第百二十九話
<大工のあんちゃん最終章 受難!ゴルゴタ丘ライブへの道編!!>
「おい!ヘロデ!どういう事だ!?」
あんちゃんを突き返すと返事したヘロデの元へ、ピラトゥスがやって来たのです。来るなり堕落した宴会は、ピタリと静まり返りました。ヘロデは酒に酔いながら、ピラトゥスに千鳥足で近付いていきます。
「これはこれは~、ピラトゥス様。お久しぶりでございまする~」
「このナザレの大工をワシにつき返すだと?何故だ!?」
「だって~。この男が見ての通り、ユダヤの王ですからよ」
すると側にいたヘロディア皇妃は、まるで憎しみを吐き出すようにあんちゃんへワインをぶっかけました。ピラトゥスはそんなヘロディアの姿にびっくりします。
「ピラトゥス様、この男はペテンで嘘つきで、あの洗礼者ヨハネ様には似ても似つかないほどの屁理屈大魔王です。危うく私も夫も騙される所でした」
「そうなんです。ですから~、この者の処遇は、ユダヤ属州総督のピラトゥス様にお返しする次第でございます〜」
しかしピラトゥスは、これには何か裏があると悟ります。静かに俯いているあんちゃんを見るピラトゥスですが、その意図がなんだかわかりません。
「ヘロデ。貴様、ワシに対して一体何を企んでる?」
「企む?滅相もございません。私はユダヤとローマの法に乗っ取ってですね。。。」
話途中でピラトゥスはヘロデの胸ぐらを掴み、真意を聞きだそうとします。
「猿芝居はいい加減にしろ!いいか?ヘロデ。ワシは貴様に任せると言ったはずだ!」
すると、今までお茶らけていたヘロデは真剣な顔になり、ピラトゥスに自分の考えを語り始めます。
「ピラトゥス様。ご存じのとおり、私の父はローマ皇帝に従属する人物で、エルサレム神殿に金の鷲をすえようとしたほどです。そのためユダヤ教指導層からは忌み嫌われておりましたが、私も父とは同じ考えでございます」
「つまりお前達は、カヤパ達が主張する罪が、この男には無いと申すのか?」
「だって見てくださいよ〜。この男は元ニートで大工だったんですから。なんだってカヤパ達は、こんな男一人に脅えているのですか?三日でエルサレム神殿を立て直せるからですか?そんな戯言に振り回されて。それができるなら、何故未だに捕まったままでいるのでしょうか?」
ヘロデはあんちゃんに唾を吐きかけ、奴隷以下の扱いで愚弄します。そして真剣なまなざしでピラトゥスを睨み、ゆっくりとした口調で脅しを掛けました。
「それでもまだ、私にこの男の処遇を委ねるのなら、父と同じように、私もローマ皇帝に謁見しなければなりませんな~」
「な、なんだと!?貴様!この私の属州総督のリコール権を発動させるつもりか!?図に乗りやがって!」
パシン!
自分の胸ぐらを掴んでいたピラトゥスの手を、ヘロデは激しく払い除けました。
「いいのですか!?ピラトゥス様。もしこの男をローマ帝国の代わりに裁いた場合、民衆は自分達の国を穢した人物として、私だけでなくあなたにも必ず反発を持ちますぞ!それはユダヤ教指導層とて同じ事です!」
「!?」
「それに先日処刑された皇帝の右腕セイヤヌスの傘下で、ピラトゥス様も好き勝手になさってましたよね?ティベリウス皇帝に粛清されるのも、時間の問題ではないでしょうかね?!」
「ぬぐぐぐぐぐ!!」
これにはピラトゥスも怒りを堪え、歯ぎしりするしかありませんでした。ですがヘロデは、敢えて低姿勢でピラトゥスに決断を委ねます。
「我々ユダヤ人にリコールされるのが先か?それともティベリウス皇帝に粛清されるのが先か?それとも。。。四者択一、決断をお願いします」
「くっそ!!!」
するとピラトゥスは苛立ちながら、くるりと向きを変えて出ていきました。
「ロンギヌス!このナザレの大工を、ワシの宮殿へ戻すんだ!」
「は!了解しました!」
ピラトゥスの責任転嫁は失敗に終わりました。あんちゃんはヘロデ達ををチラッと見ると、二人共にふぅ~っと胸を撫で下ろしています。ロンギヌスはあんちゃんの側によって、紺色のマントを脱がそうとします。しかし、あんちゃんは首を横に振りました。
「ロンギヌスの旦那。このままでいいんだ」
「どうしてだ?」
「この格好、馬鹿で滑稽だろう?」
「確かに、バカで滑稽だな」
「でも馬鹿で滑稽であればあるほど、民衆にはカヤパ達が望んでいる事が、さらに馬鹿で滑稽に見えてくるってわけさ」
「フッ、なるほど。さすがヤンキー根性が据わってやがる」
こうしてあんちゃんは、ヘロデ国王と共謀した猿芝居で、まんまとピラトゥスに突き返されることに成功したのです。
「なんザマスと?!それは本当ザマスか?!」
「本当なんすYO!商売を邪魔された商人達の怒りは凄くて、あっという間にピラトゥス宮殿に行っちまいました」
「ヤッターーーザマス!」
「それだけじゃないっすYO!なんと、ヘロデはブラザーの処遇を保留にしたまま、ピラトゥスに突き返したんっすYO!」
「な、なんとラッキーーーーーザマス!!!」
カヤパはようやく、事が自分の思い通りに進んだ事に感激し、目をキラキラして喜んでいました。
「フフフフフザマス!こうなったらピラトゥス様も、さすがに釈放は出来ないザマス!!ミーも直接行って、あのナザレの大工を磔刑にするよう、訴えるザマス!!」
「あの、カヤパ様。そしたら、あちきはここら辺でドロンさせてもらっても。。。」
ムギュ!
忍者のように逃げ出そうとしたユダを、カヤパはすかさず耳を掴んで制止しました。
「いててててて!!」
「逃げるんじゃないザマス!民衆が心変わりしないよう、お前は最後まで奴らを煽るザマス!」
「や、やっぱり〜!」
さて、ピラトゥスの宮殿に再びたらい回しされたあんちゃん。留置所の牢屋で放り投げられます。その横には、先ほどあんちゃんを救ったバラバも居ました。
「おや?さっきの大工あんちゃん!」
「やあ、バラバ!へへ〜ん、無事に帰ってきたぞ」
「さすがアニキの後継者だな〜。すごいすごい!」
「まぁ、なんちゅうの?俺に掛かれば、お茶の子さいさいよ」
二人は留置所の中で、アニキの昔話に花を咲かせていました。
「それでオラが邪気のオーラに蝕まれた時、アニキは自ら飛び込んで、リベカに貰ったオラの優しい気持ちを、しっかり見つけてくれたんだ」
「そうか、そんな事があったのか。さすがアニキだな。きっと俺にはできなかったよ」
「でも、そのアニキが最期には、大工のあんちゃんを唄っていたんだ。とってもいい曲だって」
「バラバ、ヘロデっちにも言われたけど、俺は世界を救うとか、救世主のメシアとか、そんな器じゃねーんだよ」
「大工のあんちゃん。。。」
あんちゃんは悲しそうに俯き加減で、自分の正直な気持ちを告白します。
「俺の人生の殆どは、まぐれとラッキーで固められた、まるでおもちゃ箱みたいなようなもんさ」
「でもオラの聞いた話じゃ、あんちゃんは多くの人の傷を癒したり、偏見のあった人々を導いたりしたんだろ?熱心党だったオラにはできなかったさ」
「ははは、バラバ。それはたまたまギリシャの哲学書や医学書を読んでたからで、成り行き上したまでのことさ。アニキだってこのくらいは日常茶飯事。だからアニキこそ、世界を救うに相応しい人物だったと思うんだわ」
あんちゃんの感慨深い言葉に、バラバは、ただ見守るしかできませんでした。
「あ〜あ!聞いてらんねぇぜ!」
「うん?」
その声はバラバとあんちゃんの目の前の牢屋から聞こえてきました。
「全くこれだから、政治犯って連中は、自画自賛で手前味噌、美談に酔いしれる、夜郎自大ってところだな!そう思うだろう?ディスマスよ」
「本当、本当。ゲスタス兄さんの言う通りだわ」
彼らは裕福層ばかりを狙う、強盗族のディスマスとゲスタスでした。
続く




