いつか聞いた名前です
『そうそう、そんな感じー』
俺は今超能力を同時に使う練習中だ。
図書館の中で超能力を使うのはどうかと思うが周りから言わせると今更らしい。
右手には風が、左手には水が渦巻いている。
徐々にだが二つ一緒に超能力を使えるようになってきた。
永井先輩はいまだに顔をうつぶせにして寝てるがどうやら常に風を感じ取り、どこに何かあるかを把握してるみたいだ。
『それにしても双神君は電撃系能力者じゃなかったけ?』
「へっ?」
俺は間抜けな声を出してしまった。
記憶が正しければ永井先輩とは今日が初対面、そもそもこの世界に来て間もない俺があったことあるのなんて数えられるほどしかいない。
そもそも電撃系能力者ってのもおかしかった。
「何を言ってるんじゃ? 能力は一生変わらないはずじゃろう」
珍しいことに永井先輩は自主的に顔を上げた。
真面目な話をするためであろう。
「一般的にはそうだけどさぁ……。超能力って性格と深く関係あるとか言うじゃなぃ? なら、その根本的な性格が変わるほどの何かあればどうかな?」
この世界に来たばかりの俺には超能力のことはよくわからない。
だが、これがとても人ごとには感じられなかった。
「なるほどのう。でも儂がこいつの能力は元からこうだったと断言しておこう」
「嘘じゃないみたいだねぇ。でもあれ、世界の強さランキングトップ1000に双神凪ってなかった? なんか数年前に行方不明になったって聞くしその凪って子」
「思い出したのじゃ! Aランクの能力と知能をもってしてSSランクの能力者を倒したというやつじゃったか」
「うん、それ」
「どうして儂はもっと早く気付かんかった? 漫画や小説の作者が同じならこやつと同じ人物もいておかしくなかったじゃろうに……」
「なんか複雑な事情がありそうだねぇ。でも聞かない方が良誘うだねぇ? 何より面倒事に巻き込まれるのは勘弁だからねぇ」
「それはありがたいのぅ。では堂々と内緒話でもさせてもらうとしよう」
次元はそう言って体をこちらに向ける。
永井先輩は再び突っ伏したように寝始めた。
「さて、どこから話し始めるとしようかの?」
「おいおい、事情がよくわからないがあまり他の人に聞かれたりしたらまずい話だろ? 声を潜めなくってもいいのかよ?」
次元の声量はいつもどおりであり、いくら寝始めたとしてもすぐに完全に寝るわけでではないので近くにいる永井先輩には聞こえてるだろう。
また、図書館という場所であり、本棚の向こう側とか死角が多いところなので聞かれる危険も多い。
「問題ない。すでにここの空間を周りの次元から隔離した。音が漏れる心配はないのじゃ」
前も思ったことがあるけどここの人間は呼吸をするように能力を使う。
口を開くのが面倒だからと言って念話してきたり、このように内緒話のためだけに次元隔離など、元の世界だと考えれないことだ。
これがこの世界では普通なのだろう。
「で、何の話だ? 今の状況の説明から頼む」
次元が現在の状況から心配される問題までまとめるとこうなる。
俺の世界とこの世界だと連載されている漫画が同じである。
つまりは作者もお互いの世界に存在していて、同一人物である。
そうなると俺の世界には俺がいるのは当たり前だが、この世界にも俺がいたらしい。
その俺がこの世界では超能力のランクが2つ上の人物に勝つことによってそれなりに有名になったらしい。
凄いこの世界の俺が2年前に行方不明となり、その行方は今も分かっていないが誘拐ではないかと言われているらしい。
永井先輩はその行方不明になったこの世界の俺が誘拐され何かの実験によって超能力が変化したのではないかと考えたらしい。
その誤解は解けたらしいが、他に問題になってくるのはこの世界の俺との関係である。
幸いにその人物は結構遠くに住んでたらしいく、知人に出くわすことはまずないから大丈夫であろうということ。
だが、他にも問題点があるらしい。
らしいばかりだが俺も完全には理解していない。
それは目の前でこのことを話してる次元も同じだろう。
「つまりはお主の世界とこの世界は超能力に関係すること以外は人、国、世界、星全てが同じといえる。そこで問題になってくるのは世界の強制力じゃな」
「なんだ? その世界の強制力とか中二くさいのは?」
中二チックな物語では世界の強制力にあらがう主人公とかも多い。
不覚にも少し心が熱くなってしまった……。
「じゃが、本当にあるとしたらこの世界のお主が行方不明になったからお主もお主の世界で行方不明に、もしかしたらお主を儂が連れてきてしまったせいでこっちの世界のお主も行方不明になった可能性もある」
「その考えで行くと俺をA、この世界の俺をBとするとC~Zあたりの俺が行方不明になったからこの世界と俺の世界の俺が行方不明になった可能性もあるし、そもそもそんな強制力もないかもしれないんだろ? だったらそんなに自分を責めるな」
次元の表情は明らかに自分を責めてる表情であった。
確かに次元のせいで数えられないほどの俺が行方不明になった可能性もある。
だが可能性でしかないし、過ぎたことは気にしても仕方ない。
俺はそう思った。
「世界の強制力とか証明する方法なんかないし、お前は十分に反省してるんだったら自分を責めるな」
どうも俺は次元の弱った表情に弱いらしい。
それは子供にしか見えない次元の身長のせいか、それとも…………。
いや、それはないだろうな!
「とにかくだ。過ぎたことは気にしても仕方ないし、同姓同名ぐらいなら存在してもおかしくないだろ? 知人にだけ見つからなければ問題ないってことだ。俺が住んでたのはこことは違う県だし問題ないだろ」
ちなみにこのセリフが知人に会うフラグっぽいと感じたのは秘密だ。
「だからさ、前を向いていこうぜ?」
次元は少し頬を染めながら――
「凪のくせに、生意気じゃな……」
――そう言った。
「と、とりあえずだ。今日はもう遅いし帰ろうぜ」
すでに短針は6を指そうとしていた。
「じゃな」
次元が能力を解除したのか空気の流れが変わった。
次元はすぐに扉に向かって歩き出す。
「永井先輩。また明日」
俺は机に突っ伏していた永井先輩に挨拶をすると、次元を追って図書館を出た。