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第五十話 狂喜


 リロ・ルーシャには【情報撹乱(シャッフル)】が効かない。


 そして、リロ・ルーシャには人にかけた【情報撹乱(シャッフル)】を無効化する力がある。


 ならば、これにはどう対応するだろうか。



 持っていたナイフで自らの手の平を切る。


 切りつけた場所から小さな痛みと赤い血がじんわりとにじみ出てきた。


 滴る血をナイフに塗りつけ、私は最後の手段をとる為、両膝を地面に着けた。


 端から見ればこの姿は負けを認めたように見えるだろう。


 実際、『これ』を使った時点で私は『負けた』ようなものだ。



 それでも…


 『負けた』としても私は目的を『達成』する。



「終わりにしましょう、全部…!」


 私は天を仰ぐと、ナイフを自らの胸元に突き刺した。



「…何を!?」


 驚くリロ・ルーシャの顔を見て、少しだけ笑みが出た。あの男を驚かせられるなら、これぐらい安いモノだ。


 もっとも、これはただの始まりだ。


 流れる血の暖かさを感じながら、意識が眠りに落ちるように薄れていく。

 

 …さあ、終わらせよう。


「…【情報撹乱(シャッフル)】」



*********


 座り込んだ暗殺者が自らの胸にナイフを突き刺し、こちらへ笑みを浮かべた瞬間、それは始まった。


「…【情報撹乱(シャッフル)】」



 暗殺者の全身が一度大きく痙攣(けいれん)し、ゆっくりと立ち上がった。


「…?」


 胸元を中心に血に塗れた暗殺者はナイフを引き抜くと、だらんと両手を下ろし、空を見上げたまま固まった。



「……」



 何を仕掛けてくるのか距離をとり構えている俺に対し、暗殺者の首が急に動き俺を見た。


「は、はははは。」


 先ほどとはまるで違う笑い声がその口からこぼれた。


「は、はははは、ははははは、ははは、はははは。」


 壊れた機械のように無感情な笑いを繰り返すと、暗殺者はゆっくりと足を動かし、


「!?」


 俺の目の前にいた。


「ははははは!」


 大きく振り上げられたナイフが顔に突き立てられる直前に腕の鎧で受け止めようとするが、


「は、ははは、はははははは!」


「!」


 暗殺者は武器であるナイフを放り投げ、何も持っていない左手を俺の腹の傷口に突っ込んだ。


「があああっ!」


 激痛で声が出ると、暗殺者は瞳孔が開いた顔を俺の顔に近づけ、また不気味な笑いを浮かべた。


「は、はははは、はははははははは、はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」


 傷口の中身を抉るように手を動かし続ける暗殺者はさらに大きく笑い続ける。


「…っおらあっ!」


 気を失いそうな痛みに耐え、鎧を纏った右腕で暗殺者の左腕へ手刀を振り下ろす。


 加減などしている余裕はない。


 腕ごとたたき折るつもりで振り下ろしたその一撃は暗殺者の左腕を不自然な角度に折り砕いた。


「ぐっ!」


 同時にねじり込まれた左腕が抜け、俺は距離を取る。

 息は荒くなり、流れる血の量はさらに増えるが、そんな事よりも目の前の暗殺者の変貌ぶりに目を奪われる。


「は、ははははははははは!」


 暗殺者は自分の折れた左腕を見ると、また笑っていた。

 

 どれだけ苦痛に馴れている人間でも失神してもおかしくないほどの状態であるのにも関わらず、暗殺者は痛みを感じている様子はない。


 すると今度は地面に放り投げていたナイフを拾い上げ、折れた左腕に突き刺した。


「!」


 ナイフが怪しげに光り、折れた左腕は巻き戻しをしたかのように急速に元の状態に戻っていく。


「っ!?」


 よく見れば胸元に刺さっていたナイフの傷跡や今、腕に突き刺した傷も最初からなかったかのように消えていた。


「は、はははは、はははははははは!」


 暗殺者は再び俺を見ると、左手の指先についた俺の血を舐めて、また笑い出した。


「は、ははははは、はははははは。」


 暗殺者の表情には笑いしかない。折れた腕の痛みに苦痛を感じる様子も、その腕を折った俺への怒りの姿もない。


 ただ、笑っている。


「は、ははははは!」


 笑い声は止まず、暗殺者は俺へナイフを向けた。


 再びゆっくり足を踏み出し、


「ははははははは!」


 持っていたナイフを俺へ投げつけた。



「っ!」


 まるで踏み出す寸前に思いついたかのようなめちゃくちゃな投げ方にギリギリで反応し躱すと、



「は、はははは!」


 背後から笑い声が聞こえた。


 俺の正面にいた暗殺者の姿が消え、俺の背後に立っていた。


「なっ!」


 俺が躱したナイフを自分で受け取り、そのまま俺の腹へ突き刺そうとする。


「させるかあっ!」


 とっさに風魔法を暗殺者に放つ。


 自分ごと巻き込む暴風が俺と暗殺者を吹き飛ばした。


「くっ!」


 地面を転がりながらも体勢を整え、暗殺者を見据えるが


「は、は、は、ははははは。」


 暗殺者は何のダメージを負っていないかのようにその場から一歩も動いておらず、笑い続けていた。


「…お前、まさか。」


 暗殺者が何をしたのか俺は理解した。


 奴は自らに「【情報撹乱(シャッフル)】」を使い、『俺を殺す』事に必要なモノ以外、全てを消し去ったのだ。



 いくら痛めつけても、痛みを感じない体。


 どれだけ体を壊しても、一瞬で復活する回復。


 恐怖も苦痛も感じない心。



 最悪の暗殺者が目の前にいた。


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