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武将 蒲生氏郷 第120話ジョアンが軍制資料を提示

(天正十四年・1586 京都・南蛮寺文書庫)

文書庫の奥にある長机の上に、

ジョアンは冊子を三つ並べた。

「まずは隊列図です」

ジョアンは一つ目の冊子を広げた。

紙が擦れる音が、

静かな文書庫に響いた。

図面には、

歩兵を三つの塊に分けた陣形が描かれていた。

前列、中列、後列。

それぞれの位置が正確に線で示され、

交代の順番が矢印で記されていた。

「テルシオと呼ばれる隊列です。

 歩兵を三段に分け、

 交代で射撃を行います」

氏郷は図面を覗き込み、

検討を加えた。

「この幅……

 日本の隊列より広い。

 山間では使えぬが、

 平地では有効だ」

左馬允が補給の図を広げ、

隊列の幅と照らし合わせた。

「交代の間隔は、

 日本の鉄砲隊より短い。

 弾薬の補給が追いつくかどうか……

 補給地点を増やす必要があります」

ジョアンは二つ目の冊子を開いた。

「次は鼓笛の信号表です。

 進軍、停止、交代、射撃。

 すべて音で指示します」

冊子には、

太鼓と笛の組み合わせが記され、

それぞれの意味が日本語に翻訳されていた。

左馬允が地図を開き、

山間の地形を指した。

「音は谷では響きにくい。

 旗と併用する必要があります。

 旗の位置は……ここだ」

氏郷は地図の端に、

旗の位置を小さく書き加えた。

ジョアンは三つ目の冊子を広げた。

「これは火器の交代射撃の手順です。

 前列が撃ち、

 後列が前へ進み、

 再び撃つ。

 これを繰り返します」

図面には、

射撃の順番が番号で示され、

前列と後列の動きが矢印で描かれていた。

氏郷は日本の鉄砲隊の図を取り出し、

南蛮式の交代手順を重ねていった。

「日本の鉄砲隊でも使える。

 ただし人数は調整が必要だ。

 前列を三列にするか……」

左馬允が補給線の図を指した。

「弾薬の運搬は、

 この位置に荷駄を置けば間に合います。

 交代の周期は……

 この戦例が参考になります」

氏郷は筆を走らせ、

交代の間隔を図面に書き込んだ。

氏郷は鉄砲隊の図を閉じ、

机の上の図面を見渡した。

南蛮の隊列、

鼓笛の信号、

火器の交代射撃。

それらが日本の兵制と重なり、

一つの形を成し始めていた。

左馬允が静かに言った。

「この三つ、

 軍団運用に使えます。

 補給線と合わせれば、

 戦の流れが整います」

氏郷はうなずき、

左馬允に向き直った。

南蛮の線と日本の線が、

静かに重なり始めていた。


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