34_輝くリンゴのアップリケ、です
さて、決勝トーナメント一回戦、俺は無事に勝ちを名乗り出た。
一時はどうなることかと思ったが、意外と勝てる方法っていうのは転がっているもんなんだなあ。
そんな事を考えながら、ルナにセントラル・シティのお菓子屋さんでひねりあげを買って来て貰い、モンクに買い与えている所である。
モンクはすっかり俺のことを気に入ったのか、隣に陣取って一生懸命ひねりあげを食べていた。
白髪褐色ロリがひねりあげを食べている様子は、とても様になっている。
しっかり鎧で武装しているのも、着ているというよりは着せられている感じでなおよろしい。
「ところで、小僧とそのお付きは何故まだステージ端に残っておるのだ? 一回戦は終わったのだから、戻ってもよかろう?」
たどたどしい日本語でモンクが俺に聞く。
なんか、ほんわかとした気分になる。元おっさん、お前結構可愛かったぜ。
「一応、対戦相手を見ておこうと思ってな。誰が勝ち抜くか、どんな戦闘スタイルなのか分かっていれば、今後は戦いやすいだろ」
元々、そんなことは予選(?)の時点からやるべきだったのだ。すっかり忘れて今まで勝ち上がって来たことがそもそも異常。
敵を知り己を知れば百戦なんとやらとかいうやつである。
モンクがぶっ壊したステージを、運営の魔法使いたちが修復して――そんな事してたのか。だから、ステージはいつも対戦前には綺麗な状態なんだな。ごめん、トゥルーとモンクがひどいことして。
程なくして、対戦者が前に出る。
「シープコーナー!! 今回も出るか!? 魔性の誘惑!! フルート・ビクトリアン――!!」
直毛の、ルナとは違ったベクトルの金髪美女がステージに上がった。なんか、ルナとトゥルーを足して二で割った感じの美女である。悪くないな、こういうのも。
なんかほっぺたが痛い。
見ると、ルナが俺の頬をつねっていた。
「……なに?」
「べっつにー?」
顔が怖いわ。
トゥルーがさり気なく、俺にその破壊的な胸を押し付けてくる。
「……なに?」
「あたしはいつでも歓迎だよ、ダーリン!」
本当になんだよ。まあ、分かってるけど。
どうしてこの世界では俺、こんなにモテモテなんだ。
「さて、ホープコーナー!! ……あれ? 今回も居ませんね」
今回も、ってことは今までも居なかったのか。そういえば、途中からステージ端にも居なかったな。一体どこに――……
と思っていたら、どこからか音楽が聞こえてきた。昭和ウン年代のヒーローものっぽい古さの音楽だ。
俺はやる気のない笑みを浮かべた。
「観客席の一番上だ――!! へりの部分に、男が立っているぞ――!?」
俺は観客と共に、その観客席の端とやらを見詰めた。
昭和っぽい音楽と共に、背を向けて仁王立ちする男。
「輝く・リンゴの・アップリケ!!」
いつの間にかスピーカーが独占されていて、もはや会場は奴の空気で一杯になっていた。
だが、観客は特に奴に反応することはない。
なんだ、この手慣れた空気。
「俺様の名前を――!! 知ってるかい――!?」
知らねえよ。知ってても言わねえわ。
当然のように、観客も何も言わない。
「タマゴ――!! スピリットォ――!!」
いや自分で言うのかよ!!
振り向きざまに逆光に身を包んで白い歯を煌めかせた男は、そのまま観客席の一番端から飛んだ。
「とうっ!!」
ええ、まさかあんな場所からステージまで跳ぶのか!?
ものすごいジャンプ力だ。観客席を飛び越え、そのままぐるぐると回転する。ステージのホースコーナーまで向かい、そして――
こけて頭からステージに激突。
……あー、ね。
「俺様の名前は!! タマゴ・スピリットさ!!」
折れないのか。精神強いな。
音楽が止み、静寂が訪れた。すべてこの男のせいである。
なんのこっちゃ。
「あ、レディー・ゴ――!!」
ほんと、実況に申し訳ないわ。
タマゴは試合が開始するなりフルートとかいう美女に向かって走って行き、ステージ中程でジャンプした。
「……タマゴ・スピリット。あんたのふざけた態度は、いつかどうにかしたいと思っていたのよ」
……あれ? 二人、知り合い?
フルートはタマゴに向かって、忌々しいと言わんばかりの表情でいた。
タマゴはその様子に、軽く笑う。
そうか。もしかしてこのフルートとかいう美女、ビーハイブのー……
「俺様はたった一人でも、君たちを全員止めてみせるぜ。ルナ・セントは渡さない」
「上等!!」
フルートが巨大な――扇だ。扇を二つ取り出すと、……取り出すと、
なんか、エロい踊りを踊った。
「<眠くナール>!!」
いや直接的すぎるだろ!!
突っ込みもさることながら、フルートは腰の動きを中心とした艶かしい踊りを踊っている。
……いやあ、エロいな。
「……トゥルー、あいつ要注意よ」
「御意。今度殴り込みに行こう」
いつの間にか、ルナとトゥルーの間で謎の同盟が結ばれていた。
俺の後ろで、ふと引っ張られる感覚を覚えた。振り返ると、ミヤビが切ない顔をして俺の服を引いている。
どうしたんだろう。
「……あの、アルトさん。どうすれば、あんな感じになりますか」
トイレ少女はほっこりする質問を俺にぶつけていた。
思わず顔が緩んだ。こいつ、前髪切ったらこんなにも可愛い。
白装束も可愛さを引き立てていて、なんかいい。
「いや、お前はそのままでいいんだ」
「……ほんとですか?」
「ああ、お前はそのままが一番可愛いよ」
あ、嬉しそうにしてる。いやあ、今度バナナを買ってやろう。
っとと、しまった。ステージに集中するのを忘れていたぞ。
ステージに視線を戻すと、タマゴは――やはり、眠ってしまったようだ。
この勝負、あったか……? フルートはあっさり眠ったタマゴに近寄っていく。
こういう場合、実はフェイクだったりするもんだが。
「死ねっ!!」
フルートは扇を振り被った!!




