犠牲
「ふふふ。美味そうな女子じゃ」
「い、いやなの!」
アヤコは生理的な恐怖を感じて、泣き叫んだ。
「……俺たちをどうするつもりだ?」
「決まっておる。一人ずつ溶かして食べるのじゃ。何せ50年もゴッドシェルの肉しか食べておらなんだからのう。人間とはどんな味がするものやら」
口から涎をたらしながら。一行を見つめる。
その時、サクセスが疑問に思ったことを口にした。
「まてよ。なんでお前は50年もゴッドシェルの体内にいたのに、石化してないんだ?」
「愚かな小僧め。石化されるとわかっていてじっとしているわけがあるまい。我は一箇所にとどまらず、常に動き回って魔法をさけていたのじゃ」
クイーンスターはそういって、サクセスをあざ笑った。
「……なるほど。だから動けない卵だけが石化していたわけだな。なら、ここに止まっていたら、お前も俺たちも石化されるんじゃないのか」
「ちっ。気づいたか」
忌々しそうにつぶやくと、クイーンスターは嫌らしく呼びかける。
「貝殻人の女子よ。そなたの可愛らしさに免じて、命を助けてやろう。ただし、勇者パーティの一人を我への生贄にささげよ」
「ひっ。そ、そんなの嫌なの!」
アヤコは泣きながら首を振るが、クイーンはねちねちと言い募った。
「よいのか?このままでは全滅するだけじゃぞ。一人の犠牲で皆が助かるのじゃ。早く選ばぬと、石化が始まるぞ」
クイーンはサクセスたちを包んでいるシールドを指し示す。うっすらと白い色の膜ができ始めていた。
悩むアヤコに冷静な声が掛けられる。
「選ぶ必要はない。俺のシールドを解け」
そう声をあげたのは、サクセスだった。
「サクセス!」
「何を言うのですか!」
「お坊ちゃん!」
仲間たちが呼びかけるが、サクセスは虚しく笑う。
「考えるまでもだろう。このままじゃ全滅だ。それに、この中で一番身分が低いのは、平民で商人の俺だ」
「今更なにいっているのよ!いつも遠慮なく私を叩いているくせに。身分を言うなら、男爵の私が真っ先に犠牲になるべきでしょ!」
エリサベスが悲鳴をあげる。
「……あなたみたいな威張っている平民なんていませんよ。それに、弟や妹が姉より先に犠牲になるべきではありません。私のシールドをときなさい」
エレルも声をあげる。
「俺は片足の半傷病人だ。お坊ちゃんやお嬢ちゃんに拾ってもらわなければ、餓死か魔物の餌になっていたかもしれねえ。俺を食え。まずくて腹をこわすかもしれんがな」
ガラハットはそういって笑う。サクセスは苦笑すると、アヤコに呼びかけた。
「こういう時に迷うと取り返しがつかなくなるんだ。だから早いもの勝ちだ。俺のシールドを解け」
「……わかったの」
涙を流しながら、アヤコはサクセスのシールドをとく。あっというまにサクセスの体はヒトデに埋もれていった。
「きゃっ!」
触手から解放され、パーティが投げ出される。
「サクセス!」
慌ててエリサベスが駆け寄ろうとするが、サクセスの体は触手に取り込まれて引きずり込まれて行った。
壁の中から、ガジガジと何かをかじるような音が聞こえてくる。
「ふむ。これが人間の味か。なんとも複雑な味じゃ」
壁の中から、クイーンのつぶやきが聞こえてきた。
「いやぁ!」
エリザベスが我を忘れて飛び込もうとするが、エレルにとめられる。
「いけません!」
「で、でも、サクセスが!」
「……彼はみんなの犠牲になったのです。その心を無駄にしてはいけません」
錯乱するエリザベスを抱きしめながら、エレルも涙を流していた。
「……お坊ちゃん。あんたって男は……」
「私は勘違いしていたの。彼こそが勇者だったの」
ガラハットとアヤコも、サクセスをおもって泣いていた。




