ビッグネーム大集合!テンパるルナ!
アモンの説明を受けてルナは空間の広さと祭壇の大きさにさらに緊張していた。
「は、ひ、ふ、へ、ほ」
『大丈夫?』
ギギギと音を立てながらルナはぎこちない動きで首を横にふった。ここに来て彼女の能天気とポジティブのキャパオーバーが起こったのだ。
「ど、ど、どうしましょう」
『ルナちゃ・・・ぐえっ!』
ルナはルルイエの肩を掴んで前後に揺さぶる。テンパっていることと魔界の空気が作用して彼女の能力が上がっている為とんでもない筋力でルルイエは揺さぶられる。
『おち、おちちっ、おちついてっ』
「こんな所に来るなんて知~り~ま~せ~ん~で~し~た~!」
ギッコンギッコンと前後に揺れるルルイエ。アモンはいけないとは思いつつもルルイエが苦しむ姿に笑みがとまらない。
「着てきた服は普段着寄りです!心構えできてません!お腹痛いです!」
『でも、ちゃんと!おしえた!はず!だけどー?!』
「実力者とかなんとか聞いたくらいです!」
『ごめんねー?!!』
とにかくルルイエはルナを宥める為に一から説明することにした。
『まず、この宮殿に居るのは魔界の主、大悪魔の筆頭にして第一席のバエルよ』
ちなみに命名式に参加します。とルルイエ。
「そしてその副官にして大悪魔の次席、アモンと申します」
『後はバエルがどれだけ集めたかだけどラハブとウェパルは居たわよね?』
「ええ、ウェパルは数少ない女性の大悪魔と聞いて即日了承の手紙が来ました」
『グレモリーは?』
「彼女も来たがっていたのですが仕事の都合が合わないと、なのでイポスに声を掛けましたよ」
二人が話し合っているのを聞いてルナの頭はさらにパニックを起こしていた。聞いたことのある名前しかない。
大悪魔とは、この世界に数多いるとされる悪魔のその頂点に立つ存在である。
その頂点に立っているバエルとその副官アモンは神話になぞらえて紹介されることもあるほどのビックネーム。
そしてウェパルとラハブ、彼らもまたメジャーもメジャーな名前だ。かつて船で家族と旅行に行ったことのあったルナは乗った船の船長がウェパルを信仰していたのを見たことがあるし、幽霊船を率いて霧の海を通り過ぎていったこともある。
海は魔界と人間界を繋ぐ神秘の場所である。
「う、うぅぅ・・・どうしたらいいんだろう」
最後に出てきたイポス、彼もまたメジャーな占い師で預言者とも言われる謎多き悪魔だが鳥の意匠を好むことと先ほどのやり取りからアモンと関係があるようだ。
「以上六柱が貴女の命名式に参加します。ルナさん、緊張することはありませんよ。我々がいるからには間違いは起きないです」
バエル・アモン・ルルイエ・イポス・ラハブ・ウェパルの六柱。ルナは知り様がなかったが本来ならこの内の誰かが関係するだけで相当なニュースになるのだがそれが六柱である。下手をすると国崩しでも始めるのかと勘繰られかねないほどの過剰戦力だ。
『乗り物酔いの時より顔色が悪くなってきたわ』
「これはよくない、ルルイエ。なにか緊張をほぐすようなものはないのですか?」
『うーん、私の本分は狂気だし安定とは真逆だからなぁ・・・』
ルルイエは少し考え込んでポンと手を叩いた。
『躁にすればいいんだわ』
(・・・嫌な予感しかしない)
にこーっと笑みを浮かべながらルルイエはルナの元へ。アモンは止めるべきか迷ったがその迷いがよくなかった。
結果的にいうとまにあわなかったのである。
「先生ぇ~・・・」
『大丈夫よ、私のおまじないで気持ちを楽にしてあげる』
ルナが不安そうに見る瞳に向けて指をさすとくるりと円を描いて額を突いた。
『どうかしら?』
「ふわふわします!」
『もう大丈夫そうね』
「はい!」
しゃんと立って声を上げる姿は確かに先ほどの心細さを感じていた気弱な姿とは180度違うと言えよう。
ただ彼女の術はかなり強力だ。緊張感をすっ飛ばしてしまって大丈夫なんだろうか。
アモンの不安とは裏腹にルナは魔法陣の真ん中へと歩いて行ってしまった。
「ここに立てばいいんですね!」
『そうよぉ』
そうしていると舞台を囲む円形の足場の一つに業火のような火柱が上がった。
「おおっ」
「待たせたな」
火柱の中から背が高いと表現するには大きすぎる体格の老人が王冠を被り、杖を手にゆったりとした動きで現れた。
「魔界の王、バエルである。若き悪魔よ、楽にしてよい」
「はい!楽にします!」
手を上げてそう答えたルナにバエルはきょとんとしたがすぐに破顔して大笑した。
「わははは!ワシを前にしてなんとも豪気よな!気に入ったぞ」
「ありがとうございます!」
にへーっと笑って答えるルナにバエルは満足そうに頷いた。苦い顔をしているのはアモンだけである。
「それでは命名式を執り行う、皆位置へ」
バエルの号令でルルイエとアモンも円形の位置へ。そして空いた位置にも変化が訪れる。




