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南星北星が大きな花を持って遊びにきました。
『今日はずいぶん大きなお花を持ってきたのですね』
乙女が大きな花を珍しそうに眺めます。
南星が言いました。
『このお花ってなんかお兄ちゃんに似ていると思わない?』
北星は花の茎を振り回して、ちゃんばらごっこをしています。
『そういえば太陽さんみたい周りをぱっと明るくする感じのお花ですものね。なんという名前の花ですか?』
『向日葵っていうんですよ』
いつの間にかやってきた太陽が言いました。
南星が言います。
『この花ってお兄ちゃんの事が好きなのよ。いっつもお兄ちゃんの方を向いて咲いているのよ』
太陽はぱっと顔を輝かせて笑うと言いました。
『そんな事ないですよ』
そこで北風がやってきて口を出しました。
『それは違うぜ。一般的には向日葵が太陽の方角を向いているって言われているが、実は成長に伴うものなんだ。向日葵は花が咲くまでは太陽を追いかけるように東から西に向きをかえるが、花が咲く頃には成長が止まるから動かなくなる。って、これは茎頂に一つだけ花をつける品種で遮るもののない日光を受けた場合の話で、多数の花をつけるものや日光を遮るものがある場所では必ずしもこうはならないんだそうだ』
『まぁそうだったんですか。北風さんは物知りなんですね』
乙女が興味津々で北風の話を聞いていると太陽が遮りました。
『それで北風さんは何担いでいるんですか?』
北風はよくぞ気がついてくれたという顔をして答えます。
『これはな。柳っていうんだ。風で揺れる楚々とした様子が情緒あるんだぜ』
太陽はちょっと呆れ顔で言いました。
『それでどうするんですか。その柳。根っこごと引き抜いてきて』
『この柳が立っていた所の水脈が枯れてきちまったらしいから、どこか水が豊富な所に移してくれてって頼まれたんだけど、どこか良い場所を知らないか?』
それを聞いた乙女はおずおずと口を開きました。
『あ、あの、この湖の奥に泉があるのですが、そこは如何ですか?最近、湧き出たばかりであまり動物達にも知られていなくて草木も生えていなくて、ちょっと寂しい所ですけど、そのうち動物達も遊びにくるだろうし、草木も生えてにぎやかになるでしょうから、きっと居心地はよろしいかと思います。もちろん柳さんがよろしかったらですけど』
『よし、その泉に行ってみよう。柳は仮眠状態だから、泉の側に植えてみて、元気になったら意見を聞いてみよう』
『こちらですわ。こちら』
乙女は嬉しそうに手招きしながら歩き出しました。