嘆きを前に
『あ、あ・・・』
地下室でルナと話していたマリーは不意に訪れた強烈な悲しみに涙を流した。堰を切ったように、大量の涙があふれてとまらない。
「マリーちゃん!?」
『ああ、うああああ!』
突然泣き崩れたマリーにルナは驚いたがその周りではバンシィたちも同様に涙を流している。
「こ、これは・・・?」
『人が死ぬのが、わかるの!たくさん・・・たくさんの、優しい人が、正しい人が死ぬの!悲しい・・・苦しい・・・』
滂沱の涙を流すマリーの目が赤く染まっていく。悲しみに嘆くバンシィはその目を赤く染めて、誰よりもその死を嘆くのだ。
『るなちゃ・・・』
「マリーちゃん!しっかり!」
『おねがい、みんなをたすけて・・・!』
ルナはマリーを抱きしめて頷いた。
「わかった・・・私があいつらをやっつける」
『おねがい・・・ひっく・・・おねがい・・・』
「任せて」
ルナは床に大きな円を描くとそこにバンシィ達とマリーをその中に集めて結界を作った。
「この中に居れば大丈夫、ディーン先生も来てるから安心してね」
マリーは泣きながら頷いた。ルナはそれを見ると彼女の頭を撫でてから地下室から抜け出し、外の様子を見に行く事にした。
「クインクちゃん、大丈夫?」
「もちろん、此処は片付きましたし」
鞭を振るって健在ぶりをアピールするとクインクは少し汗をかいた様子で答えた。
「それはよかった、でも・・・奴らは街に蔓延ってる。みんなが危ない」
「わかりました、狩って狩って・・・狩りつくしてやります」
クインクは表情を引き締めて拳を握った。ルナもそれに頷いて返した。
「私はあの降ってくる奴らをできるだけ撃ち落とすからクインクちゃんは街を移動して色んな人を助けてあげて」
「わかりました」
「もし誰かに素性を聞かれたらエトナーさんの名前を出して、彼女に頼まれたって言ってね」
そう言うとクインクは頷いた。こういった時に名前の通っている人物がいると何かと便利である。
悪事を働くならともかく、こういった緊急事態では仕方ないと彼女も許してくれるだろう。
「そういえば、マリーさんは?」
「見つかった、地下室に居たよ。ディーン先生に声を掛けてあげて頂戴。逃げられるならディーン先生が案内してくれるだろうしダメでも先生と私が張った結界があればなんとかなると思う」
「わかりました!頑張ります!」
念のための口裏合わせをしてルナはそのまま屋敷の屋根に飛びあがった。クインクはその後、侵入してくる妖精食いを追い払っているアダムと合流した。
「せんせー!」
羽根を広げて飛び上がると鞭を振るってアダムの周囲にいる妖精食いをミンチにする。
対人戦では無類の強さの彼も妖精となると勝手が違い、苦戦していたのか珍しく汗をかいている。
「助かった、どうにも実体があるんだかないんだかわからんヤツは苦手だ」
「そうなんですか?・・・そうだ、それよりマリーさんが見つかりました」
聖術が使えないのと、ルナのような無尽蔵に等しい魔力を持つわけでもないアダムは必然的に徒手空拳に等しい戦いが増えてくる。それでも怪我が無いのは流石というべきだろうか。
「クライグスが?それは重畳、どこにいる?」
「地下室です、ご主人が見つけてくれました!」
えっへんと胸を張るクインク。自分がやったことではないがルナの功績は彼女にとって誇るべきことだ。
アダムはそれを受け流しつつ、クインクを連れて地下室へ向かう。外部からの侵入が容易になったからか妖精食いはちらほらと見かけられたがルナの結界と彼女の残した魔力の残滓が奴らを遠ざけている。
「ここです!」
「よし・・・」
クインクが周囲の妖精食いを蹴散らし、その隙にアダムは地下室へと飛び込んだ。
「クライグス!無事か!」
『うぅぅ・・・無事です・・・』
泣きながらマリーは地下室に入ってきたアダムを見て答えた。そしてマリーの姿を見たアダムは彼女の姿が伝承のバンシィにそっくりであることを見て安堵するやら、不安になるやら。
おそらく彼女はこの街の被害者を思って泣いている。バンシィの試練をクリアする上ではいいのだろうが、彼女が泣くということは善人から死人が出るということだ。
(さて、結界があるとはいったもののクライグスをここには置いてはおけんな・・・)
そしてもう一つ見過ごせないのが彼女が妖精の要素を得たということ。魂のままよりはいいのだろうが彼女もこれで立派な妖精食いの獲物になってしまった。
「先生、私はこれから街に行きます!行って奴らをできるだけやっつけます」
「なに?お、おい!ちょっとまて!ワシが一人で護るのか!?」
どうしたものかと考えていたがクインクはアダムがなんとかしてくれると早合点したのか街の方へと向かってしまった。慌てて呼び止めたものの時すでに遅し。彼女は影も形もなかった。
「はーっ・・・」
大きく溜息をつきながらアダムはごそごそと魔除けの類を地下室の入り口に撒き始めた。
「虎穴に入らずんばなんとやら・・・まあいい、生徒のためだ」
やれるだけやってみるか。とアダムは半ばヤケクソ気味に杖と短刀を構えた。




