渡り鳥の翔き
ログ・ホライズンの二次小説『渡り鳥の日々』は、本編では詳しく乗っていない中小戦闘系ギルドの日々を中心に書いていきたいと思います。
また、原作キャラともある程度出演させたいと思いますが、それによってキャラや物語の自己解釈が多く出てくると思います。そういったものが嫌いな方は、どうぞお手数ですが閲覧しないことをおすすめします。
それでもイイと思う方は、どうぞ渡り鳥の暮らしを楽しんでください。
世界最大級の大規模オンラインゲーム〈エルダー・テイル〉
素人泣かせのその難易度の高さは、歯ごたえのあるゲームをするなら〈エルダー・テイル〉とゲーマーに言わせるほどで、それでいて実に20年の歴史を誇る古参タイトルで分かるように、この世界に長い間魅了される人間は実に数多い。
今日はそんな<エルダー・テイル>に12番目の追加パックが当てられるという記念すべき日。
多くのプレイヤーが新たな追加パック___〈ノウアスフィアの開墾〉が解禁されるのを今か今かと待ち続けている。
____新たな開墾されし土地は、絶望を孕んでいるというのに。
☥
瞼の裏に突き刺さるような何かを感じて、今自分が目を閉じているのを自覚する。
目を開けて最初に写ったのは、今は見慣れない剥き出しの地面。脳が視覚からの情報を正確に把握すると、まるでバネが仕込まれた人形のようにバッと体を起こす。
無意識のうちに自分の体に触れてケガがないかを確認する。ケガは全くないようだが、少し手足を動かす事に違和感がある。
「なんだよ……っ」
「お、俺っ。おかしい、なんだコレっ!?」
「だ、誰か出てこいよっ! 責任者、おいっ! 聞いてるんだろうっ!!」
周りから聴こえる瀕死の様な叫び声。
それで初めて周りに人がいることに気づき、また、自分の中の一部分が冷やされていくのが分かった。
(・・・・・わあ)
ノアは周りの人間を見てただそう思った。
見える範囲にいるのは数十人になろうか。その人間が揃いも揃って頭を抱えて悲愴な悲鳴をあげたり、座り込んで地面をじっと見ている。共通していることは、全員の顔に困惑と当惑の色が強く出ていることだろうか。そして、それに自分も入っているということを、一部の冷静な部分が判断する。
そもそもこうやって周りを見ているのだって、突如起こった不可解な事への逃避だ。咄嗟に余計なことに思考を巡らして、思考がストップするのを防いでいるにほかならない。だが、その御陰で周りのように取り乱さずにすんだ。
あとは、ただの幸運なのだろう。
周りに感情と心情を代弁している人が居るから、ノアはそれらに飲み込まれずにこうやって周りを見る余裕が出来たのかも知れない。もしかしたら慣れなのかもしれないけど。こんな理解不可能な集団幻覚(多分)に対してはないが、自分の弟達(+父親)が面倒な厄介事をよく持って来て、予想外なことがよく起こる家庭で育ったから、耐性が少なからずついたのだろうと、妙に納得する。
(さて、どうしようかな)
心の中で滅多に感謝しない男共に感謝してから、座り込んで手のひらを握ったり開いたりする。
正常に動くが、手の大きさが覚えている手より少し大きい。先ほど感じた違和感はこれのせいかと納得する。
(あとはやっぱ少し体が動かしにくい・・・かな。てか、これホントになんだろ)
体を見回すごとに揺れる袖や腹部を圧迫している物に目がいき、今自分が着ている服は朝着たものとも違う、けど見慣れたものだ。
和もの服で、でもそれが祭りや成人式に着るようなものじゃなくて、巫女や神主などの神職が着るようなもの。もちろん、ノアはそんな職業には就いていないし、コスプレの趣味もない。ただ、この服に見覚えはある。そして周りも、たっぷりした布の衣服を身につけ、あるいは鎧を着込んだ中世ファンタジー世界の住民の姿をしている。その姿も、見慣れたものだ
(〈エルダー・テイル〉。・・・だよね、これ)
〈エルダー・テイル〉は世界最大級の大規模オンラインゲームであり、内容としては剣と魔法の世界をモチーフにしている。
ただ、たとえ何をモチーフにしようと、いくら大規模になろうとも〈エルダー・テイル〉はゲームだ。現実には存在しない、モノ。それがゲーム。
じゃあ、ココは?
ノアは頭を振ってその問いを振い落す。
今考えるべきでは無い、と。闇に突き落とされる、と。決して豊富とは言えない、けれど人一倍濃い人生経験がノアをギリギリでつなぎ止める。
だけど、この不可解なことへの原因を考えてしまうことを止めることはできなかった。「なぜこのようになったのか?」「自分は今日、何をした?特別なことでもしたか?」それは周りの人間が皆考えていることで、困惑して座り込んでいる原因。ノアも周りと同じようになるはずだった。
〈エルダー・テイル〉のメニュー画面が現れなければ。
驚いたが、それより先に光が見えた気がした。
「報告機能」を使えば助かるのじゃないか?そんな楽観的とも言える考えが浮かんだが、今のノアはそう判断できるほど精神的に余裕が有るわけではない
。
だが現実は過酷で、当たり前のように「報告機能」は機能していなかった。
(・・・・・・・・・まぁ、当然と言えば当然か)
絶望が少し湧き出てきたが、それと一緒に冷静さも戻ってくる。
期待してなかった訳ではない。これで終わってくれ、という切望に似た希望を持ってはいたが、それとは別に無理だろうと判断していた自分もいた。
〈エルダー・テイル〉のメニュー画面が出た時点でココは〈エルダー・テイル〉の世界だと証明された。ノアの時代に、これほどまでリアルなヴァーチャル・リアリティが科学で再現されるなんて一度も聞いたことがない。つまり、これは小説の様な摩訶不思議なことが起こった。と考えたほうが現実的なのだ。
・・・・色々と矛盾しているけど、今はそう考えるしかない。
なんでもいい。たとえそれが真実じゃなくても、自分が納得できたらそれで十分。ひとまずこの難題を保留することができる。
大変なことが起こったら、冷静さを失ってはだめよ。じゃないともっと大変なことになるから。それに「何故?」なんて考えてもだめ。それよりも「これからどうするか」考えなさい。理由は後でいくらでも考えれるけど、現状をどうするかは、その時しか考えられないのだから。
そう小さい頃から母さんに言い聞かされてきた。
母さんはこういったことを想定して言ったわけではなく、すぐ傍に何をするか全くわからない爆弾どもがいたからだろうが、それは幾度なくノアを家(お騒がせ屋とその弟子)や学校などの様々な場面で助けてくれた。それは意図せず今回も。
何度目かもわからないほど感謝し続ける母さんに今回も心の中で「母さんの子供に生まれてホントに良かった」と何度も念じる。最近は感謝するのは当たり前すぎて、こう思うようになった。
先まで自分は、ギルドのメンバーと北欧サーバーまで遠征しに行っていた。けど、今日は〈エルダー・テイル〉に12番目の追加パックが当てられるという記念すべき日だったから、〈妖精の輪〉を使って日本サーバーまで帰ってきたはずだ。それは他のサーバーに行っていたギルメンも一緒。
いくら遠征がメイン活動とはいえ、ルーキー時代を駆け抜けてきたここが一番思い出深いから、誰かが言い出すこともなく全員がココに帰ってきたはずだ。
(とすれば、自分がココに転がっているということは、他の皆もこの辺りに居るっていうことかな?)
今自分が出来ることと言えば、ギルメンと集まるぐらいだ。
人数が増えたところで何が分かるか全く不明瞭だが、精神的に安定するだろう。
そう結論づけて、ノアは今自分の目の前にあるフレンドリストを見つめ(四苦八苦しながら)慣れしたんだ戦友の名を呼ぶ。
うずくまった同胞たちを横目に、一羽の渡り鳥は自らが安心できる止まり木に向かって羽ばたき出す。
.
ようやく始りました。
かなり亀更新ですけどよろしくお願いします_(._.)_




