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第18騎士隊の倉庫で、ひとりの騎士がロイに調査の結果を報告していた。
「第9騎士隊のレコンですが、医者に対し通常ではありえない高額な報酬を裏で支払っていました。騎士隊の給料ではとても無理な金額です。また治療に使われていた薬は遠方のエイシアの国で作られていたもので、レコン側から医者に渡していたようです。倫理的な問題で今は作るのを禁じられている薬です。恐らくレコンは犯罪組織とかかわりその薬を手に入れたのだと思われます。レコンはそれらを条件にあちら側のスパイとなっていたはずです」
その報告を聞いてロイはしばらく沈黙した。
「信じたくなかったが、やはり騎士隊の中にも裏切り者がいたか……」
ロイは長いため息を吐いた。仮面に隠されあまり感情の見せない表情も、少し苦悩に歪んでいるように見える。
同席していた第一騎士隊の副隊長フィンがロイに尋ねる。
「どうします。レコンを拘束しますか?」
「いや、レコンには俺から話そう」
事情があって裏切ったのなら説得できる可能性があった。
どの程度情報を渡されているかは不明だが、説得に成功すれば相手のてがかりを少しでも掴むことができる。しかし、ロイが自身で説得すると言ったのは、部下に対してできる限り温情ある措置をしてやりたいからという気持ちが大きかったかもしれない。
「レコンはどこにいる」
「今は北の宿舎の総務の代理をしています。夕刻には金髪のとても小柄な少年と、訓練所近くの倉庫に荷物を運んで中で作業していたのが確認されています」
「ヒースとだと……?」
金髪のとても小柄な少年と聞いて、ロイはすぐにそれがヒースのことだと分かる。
なぜか胸騒ぎがした。
「陛下……!?」
次の瞬間、ロイは走り出していた。訓練所近くの倉庫へと向かって。
外では雨が降っていた。
その中をロイが駆ける。濡れるのにも構わず、わき目も振らずに。
雨で悪い視界の中、倉庫が見えた。北の宿舎の用具などが収められている倉庫だ。
扉が開けっ放しになっている。ロイは剣の柄を握り、その中へ飛び込んだ。
ロイの目に小柄な誰かの首に手をかけ、それを締め上げているレコンの姿が映った。首を絞められているのは綺麗な金色の髪をした、歳よりも幼げに見える少年。ヒースだった……。
その体からは力が失われ、手足がだらりと床から浮いている。意識はすでに無かった……。
レコンの目がこちらを見た。その瞳に動揺はない。すでにすべての希望をとっくに失っていて、絶望の中をずっと泳ぎ続けていたかのよう、ただ暗く落ち込んだ眼窩を闇にたゆたわせている。
「レコン……その手を離せ……」
ロイは焦る気持ちを抑え、押し殺した声でレコンに言う。
「イオールさま……」
レコンの手は離れない。ヒースの首を今もなお締め上げ続ける。どれだけの時間、その状態にあったのか……。入ったばかりのロイには分からない。だが、まだ体が微弱に震え、命の気配があった。
「落ち着けレコン……。その手を離すんだ……」
「仕方なかったんです。娘と妻を治すためには、薬が必要だったです……。とても珍しい薬が……。だから、だから……」
レコンの右目に涙が伝う。その顔は完全に平常心を失っていた。抜け殻のように目を見開きながら、それでもヒースの首を絞める腕は力を入れ続けている。みしみしと嫌な音がロイの耳に響き始めた。
「レコン!」
「もう遅いんです……!妻と娘を救うにはこれしか……これしかぁああああ!」
レコンの腕に力が篭もるのが見えた。
それを見た瞬間ロイは剣を抜き、稲妻のようにレコンに向かって加速した。
首が飛んだ。
真っ赤な鮮血がその断面から溢れ出し、四方へと飛び散る。
首を失ったレコンの体から力が抜け落ちていき、フィーの首を絞めていた手がゆっくりとほどけていく。そのまま地面に投げ出されそうになったフィーの体を、血まみれのロイが慌ててその腕で抱きとめた。
「ヒース……!大丈夫か!ヒース!」
呼びかけるロイの声にヒースはこたえない。その体はぐったりとロイの腕の中で横たわり、何の反応もしめさない。痛々しく絞められた首の痕と、小さくひどく頼りない微小な呼気だけがそこにあった。




