最終話
<大工のあんちゃん最終章 そして、それから。。。 完結編!!>
時は昭和88年、夏、都内のある第三高等学校の体育館裏にて。
そこには高校生だっちゅーのに、タバコをプカプカ吸ってる野郎のヤンキー共が10人、みんなでウンコ座りしてたむろってます。すると、遠くの方からリーゼントで特攻服を着た、ヤンキーの戸間須くんが大声で叫んできました。
「うおーーーーい!」
「やべ!先公だ!」
「違うよ!戸間須先輩だ!」
「みんなーーー!元ヤンの謹慎が解けたぞ!」
タバコ吸ってた10人のヤンキー連中は、嬉しさのあまりに喜んでいます。どうやら大工の息子のあんちゃんは、タバコ吸ってたのが学校にバレて、三日間の謹慎を喰らっていたそうです。
「ええ!?本当に?」
「マジか?」
「やったー!」
「先輩!」
「すげー、超パヤ!」
「半端ねーっす!」
「マジヤベ!」
「やばくねーっすか?」
「やばくねーよ」
すると太っちょ兄貴分のヤンキーである辺土呂くんが、みんなを一つにまとめます。
「よっしゃ、みんなで大工の息子を迎えに行ってやんべ!」
おーーー!!おーーー!!おーーー!!
とは偉そうに言ってるものの、学ランを着た11人のヤンキー高校生共は、授業を中抜けしてサボる口実が欲しかっただけなのです。そしてゾロゾロと、あんちゃんの実家である寄席譜大工店へ向かいます。
「あら?みんないらっしゃ~い!」
玄関で迎えてくれたのは、大工の息子の母ちゃんである麻里亞母ちゃんでした。
「あ、どうも~!」
「お母さん、こんちわ~!」
「この間のドラクエの攻略法、教えてくれてあーざっす!」
「今日はあいつの謹慎が解けたって聞いたんす!」
「みんなで迎えに来ました!」
すかさず母ちゃんはみんなに麦茶を出して、井戸端会議を始めました。みんな麻里亞母ちゃんと話すのが大好きなのです。
「ところで、あいつはどこにいるんすか?」
「あ!話しこんでで忘れてたわ!あの子、今、商店街で買い物してもらってんのよ~」
「商店街!?」
さて大工の息子あんちゃんは、謹慎明け早々に、麻里亞母ちゃんから商店街で買い物を頼まれていたのです。
「ったく、母ちゃんは大根なんて恥ずかしいもんを買わせやがって~!」
「よう!大工の息子!謹慎解けたか?」
「おお?アニキ?!ちーーーーっす!」
その声は、ヤンキー達から"アニキ"と慕われる、元プロレスラーでレコードショップの店長の余羽根でした。
「情けねぇ奴だな~、タバコが見つかって三日も謹慎してたのかよ」
「そうなんすよ~」
「まだ若いんだからよ、夢を持て!夢を」
「つっても、アニキ。俺、何がしたいんだが良く分からないんすよ~」
「そういう時は、こういうレコードを聴け」
アニキから手渡されたのは、イギリスのパンクバンドであるセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ!』でした。
「もうパンク飽きたっすよ」
「飽きたって!お前、パンクはそういうもんじゃねーだろが」
しかし、あんちゃんは全く興味がありません。
「なんか俺の柄じゃねーんすよ~。もっとこう、なんちゅーか、壮大で広大で」
「ったく、贅沢な奴め~。それなら、これなんてどうだ?」
アニキから手渡されたのは、アイルランドのロックバンドであるU2の『ヨシュア・トゥリー』でした。さっそく拝聴するあんちゃん。そのバンドサウンドに見事打ちのめされます。
「うおおおおおお!!格好いい!これっすよ!これ!俺が世界に轟かせたかったのは」
「おいおい、そんなに気に入ったのか?」
「はい!アニキ!なんちゅうか、広がりがあって救いもあって、ヨシュアって名前もいいすね~」
「なんか聖書に絡んだ曲も多いからな。それお前にやるよ」
「まじっすかアニキ!?やったーーーー!」
あんちゃんは買い物かごに大根と、U2のアルバムを入れてスキップランランと商店街を歩いています。すると、あんちゃんの仲間達が向こうから走ってきました。
「元ヤーン!」
「おーーーい!おめーら!ちょうどいい所に来たぜ~!」
「なんだ?」
あんちゃんとヤンキー仲間11人は、土管が三本置いてある空き地で会議が始まりました。
「ようやく謹慎が解けた俺様は、お前達に伝えなくてはならない事が二つある」
ザワザワザワ、ザワザワザワ、ザワザワザワ
仲間達はウンコ座りしながら聞いています。
「一つ!この度晴れて、チェリーを卒業しました!!!」
うおおおーーーー!うおおおーーーー!うおおおーーーー!
「マジかよ?!相手は誰よ?」
「フフフ、聞いて驚くなよ。枕屋の真理亜だ!」
うおおおーーーー!うおおおーーーー!うおおおーーーー!
結構童貞率が多いあんちゃんの仲間は、それを聞いただけで興奮しています。
「ちょっと!!あんた!何勝手な事を言ってんのよ!」
「え!?」
なんと!土管の上には、仁王立ちしてカンカンに怒った枕屋の真理亜が立ってました。
「スーパーダークですわ!」
「ゲゲゲ?!」
しかも横には真理亜の妹である沙良美ちゃんの姿も。
「あたし達まだ付き合ったばっかりじゃな〜い!」
「ああ!すまねー!真理亜。つい、謹慎明けで口が滑って」
「なんだってあんたのチェリー卒業になるのよ!」
ボコスカ!ドコスカ!ボコスカ!
合気道を習っている枕屋の真理亜には、さすがの大工の息子あんちゃんも敵いません。
「エロエロエッサイム~♪エロエロエッサイム~♪」
特に妹の沙良美ちゃんは、隣で魔法円を描き始めて悪魔を召喚しようとしています。
「すまなかった!俺がちょっと盛り過ぎた!」
結局、チェリーを卒業したと豪語したあんちゃんでしたが、実際には単なるキスだけをしたみたいです。
「っとまぁ、一個目の報告には、ちょっとした行き違いもあったが。。。」
ザワザワザワ、ザワザワザワ、ザワザワザワ
再び仕切り直しで、土管の上からヤンキー仲間達に二つ目の報告をしようとしました。するとどこからともなく、ヒップホップ系の音楽がなってきました。
「そこの大工!今日がお前の葬式だYO!謹慎明けたからっていい顔すんなYO!お前の高校寿命は俺が縮めるYO!繰り出すぜ俺のビート!はじけるぜお前のヒート!」
生意気な後輩の湯田くんが、ラップであんちゃんをディスり始めました。しかし特攻服着た暴走族リーゼントヤンキーの戸間須くんは、見覚えのある湯田くんを睨みつけます。そしてメンチ切って、湯田くんの胸ぐらを掴みました。
「おい!湯田~!てめーだろ、元ヤンのタバコをチクったの?」
「はぁ?しらねーYO?」
誰が見たって、湯田くんがあんちゃんをチクったのは明らかです。しかしあんちゃんは、二人を落ち着かせます。
「まーまー、ご両人!落ち着いて、落ち着いて」
しかし、戸間須くんも湯田くんも怒り心頭に発してます。
「そうは言ってもよ、元ヤン!こいつなんかムカつくんだよ!」
「うっせーYO!戸間須、お前のリーゼントの方がむかつくYO!」
「んだと!?この野郎!ニワカヒップホッパーめ!」
「うるせ〜!時代遅れの特攻隊!」
ポカスカ!ポカスカ!ポカスカ!
湯田くんと戸間須くんはいきなり喧嘩を始めました。あんちゃんはさすがにこれには切れます。
「いい加減に、しやがれ!!!!」
ドガ!ボコ!
二人に頭突きを食らわし、見事に鎮静化を図りました。
「いちち〜」
「誰がチクろうが、俺はタバコを吸った事には変わりはねぇ!」
「いててて〜」
「そんなくだらない事で、いちいち喧嘩すんな!」
あんちゃんは湯田くんのチクリを、今の頭突きでチャラにしました。
「そんな事よりも、俺はみんなに伝えたい事があるんだ!」
そして、再び土管の上に乗っかって、天に指を伸ばしてみんなにこう宣言したのです。
「俺はロックバンドを組んで、世界のロックスターを目指すぜ!」
えええええええええええええええええええええええ!?
これにはみんなびっくりでした。今までなーんも取り柄のなかったあんちゃんが、突然ロックスター宣言をかましたのであります。
「元ヤン、お前ロックなんて唄えるのかよ?」
「あったりめーだ。ロックは喉で唄うっじゃねーよ。魂だ!」
「魂っていったって、ドレミファソラシドもわからねーじゃんか」
「分かってねーな、そう言うのは込み上げる愛でカバーよ!」
「大体バンドを組むったって、他の楽器はだれがやるんだよ?」
「お前達だ」
えええええええええええええええええええええええ!?
さらにみんなはびっくりします。いつの間にかに、あんちゃんの目指せ!世界のロックスター計画に、既に巻きこまれていたのです。
「じょうだんじゃねーYO!俺はラッパーになりてーんだ。ロックなんかやってられっか!?」
「安心しろ、湯田くん。おめーは俺のライブのオープニングアクトを担当することになっている」
「勝手に決めるなYO!」
「これを見やがれ!野郎ども!」
するとあんちゃんは、ボロボロの紙切れを出しました。なんとそこには12人の仲間の役割分担が細かく書いてあります。例えば太っちょ辺土呂くんはドラム、戸間須くんはベースという風に。しかも枕屋の真理亜と沙良美ちゃんはバックコーラスです。
「見てみろよ!僕はチケット配りだ」
「俺はセキュリティーだぞ」
「僕なんかチューニングだよ」
「あああ!なんで俺はマネージャーなんだ?」
「僕は照明係だ」
仲間はあんちゃんのアイディアに困惑していますが、あんちゃんはワクワクしています。
「みんなもっと喜べ!これから毎日が文化祭なんだぞ」
あんちゃんはすっかりその気になり、母ちゃんに頼まれた大根をマイク代わりに、愛のロック・バラードを唄い始めました。呆れている他の連中はブツクサ文句を言いだしました。
「俺達まだ高校生だし」
「世界のロックバンドなんて今から無理だって」
「そうさ!そうさ!」
「日本でも有名になるのは大変なのに」
「もう、有名なバンドはいっぱいあるし」
「今更ロックバンドなんて古臭いよ」
「女の子にもてなさそうだし」
「チケット配りなんかやだよ~」
ブツクサブツクサ、ブツクサブツクサ、
するとあんちゃんは耐えきれなくて、みんなを叱責しました。
「お前ら!やる前から諦めて、どうするんだ~~~!?」
ゴリッ
あんちゃんは怒りのあまり、大根をかじりながらみんなに説教を垂れ始めます。
「いいか?(モグモグ)夢や希望っていうのはな(モグモグ)、そう簡単に(モグモグ)見つからねーンだよ(モグモグ)でも、お前達はそれが見つかったんだ!(モグモグ)すばらしいことじゃねーか(モグモグ)」
すると府利帆くんが鋭い突っ込みをします。
「でも、それって先輩の夢じゃないっすか」
うんうんうん。確かに確かに。
他のみんなも頷き始めます。
「ばっかだなー!それでもいいんだよ(モグモグ)!」
「ええ?なんでよ?」
「それじゃ聞くけど(モグモグ)、お前には他にやりたい事あるのか(モグモグ)?」
「やりたい事ね。。。特にない」
「だったら、それが見つかるまで、一緒に同じ夢を追いかけようぜ(モグモグ)」
するとあんちゃんは大根を全部食った後、土管の上から両腕を広げ、みんなに語りかけたのです。
「いいか?明日も同じように体育館裏でお前達はタバコ吸うだろ」
「。。。」
「でもよ、先公にタバコばれるのビクビクするよりも!みんなで同じ夢に向かってワクワクしたほうが楽しいとおもわねーか?」
すると夕陽があんちゃんの全身を照らしました。その姿は、謹慎明けの高校生にしては、結構神々しい姿です。気が付くと、みんなはあんちゃんの言葉に心を打たれていました。
「そうだな。ワクワクした毎日を送るのも悪かねーな」
「そうっすね」
「ビクビクよりもワクワクか!」
確かに退屈な毎日ですが、なんでもいいから何かに向かって頑張った方が、きっと楽しいかもしれないと思い始めたのです。
「俺もその夢を見させてくれ」
「あたしも!」
「スーパーポジティブにお願いしますわ!」
すると一人、また一人と照れくさそうにあんちゃんに握手します。みんなあんちゃんの夢を一緒に追いかけようと思ったのです。ただ一人、背を向けてる湯田くんを除いては。
「おい、湯田。お前も一緒に夢を追いかけようぜ」
「じょーだんじゃねーYO!」
しかし湯田くんはムスッと怒りながら、あんちゃんに近付きました。
「俺はヒップホッパーになりたいんだ!ロックなんかやってられっか!」
するとあんちゃんは何かを思いつきます。
「それなら湯田。俺とお前、どっちが世界で有名になるか競争しようぜ!」
「な、何?!」
「お前が必要なんだよ、湯田」
口を尖がらせてた湯田くんでしたが、ニコニコ笑顔のあんちゃんには敵いません。
「しょ、しょーがねぇ~から、ブラザの為に俺も参加してやる!」
あんちゃんは湯田くんの素直じゃない性格が気に入りました。湯田くんもそんなあんちゃんの寛大な心が眩しく感じました。こうして高校生のみんなは同じ仲間と共に、同じ夢を一緒に追いかける事になったのです。
「おい、元ヤン!」
「なんだ?」
「必ず世界のロックスターになれる自信はあるんだろうな?」
するとあんちゃんは、とっても陽気な笑顔で次のように答えたのです。
「イエス!」
おしまい。




