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第四十九話 障害


 最大の障害。


 リロ・ルーシャを言い表すならその一言で充分だった。


 本来の計画では標的はイガリに入る前に始末していた。


 エアウルフの群れに【情報撹乱(シャッフル)】を使い、たまたま近くにいた商人を襲わせる。

 標的の性格を考えれば、見ず知らずの他人であっても自分を危険に晒してでも商人を助けようとするだろう。

 エアウルフ達には『人間は憎むべき存在であり、標的こそが最も邪悪な根源』と刷り込ませた。

 例え体を八つ裂きにされ、命の火が消える寸前であっても、その憎悪は標的の命を刈り取るだろう。


 だが、それはリロ・ルーシャに阻まれた。


 完全なイレギュラーだった。

 

 万が一を考え、エアウルフと対峙していた時に標的にも【情報撹乱(シャッフル)】をかけておいたが、本当に使うとは思っていなかった。


『やらなくてはならない何かの為に一秒でも街を出なくてはならない』


 標的は目覚めてすぐにイガリを出て、モンスターに襲われ、死ぬ。


 傷も癒やさず生き急いだ者のなれの果て…よくある話だ。


 誰もその死を疑う者はいないだろう。


 その策も奴は払いのけた。


 あろう事か奴はイガリに入ってすぐに標的の世話役の仕事に就いたのだ。


 ただの優男に見えたが、奴は常に周囲を警戒し、日中は標的の側にいる。


 誤算だったのは標的が助けた商人がバース商会の幹部でもあった為、譲渡された屋敷を標的が拠点にした事だった。入浴中や就寝中は屋敷の人間が見回るだけでなく、屋敷に張り巡らされた防御魔法が襲撃を困難にしていた。

 

 もっとも、襲撃が簡単だったとしても、実行するつもりはなかったが。


 標的を街中で事故にみせかけて狙う準備もしてはいたが、それもリロ・ルーシャにより未然に防がれている。


 暗殺者としてそれなりの経験を積んではいるが、ここまで策を潰されたのは初めてだった。


 その手際が気になり、リロ・ルーシャの経歴を調べてみたが、出てきた情報は大して気にする事のない平凡なものだった。



 だから、私はリロ・ルーシャの排除を決めた。


 信頼のある情報筋から手に入れた経歴と実際に見て感じた『リロ・ルーシャ』と言う人間にはあまりにも差がある。


 …経歴は全て、偽りである可能性が高い。


 これ以上邪魔が続くのも面倒と言うのもあった。


 あまりとりたくない手段だが、標的自身にリロ・ルーシャの排除をしてもらおうと考え、私はそれを実行に移した。




******


「うおおおおおおおおおお!」


 その結果が今に至る。


「っ!」


 雄叫びと共に放たれた風魔法はあまりにも強く、直撃を避ける事が精一杯だった。


 奴の着ていた服はあちこちが焼け焦げ、標的に刺された腹の傷口からは血が未だに流れている。


 重傷という言葉では片付けられないほどの致命傷だ。


 それなのに…


「なんでまだ動けるんですかね!?」


 両腕に黒い鎧を纏ってからは魔法の威力も、こちらが投げたナイフを捌く速さも、先ほどとは比べものにならない程に跳ね上がっている。



『死の危機に力が目覚めた』?

 

『守りたい思いで限界を超えた』?


 …そんな王道漫画みたいな事があるわけない!


 現実的に考えられるのは…


 攻撃の余波でわずかに足がよろけるが、すぐに足に力を入れる。


「…あなたも【スキル】を持ってるんですね。」


 どんな神と契約したかは知らないが、『死に対する抵抗力を上げる』ようなモノだろう。

 『自動回復』の類いなら刺された傷口から血が流れる事はないはずだ。

 

「…まったく、どこまでも厄介だ。」


 暗殺者に求められているのはあらゆる状況で標的を始末する能力。

 

 リロ・ルーシャは過去最大の障害だが…


「…申し訳ありませんが、ここからは手段を選びませんので。」


 そう。


 障害だ。


 奴は…ただの障害だ。



 …『標的』ではない。

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