クインク、奮戦する!
クインクは中庭に侵入していた妖精食いを相手に圧倒していた。
「しゃららら!」
鞭を踊らせると数体の妖精食いが爆ぜた。援護が無くなったぶん回り込んで食らいつこうとする者もいたが
「うぅ・・・ぃぃやぁっ!」
飛びかかった瞬間にクインクの爪が妖精食いを引き裂いた。
使い魔となりルナから無尽蔵に魔力の供給を受けている彼女は名実共に上級の実力を持っている。
妖精との相性を持ってもクインクは適任と言えた。
「ふぅ、はぁ・・・狼みたいなのは嫌いなんだっ!」
鞭を振るう腕に力と怒りを込めてクインクは猛った。
「急げ急げ!妖精食いが現れたぞ!」
家家が息を殺して静まり返る中、教会と魔法局の治安維持部隊は大急ぎで街中に展開していた。
「駆除は治安維持部隊に!私らは奴らが街に居着かないようにするんだ!」
治安維持部隊は鉄製の防具と武器、そしてタリスマンを身につけてさながら兵隊のように走り回る。本来ならば騎士達がこの任の主力になるべきであったが相手は妖精だ。
その為に彼らは人間相手の治安維持、もしくは各通路を防御して奴らの通行を妨害して回る手筈になっている。
「騎士隊は僧侶を護衛しつつ火事場泥棒や逃げ遅れを探す!妖精が出たら槍で応戦しろ!」
妖精に近づかれた場合、魔法的な防御の心得がない騎士達は身体だけでなく魂に傷が着く場合がある。その為に彼等は柄の長い槍や獣相手に心得のある騎士が選抜され、編成された。
「や、やってやるぞ何が妖精食いだ・・・」
「よせよせ、自分からかかって行くんじゃないぞ」
若い騎士は街を護る為、闘志に燃えていたがそれをベテランが宥めた。
「獣がタチを悪くしたのか妖精食いだ、お前さん犬コロやらを追っ払った経験とかあるか?」
「い、いえ・・・」
「獣って奴は食い合いになると途端に知恵が働くんだ。俺たちが訓練で身につける事を命のやり取りで覚えてやがるのさ」
ベテランの騎士はアームガードをずらして左腕に残る傷跡を見せた。肉がえぐれたのか傷の一部は凹んでおり、大きく残っていた。
「そこいらの街でガキに可愛がられてるような犬くらいの大きさでも殺し合いになりゃこのくらいはするんだ」
「・・・」
「槍の間合いと獣を殺った経験があっていい塩梅ってことさ、一人で間違っても戦うなよ?喉を噛まれて、生きたままはらわたを食い尽くされるぞ」
そう言うと年嵩の騎士は鼻と口を覆うように布を巻いた。若い騎士は不思議そうにしていたが風にのって漂う生臭い臭いが届く頃になってその意味を知った。
「酷い臭いだ・・・」
「奴さんが来るぞ!槍組!穂先をそろえろ!すり抜けられた列から食いつかれるぞ!」
一列に並んだ騎士が普段よりも穂先を長くした槍を構えた。年嵩の騎士は支給された剣ではなく短く、肉厚なショートソードを抜いて正面を睨みつけている。
「・・・くるぞぉ!」
叫び声と共に黒い雲からまるで雨のように降った黒い煙が獣の形を取って街の通りに降り立った。
僧侶の努力の賜物か聖水と鉄製の杭を設置した一部の通路や辻にはその姿は見えない。
『GUOOO!』
「槍衾構え!前列は穂先を上に!後列は止まったヤツを突け!」
訓練に従って騎士達は槍を突き出した。妖精が嫌う鉄と聖水がまぶされている。どちらも有効ではあるが彼らが事前に準備できるのはこれだけ。あとは自身の力と仲間との連携のみが武器である。
「前列は刺さなくていい!近寄ってきたらぶっ叩け!」
「いいんですか!?」
「そのために穂先を伸ばして重くしたんだ!鉄なら十分威力がある!」
三匹ほどが騎士達を見て真っ先に牙をむいた。槍衾を組んだ騎士達はその獣の異形に息を飲んだが組んだ陣形がその恐怖を緩和させる。そしてなにより彼らの中には街を護るという使命があるのだ。
『GAAA・・・GYA!』
飛び掛かった妖精食いを数本の槍が振り下ろされ、その重量を乗せた一撃が叩き潰した。
「やった!」
「後列!突け!」
「「「おおっ!」」」
後列が前列の隙間から槍を伸ばして倒れた妖精食いを突き刺した。その一撃が致命傷になったか、妖精食いはそれぞれが塵になっていく。
「後列!そのまま前列と入れ替われ!穂先を掲げろ!」
「「「おう!」」」
「前列、後列に回って槍を構えろ!」
「「「はい!」」」
そう指示を出しつつ、年嵩の騎士は壁を蹴って槍衾を飛び越え自分に噛みつこうとする妖精食いを目ざとく見つけると左手のアームガードに仕込んだスリングショットで清めた灰と塩の塊をぶつける。
『GA!?GYAGGAAA』
「あめえんだよ、バカが!」
悪意ある妖精や悪霊には焼けた石に等しい一撃である。顔を振って悶える妖精食いの首を落としつつ年嵩の騎士は叫んだ。
「妖精食い何するものぞ!ここは聖人のお膝元!お前らを倒せるのは僧侶だけじゃない!」
その一言に皆は発奮する。
「騎士達が頑張ってくれているな」
「頼もしい限りだ」
街のあちこちで騎士達が奮戦しているのが見える。どれだけ備えても相手は空から降ってくる。
家のほとんどは鉄を玄関に吊るしているので彼らは降りられないがそれでも通りに降りた奴らは無防備な妖精や人間を狙って目を光らせている。
「かかってこい!騎士だけじゃなく俺たちも相手をしてやるぞ!」
治安維持部隊は魔法の籠った手甲や剣で武装している。魔力を纏った彼らは妖精の攻撃から致命傷を防ぎ、逆に相手に効果的なダメージを与える術を心得ている。また魔法を使用できる者も多いので距離を問わず戦えるのだ。




