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武将 蒲生氏郷 第96話 乱戦への突入

山道が再び細くなり、

木々が頭上を覆うように迫ってきた。

空気が重くなり、

兵たちの足音が土に吸い込まれるように響いた。

そのとき、

前方から短い叫び声が上がった。

「敵――!」

先鋒隊の槍が一斉に構えられ、

山道の奥で金属のぶつかる音が響いた。

柴田方の小勢が、

木々の影から飛び出してきたのだ。

氏郷はすぐに馬を止め、

後方の兵に合図を送った。

「槍隊、前へ。

 鉄砲隊、後ろで構えを保て」

兵たちが素早く動き、

狭い山道で列を組み替えた。

槍の穂先が前へ揃い、

鉄砲隊は一段下がって火縄を整えた。

左馬允が周囲を見渡し、

短く言った。

「殿、敵は数が少ない。

 こちらの動きを探るための接触戦です」

その言葉どおり、

敵は深く踏み込まず、

先鋒隊の槍を受けるとすぐに斜面へ逃げた。

しかし、

その動きに合わせるように、

山の上から別の影が滑り降りてきた。

「側面だ――!」

斥候の声が響き、

氏郷は即座に判断した。

「槍隊、右へ向け。

 鉄砲隊、撃つな。

 距離が近い」

兵たちが一斉に右へ向きを変え、

槍の穂先が斜面へ向けられた。

その動きに合わせて、

敵の足軽が木々の間から飛び出した。

斜面を駆け下りる勢いは速く、

槍の間合いに入るまで一瞬だった。

だが、

氏郷隊の槍は乱れず、

斜面から降りてきた敵を受け止めた。

金属がぶつかる音が響き、

槍の柄がしなる。

敵は数名が倒れ、

残りはすぐに斜面へ逃げ戻った。

左馬允が声を張った。

「深追いするな。

 敵は誘っております」

氏郷はうなずき、

兵たちに手で合図を送った。

槍隊が列を整え、

鉄砲隊が再び後方へ下がる。

山道の奥では、

先鋒隊が敵の残党を追い払い、

再び前進を始めていた。

「殿。

 敵は本格的に仕掛けてはきません。

 こちらの隊列が乱れるのを待っているのでしょう」

左馬允が静かに言った。

氏郷は山の斜面を見上げた。

木々の影が揺れ、

その奥に潜む気配が消えずに残っていた。

「……この道は、

 どこからでも出てこられるな」

「はい。

 だからこそ、

 殿の隊が“軸”になります」

氏郷は手綱を握り直し、

兵たちに声をかけた。

「列を崩すな。

 槍は前へ。

鉄砲は火縄を絶やすな。

 進むぞ」

兵たちが静かに応じ、

列が再び動き始めた。

山道を抜ける風が、

槍の穂先をわずかに揺らした。

その揺れは、

これから本格的な戦が始まることを

確かに告げていた。


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