短期バイト
「ねえ悟史。夏休みって何か予定ある?」
放課後の教室。
窓から差し込む夕日を眺めていた俺に、彼女の美咲が声をかけてきた。
「あー、そうそう。俺、今度の月曜から1週間だけ短期バイトしてくるわ」
「えっ、バイト? どこで?」
「潮隠村ってところ。なんか時給がめちゃくちゃいいんだよ」
「潮隠村……?」
美咲は小首を傾げる。
「ほら、国内のチーズ消費量が日本一っていう村」
「あー! なんか聞いたことあるかも!」
「そうそう。そこでチーズを運ぶだけの仕事らしい」
「えー、なにそれ。大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫! 旅費も宿泊費も全部向こう持ちだし、1週間で結構稼げるんだぜ?」
「……なんか怪しくない?」
「失礼な。ちゃんとした村の募集だって」
俺はスマホに表示された求人情報を美咲に見せた。
仕事内容は、村内での物資運搬補助。
主にチーズの搬入、仕分け、運搬作業。
勤務期間は7日間。
交通費、宿泊費、食費支給。
そして何より、時給が破格だった。
「へえ……。でも、なんでそんなにチーズを運ぶ必要があるの?」
「なんでも過疎化が進んでて、若い人がほとんどいないらしいんだよ。だから力仕事を頼める人が欲しいんだって」
「ふーん……」
「しかも海が近いらしいから、仕事終わったら遊べるかもしれないしな」
「いいなー。私も行きたい」
「バイト代入ったらどっか連れてってやるよ」
「ほんと!? 約束だからね!」
嬉しそうに笑う美咲。
俺もつられて笑った。
「あ、そういえばさ」
「ん?」
「その村、なんか変わった神様を祀ってるらしいよ」
「神様?」
「ちー様、だって」
「……ちー様?」
「そう。チーズを捧げるから、ちー様」
「…………」
「…………」
「なにそれ、あほじゃん!」
「だろ!? 俺も最初見たとき笑ったわ!」
2人で声を上げて笑う。
この後、たった1週間のアルバイトが、俺の人生を大きく変えてしまうことになるなんて、この時の俺はまだ知る由もなかった。
そして。
あの日、笑い飛ばしたその名前を。
生涯忘れられなくなることを。
最後に待ち受ける恐怖。
あなたは耐えられますか?




