第7話:ちくわぶ研究の真相に迫る(迫るだけ)
ホームルームが終わった放課後、化世先生が突如、黒板に一文字だけ書いた。
「竹」
「これガ、今日ノテーマデス」
「え、また始まったよこの人……」
「先生、それ“たけ”って読むんですけど、もしかして“ちくわぶ”関連ですか?」
俺が問うと、化世先生はうんうんと首を縦に振った。いや、正確には首が360度くらい回った。
「いや回りすぎ!! 物理的に“うなずく”を通り越してる!!」
「チクワブ……正式名称、“地球式半発酵グルテン練成管状体”。ワタシガ生涯ヲ懸ケル対象……コレ、運命」
「どんな運命背負ってんだよ!? グルテンだぞ!?!」
黒板に「ちくわぶ年表」なるものが書き出される。
・西暦1980年:ちくわぶ、関東でのみ進化を遂げる
・1998年:ワタシ、地球に留学。給食で初めて“ぶにょぶにょ感”に衝撃を受ける
・2022年:全宇宙“ちくわぶ論文大賞”を受賞(応募1人)
「え、宇宙規模でその賞ひとりかよ!!」
「感動ノあまり、泣イタ。涙デ味ノ違イガ分カッタ。……醤油ベース、良イ」
「味の違いが涙でわかる!? それ人間の涙腺じゃねぇだろ!」
先生は引き出しから一冊の分厚いファイルを取り出した。表紙にはこう書かれていた。
『全銀河統一ちくわぶ分析記録・第712巻』
著:カセ・ヒカリ(博士号アリ)
「自費出版デス」
「マニア通り越して信者じゃねえか!」
その瞬間、教室の天井がミシッと音を立てて割れ、ポトリと何かが落ちてきた。
「先生!!天井から何か落ちてきた!!えっ、これ……ちくわぶ!?」
「アア、それハ“ちくわぶ型データ収集ユニット”デス。毎日放ってマス」
「そんなもん空調口から落とすなよ!!衛生的にアウトだよ!!」
ちくわぶ型ユニットはビービーという音と香ばしい匂いを発しながら黒板をスキャンし、勝手にパワポを投影し始めた。
【スライド1】「ちくわぶの断面に宇宙の黄金比が存在」
【スライド2】「ちくわぶの揚げ物は爆発する」
【スライド3】「おでん鍋の配置は量子力学的バランスが必要」
「どうしてスライド2だけ命の危機!?」
「揚ゲルナト言ッタノニ、副担任ノ田島先生ガ揚ゲテ……爆発」
「どこの学校も副担任が犠牲になるのお約束なの!?」
先生は空を見上げるような表情で、しみじみと語り始めた。
「チクワブハ、地球人ノ“曖昧サ”ノ象徴……モチ、ダケドモチデナイ。麩、ダケド麩デハナイ。限界ト可能性ノ、間……」
「やめろ、そのテンションで語られると、ちくわぶが急に哲学っぽく聞こえるから!」
「ワタシ、いつカ宇宙全体ニ、“チクワブノ心”ヲ伝エル……」
「心あんのかよ、あの筒に!?」
そのとき、突然、先生のポケットが震えた。取り出したのは、なんと……
「ちくわぶ型スマートフォン」
「なにそれ!? 重そう! 湯気出てんぞ!?」
「銀河SNS“WubBook”ニ、チクワブ動画ガバズッタ……!」
「えっ、ちくわぶがバズる時代来てんの!? 世界終わってない!?!」
先生は机に飛び乗ると、両手を高く掲げて叫んだ。
「来タル時代ハ、チクワブ文明ノ黎明期デス!!!」
「担任が完全に宗教の教祖なんですけど!?」
クラスの女子がひそひそと話す。
「ねえ……ちくわぶって、そんなにおいしいのかな?」
「え、うち昨日カレーだったから余ってる……持ってこようか?」
「やめて!この人に渡したら何か召喚されるから!」
こうして今日も、化世先生のちくわぶ愛は宇宙の果てまで広がっていく。
……たぶん。




