずアモンさんにアクセサリーを作りたいと思います!」
「どのようにしてつくるのです?」
部屋の中でルナはむん!と気合を入れている。しかしながら彼女の部屋に工具などの類は見受けられない。
トリニティが不思議そうにしている中、クインクが帰ってきた。
「ごしゅじーん!」
「はーい、おかえりなさい」
笑顔で飛んできたクインクを抱き上げてルナは微笑む。クインクは笑顔でルナに抱っこされていたがお使いを頼まれていた事を思い出して小さな肩掛け鞄からガラス玉を取り出した。
「これでよかったのでしょうか?」
「うん、ありがとう。これなら十分だとおもう」
掌サイズのガラス玉、形が悪くどうやら粗悪品か失敗作のようだ。
安価ではあるが廃棄品。普通なら再加工には竈などが必要になるが、ルナは百足の権能で鉱物を柔らかくできるのでそれを利用するつもりだ。
「これを口に入れて……」
服を捲くってお腹を見せるとそこにぐばっと口が開いた。全員が驚いている中、ルナはそこにガラス玉を入れるとお腹の口はまるで飴玉でも舐めるようにころころとガラス玉を口の中で動かしている。
「そしてこれをとりだすと……」
毒の成分により鉱物はまるで粘土のように柔らかくなっていた。
そしてそれを蜘蛛の脚を使って色々な方向から形を捏ねて変えていく。
「じゃーん!」
失敗作だった色付きのガラス玉は一輪の花になっていた。ルナはそれをさらに自分の糸で編んだ布を茎の部分に巻いてまるで一輪花束のような見た目になっている。
「これは何の花をイメージしたのですか?」
「チューリップかな」
出来上がりにルナが魔力を帯びた息を吹きかけるとガラス細工のチューリップはピンク色に染まった。
「これでよし、苦労してるアモンさんに思いやりを籠めて……」
これをさらに布で包んでトリニティに手渡すと彼女は満面の笑顔になった。




