太陽の王子
これは今でないとき、
ここでない場所のおはなし。
若く勇敢な王子と
美しく聡明な姫と
愚かな魔女の
悲しい結末を迎える物語。
けれどこれは
悲しい結末を
避けることができたはずのおとぎ話。
道化が語るこの話を
よぉく聞いて、
よぉく考えてごらん。
彼らは
彼女らは
何を間違えた?
誰が悪くて
何が正しかった?
それでは始めよう。
すべての物語は
むかしむかし
で始まる。
むかしむかし、
とある南方の大国に
ひとりの王子様がいた。
王子は勇敢で優しく、
国民にたいそう慕われていた。
王様もお妃さまも
王子を誇りに思い、
王子は周囲の期待に応えるよう
努力を重ねていた。
王子の首元には
生まれた時から
太陽を思わせる痣があり、
人々は彼を
『太陽の王子』
と称えていた。
王子は成長し
立派な青年になった。
時を同じくして
世界に暗雲が立ち込める。
遥か北の地、
雪に閉ざされた山脈の向こうに
悪魔が降り立ち、
世界を呪い始めたのさ。
麦は立ち枯れ、
魚は岸辺に打ち上げられて
腐臭を放つ。
人々は餓え
人心は荒み
各地で争いが絶えない。
世の荒廃に心を痛めた王子は
自ら王様に申し出る。
「私が北の地へ赴き
悪魔を討伐してまいります」
我が子の身を案じたお妃さまは
王子に考え直すよう言い、
国の行く末を案じた王様は
王子の献身を称賛した。
「見事悪魔を討ち果たし
世に平和と安寧を」
心配の尽きないお妃さまは
宮廷に仕える占い師に
王子の運命を占わせる。
占い師の老婆は
水晶玉をのぞき込み、
王子に一つの予言を授けた。
「太陽は月光を受けて輝きを増し、
星に導かれて悪魔を滅ぼすだろう」
予言の意味は分からなかったが、
『悪魔を滅ぼす』という言葉は
王子を勇気づけた。
王国一の鍛冶屋の手になる
一振りの長剣を携え、
王子は悪魔討滅の旅に出る。
人々は王子に希望を託し
その旅立ちを見送ったのさ。
どうか悪魔を討ち取り
世界に平和と安寧を。
そう言って手を振ったのさ。
王子と共に戦うと
ついていく者はいなかったのさ。
そして、
占い師は小さくつぶやく。
誰にも伝えなかった予言の続き。
「悪魔を滅ぼして後、
太陽は沈み、
月は光を失う。
陽光を求めて星は流れ、
世界は闇に包まれるだろう」




