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35_アップルの意味とはなんたるかです

「げっふんっ!!」


 喰らったァ――――!!

 めっちゃ普通に喰らったァ――――!!

 タマゴは扇の攻撃を受けて、とてつもなくみっともない飛び方でステージ端に転がった。


「……弱」


 あれ? フルートがつまらなさそうな顔でタマゴを見ている。

 もしかしてこれ、勝負あり……?

 弱すぎないか!? おいあのマッチョ、強そうなのは見た目だけかよ!!

 と思ったら、何事も無かったかのようにタマゴは起き上がった。


「しまった!! 寝ていた!!」


 殴られて転がってもなお寝てたのかよ!!

 どんだけ寝てる時間長いんだよ!!

 ハンドスプリングっぽい動きで飛び上がって体勢を立て直すと、タマゴはフルートを見て笑みを浮かべた。


「なかなかやるようだね」


 まだお前何もしてねーよ!!

 さも一生懸命戦った風なこと言ってんじゃねえよ!!

 フルートは攻撃が微塵も効いていない事に驚いたのか、頬に汗を浮かべていた。


「……タマゴ・スピリット。あんた、本当に分からない人間ね」

「人とは分からないものさ。俺様にも君の考えている事は分からないぜ」


 なんかそれっぽいこと言った!!

 タマゴはリンゴのアップリケを見せ付けると、決めポーズを放った。

 瞬間、ステージ上に光が訪れる。

 決めポーズとその名前だけで相手を葬ってきたって、これか。


「リンゴのスペルには意味がある!!」


 戦隊ヒーローが登場する瞬間のような動きで、なんか腕と脚を激しく動かしていた。


「愛!! ピース(平和よ)!! パーフェクト(完璧に)!! リトル(小さくとも)!! エバー(永遠に)!!」


 いや何で愛だけ日本語なんだよ!!


「輝かしい筋肉!! アップル・チェーンジ!!」


 えっ!? チェンジ!?

 まさか、まさか、変身するのか……!?

 タマゴは自ら光輝き、やがて俺は目を瞑った。


「うおっ!! まぶしっ……!!」「きゃっ……!!」「うわっ……!!」


 みな、一様に目を閉じてしまったようだ。

 凄まじい光が辺りを包み――……やがてそれは、収まった。俺はおそるおそる、目を開いた。


「俺様の名前は!!」


 そうか。何度も連呼していた名前は、変身する前提の事だったんだな。

 そこには、白装束の金髪マッチョが――


「タマゴ・スピリットさ!!」



 変わってね――――!!



 え!? 何で変わってないの!? そこは変身するところだろ!!

 一体どういうことなんだよ!! 今の演出は一体なんだったんだよ!!

 突っ込みどころが多すぎて、逆にどこから突っ込んでいいのか分からねえよ!!

 フルートも美女が台無しになる顔で、なんか呆然とタマゴを見ているよ!!


「……何? 何をしたの?」


 タマゴは至って真剣な様子で、不敵な笑みを浮かべた。


「――<輝かしい筋肉>は、一定時間相手を動けなくさせる技だ」


 ……え?

 あれ? まさか今の演出と振り、相手を油断させるための……?

 タマゴが言った通り……なのかどうなのか、フルートは今自分が動けない事に気付いた様子で、なんとか身体を動かそうと必死になっている。

 ……おお。形勢が逆転して、タマゴが超有利になってしまった。

 本当に決めポーズだけで相手を圧倒するとは……

 タマゴは余裕を持った足取りでフルートの目の前まで来て、腕を組んだ。


「……今の俺様には、君を全力で攻撃することができる」


 フルートは泣きそうな顔をして、タマゴを見ていた。……確かにあの筋肉で殴られたら、女性ではちょっと見るも無残な感じになるだろう。

 ……あまりそれは、見たくないな。


「今ここで降参するなら、許してやるが?」

「……しないわよ!! そんな事したら、私が殺されるだけでしょ!!」

「じゃあ、最後まで戦うんだな?」


 タマゴの表情には、もう笑みはない。至って真剣な顔で、フルートにとどめを刺そうとしていた。

 ――やばい。こいつ、本気か。

 というか、こいつが勝ったら次は俺となんだが。そっちの方が心配だよ。

 フルートともあまり戦いたくはないが。


「……た、戦う、わ」

「よし。ならば受けるがいい」


 涙目のフルートと、強気なタマゴ。

 そうして、勝敗は一瞬にして決定しそうだった。

 タマゴは拳を構え、そして――――


「ジョウガイ・ハコービ!!」


 フルートを一生懸命場外まで運んで、ステージ外に立たせた。

 今度は観客席を見て、ポーズを決める。


「輝く・リンゴの・アップリケ!!」


 ……なるほど。本当に、決めポーズ『だけで』勝つんだな。


「俺様の名前は――……、タマゴ・スピリットさ!!」


 決めポーズ以外に何か優秀な技があるのかとか、何も分からなかったな。

 今後が心配だ……


「アルトさん、次はタマゴさんと戦うんですね」

「……ああ」


 まあ、何はともあれ。俺の次の対戦相手はタマゴだ。

 王宮での戦闘からして、かなりのベテランだ。心して掛からなければな。


「タマゴ・スピリットさ!!」


 だから名前言い過ぎだろ。


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