師匠と先生のあれこれ
その後、エルドはルルイエと共に家族の無事を伝えるために帰路についた。残ったエトナーとアダムはルナについて話し合う事に。
「あの子はマジで悪魔なのか?」
「悪魔だよ、私もびっくりした」
アダムはエトナーの言葉に改めて自身も驚いていた。本来なら人間が悪魔に転生したり変生する場合、素質はもちろん本人に知識や魔法使いとしての実力が求められる。
ルナに才能が無いとは言わないがそれと悪魔になれる技量や知識があるかは別問題である。
「そうなると大分・・・こちらも慎重に扱ってやらんとなぁ」
「だな、祓うような悪党じゃないし・・・ああいう子を導いてこその聖職者的なとこあるから妥協したくねえ」
「そこらへんはウチも同じだがな・・・」
二人はそれからしばらくこれからのルナの教育に関しての話し合いをしていたがそのうち夜も更けてきたのでお開きにして帰って行った。
時間は遡って、今回の大騒ぎが始まる前。ルルイエは一人魔界の宮殿へと足を運んでいた。
「・・・」
厳かな雰囲気に慌ただしく働く召使たち。一見するとその風景は王宮という特殊な場所であることを除けば地上でもあり得る光景である。その中で異様と言うべきはやはりそこに働く者たちの姿であろう。
見上げるような高さの窓を拭くメイドの背中には羽根や角が生えているし、肌も赤や黒など様々。
行きかう執事服を纏う男性や木々を剪定する庭師すらも人ではない特徴を備えている。
(ルルイエだ)
(悪魔の中でも異端の存在が何故ここに・・・?)
時折囁くような声が聞こえる。ルルイエはそんな声に耳を貸すことなく宮殿の奥深くへと進んでいく。
そしてその中で一番大きく、豪奢な扉を開いて彼女は中へと入った。
「こんにちわ、バエル」
暗がりに向かって声を掛けると広い部屋の大半を占めていた大きな影が傾いた。魔界を統轄する魔王、バエルである。椅子に体を預けて尚部屋の大半を占拠する大柄な体を持つ老人の姿。本体はそれにさらに猫やカエルの顔を持つとされているが今は寛いでいたのか椅子に収まりのいい人型だった。
「何用だ・・・」
「いいお話、もってきたの」
ニコニコと笑うルルイエにバエルはへの字に曲げた口から牙をのぞかせると掴んでいた杖を動かした。
「きゃっ」
即座にルルイエの体が炎に包まれ、火柱が上がる。その火力はすさまじく床材が溶け出すほどの高温である。
「貴様の言葉はいつもそれだ、我らすら欺いて悪びれぬ。まったく度し難い」
「ごほごほ!・・・今回はホントだって」
「くだらぬ」
陽炎が収まるとそこには煙たそうに咳き込むルルイエが何事もなかったかのように立っていた。
バエルはそんなルルイエにさして驚いた風もなくつまらなそうに吐き捨てた。
「若い子が、悪魔になったから、命名式に出て欲しいだけよ」
煙を吸い込んだのかまだ咳き込みつつルルイエは言う。その言葉にバエルは逸らしていた目線をぎょろっと動かしてルルイエを見据えた。
「命名式・・・まさか、あの大悪魔の気配はそうだったのか?」
「そうよ、あの贈り物、命名式をして正式にあの子にあげたいからね」
大悪魔の誕生。それを察して悪魔達は自身の末席に加わるであろう悪魔の誕生を祝い、ルルイエに贈り物を預けた。
おいそれと魔界から出られない彼らは空を漂う雲や山に映る影を操って形をとり、彼女に接触していた。
「なるほど・・・それで、若い子というのは誰なのだ?」
「ふふ、この子・・・とってもかわいいのよ」
水晶を懐から取り出すとそれを掲げる。すると水晶は淡く輝いてルナの姿をその空間に投影するように映し出した。
「なるほど・・・随分と若い・・・いくつなのだ?」
「確か16歳だったかしら」
その言葉を聞いてバエルは目を見開いた。悪魔というものは才能があったとて容易くなれるものではない。
儀式には様々な制約が伴うし、大抵はそれらの制約をクリアするために長い月日を鍛錬に費やした老人がほとんどだった。それを抜きにして悪魔になるとなればそれは並大抵のことではない。
素質、体質、そしてルルイエの力。さらには星の並びなど難易度としては普通の悪魔としての転生に比べるべくもない。普通にやっても手順と準備がそれなりに必要なのにそれをすっ飛ばしての転生である。
「若すぎる・・・いったいどのような・・・」
「星辰、体質、そして彼女の魂の質。そして極めつけは儀式ね。全部揃って初めて成功する。本人がいないからぶっちゃけるけど死ぬ可能性もかなりあったのよ」
「ペテン師め・・・年端のいかぬ少女になんということを・・・」
「できると思わせるだけの才能はあったのよ?まあ、ちゃんと謝ったし」
二発目の火柱が上がった。
「ごほごほ!」
「少しは反省の色を見せろ」
「いや、それに関しては本当に・・・」
バエルは、というよりこの世界の悪魔は位階が高くなるほど無垢なもの、かつ無知な者を騙すことを嫌った。
騙し合い化かし合いは彼らの本業であるが、それ故に相応のプライドというものがある。彼らにとってイージーな相手を選ぶこと自体が恥知らずと見なされるのである。
また天魔戦争が終わって天界とある程度関係が修復された現在悪魔は「契約」を象徴する存在として自身が関わった契約に関して裏切らず、そして嘘をつかないことを信条としている。
騙すのは悪党や知恵者だけ、地獄に行く素質のあるものこそ彼らの標的である。




