第十話 本音
「……え……?」
「……あ……」
セリーヌの驚いた声と、俺の間抜けな声が夜のガゼボに響く。
俺は前世からセリーヌのファンだった。勤勉で真っ直ぐなところが特に好きである。彼女の力強い瞳を見ていたら思わず本音が漏れてしまった。婚約破棄をされて直ぐの女性に、酒に酔ったとしても言っていい言葉ではない。
「ルージオ様……」
セリーヌは俯いてしまう。
「……っ! セリーヌ嬢。これは……」
彼女に嫌われたくない。俺はセリーヌのことが好きである。元々、セリーヌのファンであるが、それに加えてカールソンとして彼女と交流した結果だ。この気持ちに偽りはない。だが、伝えるにしても、時と場所を選ぶべきである。俺は弁解を告げようとした。
「あ、あの……その、『好き』というのは……」
顔を上げた彼女は、戸惑い気味に俺に訊ねる。此処ではぐらかすことは可能だ。しかしそうなれば、俺は一生セリーヌに本音を伝える機会がないように感じる。彼女は優秀だ。加えて婚約破棄されたとなれば、求婚してくる者たちは多く居るだろう。セリーヌを心の底から愛しているならば良いが、彼女の知識を悪用しようとする者たちも現れる可能は高い。俺は腹を括る。
「私がセリーヌ嬢を好きだという意味です」
セリーヌを見詰めると、俺は本音を口にした。
「……っ!? え、えっ……ルージオ様が? 私をですか?」
俺の言葉を聞くと、彼女は軽く跳ねた。そして慌て始める。その様子が子ウサギのようで大変可愛いらしい。本音を伝えるか散々悩んでいたが、案外口にすると気持が軽くなるのを感じる。
「ええ、その通りです」
「う、嬉しいのですが……現実味がなくて……」
セリーヌの言葉に俺が頷くと、彼女は両手で顔を覆う。セリーヌから嬉しいという言葉を貰っている為、嫌われていないようだ。そのことに安心しながら『現実味』を与えれば、彼女から返事を貰えるということだろう。
「セリーヌ・ドレン子爵令嬢、どうか私と婚約していただけないでしょうか?」
俺はセリーヌの前に跪くと、右手を彼女に差し出した。
「……っ!? な、えっ……ルージオ様っ!?」
彼女は俺の突然の求婚に、再び飛び上がった。
「それで……お答えは?」
「……私もルージオ様が好きです。不束者ですが……よろしくお願いいたします」
俺が返答を求めると、彼女は顔を真っ赤にして俺の手を取った。
「不束者なんてことありません。最高の婚約者ですよ」
「……っ、ありがとうございます。ルージオ様の婚約者になれるなんて夢のようです」
立ち上がると、セリーヌと手を繋ぐ。
「大丈夫ですよ。夢になんてしませんから……そうですね。明日の朝刊を楽しみにしていてください」
「……? はい」
俺はセリーヌの言葉に『夢』いしないことを伝える。セリーヌは何のことか分からず首を傾げた。その姿も可愛いらしい。
「おや、馬車の用意ができたようですね。さあ、行きましょう」
「はい」
視界の端でイグニが手を振っているのに気が付く。俺はセリーヌとしっかりと手を繋ぐと歩き出した。
次の日の朝刊で、俺とセリーヌの婚約発表が一面の記事を飾ることを彼女は知らない。




