小作人の本音と地主の思惑
サクセスは、職人と兵士になった者たちが抜けてかなり数が減った難民たちの所にやって来ていた。
意欲がある者たちが仕事についても、彼らは相変わらず危機感を感じることなく施しに群がっている。
「聖女様万歳!ありがとうごぜえますだ!」
ただ聖女を褒め称えるだけで食事がもらえる。この安楽な生活に慣れきっていた。
そんな彼らの前に、ヴァルハラ領の家宰を名乗る少年が現れる。
「皆に伝える。来週から炊き出しは廃止する」
その少年はヴァルハラ家の印璽が押された公文書を広げ、無情な宣言をした。
たちまちシスターや難民から非難の声があがる。
「ふざけるな!俺たちにどうやって生きていけって言うんだ!」
「そうよ!何が家宰よ!ただの金貸しの癖にでしゃばらないでよ!」
サクセスはその非難も予測していたようで、静かに片手を上げる。すると、大男に率いられた兵士たちの一団が現れた。彼らは弓や剣で武装している。
「お前たち、大人しくしろ。もし騒ぎを起こすようなら、この領から追放する」
指揮する大男、ガラハットは騒ぐ難民たちに対して威嚇した。武力を見せ付けられて、シスターたちは沈黙する。
「お、お前たち、仲間を傷つけるつもりか!」
難民たちは哀れっぽく、元は同じ難民だった兵士たちに呼びかける。
「仲間?一緒にするな。いつまでも施しがされると思っていたお前たちが馬鹿だったんだ。今まで何度もチャンスはあったはずだ。仕事に就くと行って出て行った俺たちを、馬鹿な奴だって笑っていたのはどこのどいつだ」
サクセスの誘いにのって職人や兵士になることを選択した元難民たちは鼻で笑う。
「仕事をする気がある難民は、わが領の領民になることを認められた。ただ飯を食って寝ているだけの怠け者はこの領にはいらない。今すぐ出て行くがいい」
そう言われて、難民たちは土下座して訴える。
「か、勘弁してください」
「俺たち、ここを追い出されたら行く場所がないんです。今更元の農場に帰れないし……」
それを聞いたサクセスは、にやりと笑って言い放つ。
「元の農場に帰れるなら、戻ってもいいってことか?」
そう聞きかえされて、難民たちは顔を見合わせる。
「そりゃ、他の土地に行っても生活できないし……」
「ここを追い出されたら、餓死か魔物の餌になるだけだし。それならたとえブラック農場といえど……」
そう言質をとったサクセスは頷く。
「いいだろう。お前たちを農場に帰してやろう。ただし、ヴァルハラ家の領地支配に協力してもらうぞ」
そういうと、難民たちをそれぞれの出身地ごとに分けるのだった。
ブタミントン村
ヴァルハラ領の中心町より離れた所にある村には、隣の領であるアーカス子爵領からの商人が訪れていた。
「今年も麦を分けてもらうぞ」
「それは、お前たちが持ってくる貢物しだいだな」
でっふりと太った村長が傲慢に言い放つ。商人は顔をしかめながら要求を聞く。それらは酒や砂糖などのぜいたく品、布や糸などの裁縫道具、金属製の農具など、村では作れない品物が並んでいた。
「いいだろう。今年も収穫した麦を持っていけ」
品物を確認して村長はニヤリと笑う。彼がやっていることは麦の横流しである。麦の収穫高をわざと過小に申告して、差額をヴァルハラ家の息がかかってない他の領の商人に渡していた。
そのツケは彼の元で働いている小作人に負担となってのしかかっていくのだが、彼にとってはどうでもいいことである。
「ぐふふ。これを村の地主たちに分けてやれば、ワシの村支配は安泰だ。もっともっと小作人から絞り上げてやる」
ご満悦な村長だが、実は自分も搾取されていることに気づいていない。彼に渡された品物は、実は王都ではありふれたもので要求される麦の1/10ほどの価値しかなかった。
内心の軽蔑を隠して、商人は村長に忠告する。
「えげつないな。ほどほどにしておかねえと、小作人から一揆を起こされるぞ」
商人の言葉を聴いても、村長は余裕だった。
「心配ない。馬鹿な領主が施しをしているおかげで、奴らは反抗するくらいなら逃げるほうを選ぶだろう。ふふ、聖女とよばれ煽てられているが、所詮は小娘、まともな領地の経営なんてできるわけがない。ちょっと頭をさげれば、いくらでも騙せるのだ」
老練な村長はエリザベスのことを侮り、見下していた。
「どうせこの領もながくあるまい。経営破たんして国の直轄地になるか、婚姻を名目に他の貴族にのっとられるか。それまでは稼がせてもらおう」
「なんでもいいが、収穫が終わったら麦を渡せよ。俺もお館様の命令で来ているんだ。約束は守ってもらうぞ」
商人は怖い顔で村長を睨み付ける。
「安心しろ。領主にこの取引を邪魔できるだけの力は無いさ」
そう楽観視している彼だったが、その目論見は完全に外れることになるのだった。
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