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「鈴香、洸、夕菜、桜?どうした?」
「どうしたもこうしたもないわよ」
阿修羅が登場しそうなので、慌てて雪を撫でてベッドに戻す。
楓と琥珀も、本能が働いたんだろう。ベッドに潜ってくれた。
「話があるなら、居間に行こう。」
聞いていたんだろう。そうでなければあのタイミングで出てくる事自体が有り得ない。
文机から未練がましくずっと持っていた小箱と分厚い封筒を取り出し、強引に4人を連れて、居間にむかった。雪達に怒鳴り声を聞かせたくはない。
居間の座布団に座ってくれた4人を前に。
「すまなかった」
土下座した。
「何に対して謝ってるのよ」
「お前達を俺の我が儘に巻き込んだ。特に、桜。お前には、本当に申し訳ない事をしたと思っている。
あれ程俺と家族になる事を嫌がったお前を、不甲斐ない俺の所為でここに連れ戻してしまった。
本当に、すまなかった」
「ちょっと、待って。桜姉ちゃん、それほんと?」
「桜姉様、聞き捨てなりませんけれども」
「桜姉、マジかよ」
「え、いや、その、あたしは」
「お前が家を出て寮に入る前日だった。
俺の家族になって欲しい。そう言った俺に、お前は、俺の家族にはなれないと言った。
それなのに、俺が馬鹿な所為で4年もお前を縛り付けてしまった。」
桜の前に、小箱を置く。
「慰謝料代わりに取っておいてくれ。未練がましいと判ってはいたが、それでも捨てられなかった。
質に入れたらそれなりの額になるだろう」
「え……これ」
「あの日の夜。お前に、渡そうと思っていたものだ」
桜が、震える手で小箱をあける。
桜を象った小さな5粒のピンクダイヤとプラチナの指輪。
「まぁ、綺麗ですわ」
「すっげぇ高そうだな」
「高そう、じゃなくて凄い高いよ。ピンクダイヤって希少だって、こないだテレビで言ってたもん」
「竜兄、後学の為に聞かせてくれ。ぶっちゃけいくら?」
「159万」
ぶっ、と。
俺以外の全員が吹き出した。
「ちょ、えええええ!?待ってくれよ、竜兄、確かこれ、桜姉が18の時に渡すつもりでいた、って」
「あぁ」
「竜兄さん、19の時にもうそんなに稼いでたの!?」
「そんな訳ございませんわ、竜兄様は19の時はまだ大学生でしてよ!?」
「新聞配達とバイトで貯めた。」
中1からの新聞配達、高1からのバイト、大学に入ってからはそれに家庭教師もくわわった。
給料の大半は親父達に渡していたから、貯めるのに7年もかかってしまった。




