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36_魔物使いとビーハイブですか?

 気落ちしたフルートと完全勝利で余裕を見せたタマゴが居なくなり、次の対戦が始まる。

 そう、次はあいつだ。ムサシ・シンマ。対戦相手が誰なのかまだ分からないが、決勝トーナメントまで残るくらいだから、結構な手練なのだろう。

 どうして俺が未だに残ることができているのかも、よく分からん。


「おなごよ――!! ステージ端にもコーラを投げるが良いぞ――!!」


 ……モンク、お前は楽しみ過ぎだ。

 別に勝てなくても良かったのかどうなのか。モンクはタマゴVSフルートの戦いが終わる頃にひねりあげを食べ終え、今度はポテトチップスに移行していた。

 あれなのかな、もしかして噂のアホの娘だったりするんだろうか。

 ステージ上にムサシ・シンマとやらが現れる。相変わらずその顔は無表情で、一切の変化を見せない。


「それでは、シープコーナー!! 噂によると今回の戦士選抜最強という噂も出ています!! 小細工しない男!! ムサシ・シンマ――!!」


 なんか、不気味な感じがするなあ。やっぱり、あの豪快な新真小次郎と同一人物とは、思わない方が良いかもしれない。

 ふと、モンクのポテトチップスを食べる手が止まった。不思議に思ってモンクを見ると、腹から絞り出すような声でモンクは言った。


「……小僧、あの男が妾をこの戦士選抜に参加させた原因となった男だ」


 もうちょっと日本語を分かりやすくして欲しい。

 だが、俺はモンクの真剣な様子に唇を尖らせた。


「なんでまた。お前はどうして、戦士選抜に参加していたんだ?」

「……妾は戦士になって、パーティーを組んで旅に出る予定だったのだ。……あの、ビーハイブの連中を倒すために」


 また出てきたな、『ビーハイブ』。タマゴの時もそうであり、この戦士選抜にもテロリストとして紛れ込んでいるようだが――……彼等の目的を、まだ俺は聞いてないんだよな。

 王女の口付けを手に入れて、一体どうしようと言うのだろう。


「どうして、『ビーハイブ』を止めるんだ?」

「……奴等は、この世界を狂わせる『トーヘンボクの悪魔』に加担している連中なのだ。妾は行ったことが無いが、異世界に魔物を送り込んだり、いくつもゲートを開けたりしているのだ」


 ――まさか。

 テレビで放映されている、魔物の正体たるや。これは、有力な情報かもしれない。

 そうか。魔物がある日突然俺達の世界に現れると考えるよりは、何者かが送り込んでいると考えた方が余程自然だな。

 ということは、戦士たちはビーハイブを止めるために動いている、という構図なのだろうか。


「あの『ムサシ・シンマ』という男は、ビーハイブの中でもかなり重要なポジションなのだ」


 うーん……考えれば考える程、新真小次郎とは別人ぽいな。

 もう、あいつと新真を同一人物だと思うのはやめよう。おそらく異世界には来た事ないんだろうし。

 しかし、こっちの連中から異世界異世界と言われると、一体どっちが異世界なのか分からなくなるなあ。何か固有名詞が欲しい。

 俺達の世界は『地球』が妥当だろうか。こっちの世界は――……

 トイレ。……やっぱ、トイレだよなあ。


「ホースコーナー!! 挑戦者発表の時には居ませんでしたが、魔物使い!! サラミ・サンドイッチ――!!」


 なんか美味しそうな名前だ。ニセ新真の反対側に経つのは、茶髪を三つ編みにして、眼鏡を掛けた、いかにも文学少女っぽい女の子だ。緑を基調とした服装に、魔女っ子帽子に黒マントだ。しかしこの決勝トーナメント、女の子勝ち過ぎだろ。ムキムキの筋肉した男達はどこ行ったんだよ。

 本を片手に、彼女の後ろには――なんだ、あれは。天使の羽が生えた、ピンク色のボール。……いや、ボールじゃない。目と足と口があり、あ、手も耳もある。なんか弓矢のようなものを持っていた。

 可愛い系モンスターか。どのMMOにも一匹くらい居るよね、ああいうの。大体はレベル一でも戦える程度の強さか、あるいはべらぼうに強いかの二択。

 あれはどっちなんだろうなあ。思えば、まだ俺はこの世界に来て一度もダンジョンに入ってないからな。


「キューティクル、いくよ!」

「もけー!!」


 やたらと緊張しているようだが、大丈夫か。ずれた眼鏡を直すと、サラミは手に抱えている分厚い本をめくり始めた。

 ……そうか、あいつは魔物使いと呼ばれていたな。


「それでは――!! レディー・ゴ――!!」


 合図と同時に、キューティクルと呼ばれた天使モンスターがサラミの指示でニセ新真へと向かった。キューティクルの手に持っている弓矢が光り、同時にサラミの本の文字が光る。

 うわ、なんかどこかで見たなああいうの。……よくあるか。


「キューティクル!! <シャイニング・アロー>!!」

「もけもけ!!」


 言いながら、サラミはキューティクルとニセ新真――ムサシって呼ぼう。ムサシを挟んで反対側に向かった。今度はサラミの周囲に魔法陣のようなものが現れ――うわ、あいつ魔法使いでもあるのか。これは厄介だな。

 キューティクルとサラミで挟み撃ちだ。サラミが謎の呪文を唱えると、サラミの右手の人差し指から炎が巻き起こる。

 サラミはそれを、まっすぐにムサシを指差して飛ばした。


「<ドラゴン・ブレス>!!」


 右の人差し指から生まれた炎はサッカーボールほどの大きさになり、ごうごうと獰猛な音を立てながらムサシに向かって一直線に飛んで行く。――速い!! あんなもの、当たったらひとたまりもないぞ。

 ムサシ・シンマは……何もしていない。それどころか、サラミのことを見てすらいない。わりと強そうな攻撃なんだが……

 火球と光の矢の同時攻撃に、ステージ上に爆発が起こった。


「おおっと――!! サラミ選手、怒涛の攻撃でムサシ選手を滅多打ちだ――!! これは最強と言えども、ダメージを受けずには居られないでしょう!! ていうか、この決勝トーナメント始まって以来のまともな戦闘に私はうれしいです!!」


 ごめんね変な戦闘ばっかりしてて!! 実況するにも大変だったろうに。

 しかし、これが本物の決勝トーナメントって感じだな。攻撃も動きもカッコ良いし、なんで俺の戦闘とはこんなに違うんだろう。

 ――よく俺、ここまで勝って来たもんだな。自分で自分を誉めてやりたいぜ。

 煙が晴れていく。その中央には、ムサシ・シンマが。


 傷一つ付けずに、立っていた。


「――くだらん」


 ……あれ。あの娘、やばいんじゃないか。


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