建物浄化
「なるほどね。確かに取り込み中だわ」
その物件を見たエリサベスは呆れてしまう。建物は、暗いオーラに取り込まれていて、かすかに人の叫び声が聞こえてきていた。
「見るまでもありませんね」
「おもいっきり事故物件なの」
エレルとアヤコもいやそうに建物を見つめる。その窓には時折うっすらと人影がうつったり、怪しい影が廊下をうろついていた。
「あの……ここの屋敷の元主人は金貸しをしていたのですが、ある日強盗が襲ってきて、家族全員皆殺しに……」
「うん。見ていればわかる。みんな、帰るぞ」
サクセスがみんなを促して帰ろうとすると、あわてて職員にとめられた。
「も、もう少しお待ちください。ただいま浄化作業が行われていますので」
「浄化作業?誰か中にいるの?」
エリサベスが聞くと、職員は近くに止めてあった豪華な馬車を指差した。
「はい。魔法の使い手として名高い、名門モントリオール侯爵家のお坊ちゃまがお付の方と一緒に悪霊払いの儀式を行っています。もう少ししたら終わって……」
職員がそういうと同時に、建物の中から叫び声が聞こえてきた。
同時にドアが開いて、ボロボロになった男が出てくる。
「た、助けてくれ!」
その男は、サクセスたちを見ると必死にすがり付いてきた。
「何があったのですか?」
エリサベスが聞くと、男はほっとした顔になる。
「そ、その聖なる魔力!あなたは聖女さまですね!お願いです。お坊ちゃまを……」
「俺たちには関係ない。帰るぞ」
エリサベスを引っ張って帰ろうとしたが、彼女は優しい笑みを浮かべて男に話しかけた。
「よければ、事情を聞かせてくださいませんか?」
「は、はい……」
こうして男は事情を話す。本来、この物件の浄化には聖魔法に特化したベテラン神官が派遣される予定だったが、途中から無理やり横槍が入り、モントリオール侯爵家の次男、ジャクソンが担当することになったという。
「なんでそんなことに?」
「お恥ずかしい事ですが……その……小遣い稼ぎです」
ジャクソンは、浄化してやる代わりに金貨100枚を要求したという。
聖属性のベテラン神官に頼むよりは安い報酬だったことと、依頼主のロックウェル伯爵家とモントリオール侯爵家が仲がよかったこともあり、強引に依頼を受けたジャクソンは、意気揚々と建物に乗り込んだ。
しかし、悪霊たちの主の怨念は強く、ジャクソンの浄化魔法のレベルでは払いきれず、逆に悪霊につかまってしまったのだという。
「お願いです。お坊ちゃんを死なせてしまったら、私たちの首も飛んでしまいます。なにとぞお助けください」
土下座して頼み込む男に、サクセスはあきれる。
「まったく。またお坊ちゃんかよ。今日はどうなっているんだ」
「見捨てるわけにはいかないわ。サクセス、助けに行きましょう」
そう毅然と主張するエリサベスを見て、説得は無駄だとあきらめるサクセス。
「……報酬は払ってもらうからな」
そう職員に告げると、一行を連れて中に入っていった。
建物の中
豪華な大広間には、何人もの男たちが宙吊りになっている。
彼らを拘束しているのは、黒い影のようなものだった。
「オオオーーー」
「ココハ、オレタチノモノダー」
黒い影はそんな声をあげながら、男たちから生気を吸い取っていた。
その中央では、ひときわ大きな影に取り付かれている少年がいる。
「くそっ!離しなさい!」
他の男たちがぐったりしている中、一人だけ元気な彼は、サクセスたちが入ってきたのを見て、偉そうに命令した。
「あなたたち!早く助けなさい!私はモントリオール家の御曹司にして、聖なる魔術師のジャクソンです」
どうやら、この少年がジャクソンらしい。緑色の髪の優美な容姿をしているが、今は見る影もなくやつれていた。
「やってみます。『ライトクリーニング!』」
エリサベスが、聖属性の浄化魔法をかけると、周囲の雑魚悪霊が浄化されていった。
「オオオーーーーキモチイイー」
拘束していた悪霊たちが天にのぼっていき、男たちが開放される。
しかし、ジャクソンを拘束していた悪霊のボスは、浄化の光に耐えて踏みとどまった。
「グググ……俺は負けん。俺は魔王様の意思を受けてこの世にとどまった身。このまま国中の悪霊を取り込み、いつの日か六魔鬼の一人、カースゴーストになるのだ」
どうやら、悪霊のボスが殺された金貸し本人らしい。
「もう、いい加減にあきらめて成仏してください。あなたは死んでいるのですよ」
「死んでも金は渡さん……」
エリサベスの説得にも応じず、むしろよりいっそうジャクソンへの締め付けを強化した。
「いたた!や、やめて下さい。これ以上刺激しないで!」
「困りましたね……」
ジャクソンを人質にする悪霊に、エリサベスはほとほと手を焼く。
その後ろで様子を伺っていたサクセスは、違和感を感じていた。
(金は渡さん?どういうことだ?この家に執着しているわけじゃないのか。ということはつまり……『鑑定』」)
サクセスはメガネで家そのものを鑑定する。すると、悪霊が執着している理由がわかった。
「エリサベス、ここを頼めるか。ちょっと用事ができた」
そういってこの場を去ろうとするので、エリサベスはびっくりしてしまう。
「えっ?ちょっとサクセス!」
「卑怯者!自分だけ逃げるつもりですか!」
それを見たジャクソンが非難してきた。
「誰も逃げるなんて言っていない。別のやり方を試してみるだけだ。いざとなったらこれを使え」
サクセスは、エリサベスの『聖なる杖』の先端に透明な石でできたレンズのようなものを取り付けた。
「エレルさんは残ってエリサベスについていてくれ。アヤコ、一緒に来てくれ」
「わかったの」
「早く帰ってくるのですよ」
エレルに万一のときのための魔石を渡し、サクセスは大広間を出る。そしてアコヤをつれて地下室に向かうのだった。
地下室
「ここには何があるの?」
「あわてるな。その前に、この袋に『拡張』の空間魔法をかけてくれないか?」
「わかったの」
アヤコが杖を振ると、何の変哲もない袋が輝き始める。その光が消えないうちに、サクセスは魔石を取り付けた。
「よし。『付与』発動。これでこの袋は魔力が切れない限り、大量のモノを収納できるようになったぞ」
はじめてサクセスの付与魔法を見たアヤコは、目を輝かせる。
「『付与魔法』って便利なの。ある意味万能なの」
「まあ、誰か魔法が使えるやつの力を借りないと、何もできないんだけどな」
サクセスの付与魔法とは、他人が使った魔法をモノに込めて魔法の道具を作り出す魔法である。自分だけでは何もできないが、仲間の力を借りることであらゆる魔法を使いこなす事ができた。
「それでもすごいの。でも、どうして魔法の袋なんて作ったの?」
「お宝を持って帰るためさ」
サクセスはそういうと、地下室を見渡す。
「えっと。『鑑定』。なるほど。これが仕掛けか」
部屋の隅に飾られている壷の取っ手をはずし、壁の穴に差込んで回す。
ゴゴゴという音と共に、秘密の隠し部屋が現れた。中には金貨の入った袋が積まれている。
「これが、あの金貸し悪霊の執着の元さ。死者に金なんて不要。全部いただいてしまおう」
「了解なの」
それから二人で協力して、すべての金貨を袋に入れるのだった。
(だが、これは表には出せない金だな。しかたない。非常用の予備費として銀行にいれておこう)
金貨の数を数えながら、サクセスはそう思うのだった。
大広間
エリサベスと悪霊に拘束されたままのジャクソンが向かい合っている。
緊張に耐えられなくなったのか、ジャクソンが話しかけてきた。
「あの男は、誰なんです?」
「婚約……じゃなくて、御用商人のサクセスです」
それを聞くと、鼻で笑い始めた。
「なるほど。卑しい商人ですか。なら主人を見捨てて自分だけ逃げ出してもおかしくないですね」
サクセスを馬鹿にされて、エリサベスは怒りの表情を浮かべた。
「そんなこと、ありません。サクセスは幼いころからずっと私のそばにいて、助けてくれていました。何か考えがあるんです」
「あなたは本当に純粋で優しいんですね。それに美しい。なんだかあなたを見ていると、背中がぞくぞくするというか……」
ジャクソンがねっとりとした目でエリサベスを見つめた時、取り付いていた悪霊に変化があった。
「ウガ??隠し扉があいた!あれを取られたら……」
いきなりそわそわし始めて、ジャクソンを放り出して大広間を出て行こうとする。
「逃しません!」
「邪魔するな!」
前に立ちふさがったエレルに、悪霊は襲い掛かってきた。
「エレル姉さん!」
エリサベスの全身から光のオーラが立ち上り、羽の形に集約される。
「き、きれいだ……まるで天使です」
光に包まれたエリサベスを、ジャクソンはうっとりと見つめていた。
「いきます。『ホーリーコンタクト』」
エリサベスのまとった光の羽が、『聖なる杖』の先端のレンズ部分に吸い込まれていく。それらは一点に集光され、協力なレーザー砲となって悪霊を打った。
「ギャアアアア!金ぇ!」
悪霊は無念の言葉を残し、浄化されていった。
「ふう。これで終わりですね」
エリサベスが杖を降ろすと、まとっていた光も消える。
「す、すごいです。感動しました。噂には聞いていたけど、さすが聖女エリサベス様。あんな光魔法、初めてみました!」
感激したジャクソンが褒め称えるが、エリサベスはにっこりと笑って首を振った。
「いえ、いくら私が聖属性の光魔法の使い手でも、あれだけ強い光は放てません。サクセスが、チャコちゃんから出る透明な石を使って改良してくれたおかげです」
そういって、エリサベスは『聖女の杖』を見せる。その先端には改造が施され、光を集めるレンズが取り付けられていた。
そのレンズに光を当てると、一点に収縮されて何倍にも強い光になるのだった。
「そうですか。あなたは謙虚なんですね。卑しい商人にも感謝の心を忘れないなんて」
そういいながら近づいて、エリザベスの手を握る。
「ありがとうございます。運命の出会いを与えてくれた神に感謝します」
「あ、あの、困ります。私には婚約者が……」
「婚約者ですって?だめです。聖女が穢されるなんて、耐えられません」
ジャクソンは崇拝する目で、エリサベスを見つめた。
「親が決めた婚約なんかに従う必要ありません。私のモントリオール侯爵家の権力なら、誰が相手だって……」
ジャクソンがそういったとき、大広間にサクセスとアヤコが入ってきた。
「お疲れ様。そっちもうまくいったみたいだな」
「サクセス。何をしていたんですか?こっちは大変だったのに!」
エレルが不満そうに聞くと、サクセスは取っ手が壊れた壷を差し出した。
「どうやら、この壷に執着していたみたいだぞ。壊したらどうにかなるんじゃないかと思ってね」
「なるほど。あの悪霊が人質を解放して出て行こうとしたのは、それが原因だったのね。さすがサクセス!」
エリサベスはジャクソンの手を振り払い、親しげにサクセスに駆け寄った。
その様子を、ジャクソンは嫉妬の視線で睨み付ける。
「あなた、聖女様に対して無礼ですよ!御用商人のくせに馴れ馴れしい。離れなさい!」
「これは失礼を。お嬢様、それでは……」
慇懃に一礼して離れようとしたが、エリサベスはその腕にしがみついた。
「あら?遠慮なさらなくて結構ですのよ。私たちは婚約者なのですから」
「嘘なの」
「嘘です」
腕を組もうとするエリサベスを、アヤコとエレルが協力してブロックする。
(御用商人が婚約者ですって?きっと何か事情があって、無理やり婚約者にされたに違いないです。僕が救ってあげないと!)
それを見たジャクソンは、間違った使命感に燃えるのだった。
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