外伝37 レーヴァテイン
外伝37 レーヴァテイン
「ほーん。また、例のダンジョンに行くのか」
教会の馬車が大使館の前に停まっていた日から、一夜明けて。
自分とエリナさんは雫さんの工房へとやって来ていた。
「はい。流石に当日すぐ、とはいかず、明日からになりますが」
「教授でも暴走する時はするんだな。エリナの祖母さんらしい」
「エッヘンである!」
雫さんのジトッとした視線に、エリナさんがその豊かな胸を張る。
うん、褒めてないと思うよ?
「時々暴走するのは、雫さんも同じじゃないですか」
ガラリと扉を開けて、お茶を載せたお盆を手に愛花さんがやってくる。
「あ、どうも」
お茶を受け取りながら、チラリと閉じられた扉の方を見た。
前までは耐火カーテンを仕切りに使っていたのに、いつの間にかキッチリ扉と壁が作られている。
本格的に、工場内の雫さんスペースが確固たる物になっているな……。
「アタシのは暴走じゃねぇ。……たぶん」
ふいっと顔を逸らす雫さんに、エリナさんが首を傾げる。
「シーちゃんが暴走って、もしかして今日私達を呼んだ事に関係するの?」
「はい。是非、京太君や影山さんに使ってみてほしい武器があると、雫さんが言い出しまして」
「僕もですか?」
『錬金甲冑』のテスターである影山さんはともかく、自分もとは。
雫さんは何を作ったのだろう。
視線を彼女の方に向ければ、いつもの三白眼のまま不敵な笑みを浮かべていた。
そして、相変わらず低身長に反したお胸様であった。
「なあ、お前ら。銃刀法って知っているか?」
「え、それは、まあ」
「苦無とか忍者刀とか火縄銃を規制する法律だね!」
「限定的過ぎません?」
別に忍者対策じゃねぇのよ、その法律。
「まあ兎に角だ。冒険者の場合は申請さえすれば、刃物やクロスボウの類は携帯を許されている。だが、それ以上の武装はこの法律に違反するとして、所持できないわけだ」
「ええ、それはそうですが」
「一時的に許可されたとは言え、エリナの大砲も規制対象になって政府に回収されちまった」
「『冥轟大筒』だね!」
「だがよぉ……やっぱり飛び道具ってのは、あった方が便利だろう?」
豊かな胸の下で腕を組み、雫さんが笑みを深める。
目つきのせいかは分からないが、ちょっと悪役っぽい顔だ。
「え、まさか……」
「面白い物を、作ってみた」
そう告げて、雫さんは壁際に置いてあったトランクを持ってくる。愛花さんも、お盆を机に置き隣の縦に長いケースを抱えて来た。
ゆっくりと、それらが作業机の上に置かれる。
「ある意味、人の夢とも言える武器だぜ。こいつは」
トランクの中に入っていたのは……。
「え、ライフル!?」
どう見ても、銃であった。
黒光りする銃身。緩やかな曲線を描くグリップとトリガー。がっしりとした銃床。
詳しいわけではないので、分からないが。明らかに玩具の鉄砲ではない。
「いいや、銃じゃない」
こちらの反応が予想通りだったのか、雫さんはほんのりとドヤ顔になりながら胸を張った。
「こいつは『魔力熱線放出装置』だ」
「またの名を、熱線銃です」
呆れ顔の愛花さんに、雫さんが口を尖らせる。
「今その名前を言うなよ。いらない誤解をうむだろう」
「どこが誤解ですか……法律的に大丈夫か、調整や連絡大変だったんですからね……?」
「それは、すまん」
「まあ、良いですけど」
「いや、え、ちょっと待ってください」
いつもの様子で会話する2人に、首を横に振りながら加わる。
「『魔力熱線放出装置』って、つまりこれは魔力を熱線として放出する魔道具なんですか?」
「おう。覚醒者なら誰でも使える、な」
「 」
開いた口が塞がらない。なんてもんを作ってんだ、この人。
魔力を固めて放つだけの魔道具なら、既に存在する。だが、どれでも実用段階には至っていない。
放出した魔力を『加工』するのは、非常に難しいとされている。自分のスキルみたいに最初から別の状態にして放出するとか、呪文を唱えてゆっくり方向性をつけるのとは違うのだ。
雫さんがこんなドヤ顔で出してきた魔道具が、既存の水鉄砲みたいなのと一緒なわけがない。
つまり……。
「凄いよシーちゃん、アーちゃん!画期的だね!」
「ふん。まあ、アタシは作りたい物を作っただけだがな」
これは、恐らく自衛隊や各国の軍隊が喉から手が出る程欲していた代物である。
「『錬金甲冑』でも使った、錬金術の応用でな。銃身内部には魔力に圧力を加える為の特殊合金を仕込んである」
雫さんの小さな手が、銃身をゆっくりと撫でる。
「そして、銃口付近に加速した魔力に『着火』する為の錬金術を書き込んだ。サラマンダーの魔石が必要だから、量産はちと面倒だが……元々アタシの手作りでしか作れねぇから関係ねぇ」
「魔道具に関して大量生産大量消費は、現状『錬金同好会』が一強ですので。以前にもお話した通り、うちは自衛隊を含めた一部の覚醒者を相手にした商品に専念する方針ですから」
満足そうな雫さんに、苦笑を浮かべる愛花さん。
もしかして……自分は、凄い人達を恋人にしてしまったのでは?
「シーちゃん、アーちゃん!これって使っても大丈夫なの?火縄銃扱いされない?」
「安心しろ。愛花が調べた限り、銃刀法にはギリギリ違反しない」
「それでも危険物ですので、別の法律に引っかかる可能性はありますが。そちらは冒険者免許で許される範囲に収まるはずです。……改正とか、されなければですが」
「ま、十中八九その内法律に書き加えられるだろうがな」
「教授にも相談して、役所に申請した時も、そう言われましたからね……」
どうやら、既に有栖川教授は知っていたらしい。
未だに固まっていた自分を、雫さんがじろっと見上げてくる。
「で……いい加減、何か言えよ」
「京太君に褒められるかなー、って。雫さんは楽しみにしていましたからねー。勿論、私もですが」
「ばっ、適当言うな!アタシは、こいつが何も言わないと、錬金術に関する権利関連の話が出来ないからってだけでなぁ!」
「お二人とも」
がっしりと、雫さんと愛花さんの肩を掴む。
「な、なんだよ……!」
「ちょ、だ、駄目です京太君……!こ、こんな所で、日もまだ高いのに……!」
照れながらも、あえて目を逸らすまいと意地になって見つめてくる雫さん。逆に、笑みを浮かべながらも耳まで赤くなって視線を泳がせる愛花さん。
タイプの違う美少女2人の目を見つめながら、告げる。
「捨てないでください……!」
全力で、お願いした。
「……は?」
「んんん?」
雫さんがスンっと真顔になり、愛花さんの笑顔が固まる。
こちらの言っている事が伝わっていない気がしたので、慌てそうになりながらも言葉を続けた。
「いや、だってこれ、もしかしたら教科書に載るかもしれない凄い事ですし……僕なんかじゃ、つり合わなくなっちゃう……かなーっと」
雫さんの眉間に段々と皺が寄っていき、我が事ながら声が尻すぼみになっていく。
「……思ってたリアクションとちげぇ」
「まあ、これも京太君らしさとは思うんですけどねー」
不機嫌そうな雫さんと、苦笑を浮かべる愛花さん。
混乱していると、愛花さんが耳元へ顔を寄せて来た。
「普段は、私達の方が京太君達に置いて行かれるかもって、不安なんですよ?」
「っ……!」
耳元で、甘い声で囁かれる。
つい肩をビクリとさせながら距離をとろうとするが、背中に柔らかい感触がぶつかった。
この、どこまでも沈んでいく様な柔らかさと、確かな反発のある幸せな物体は……!
「背中をとられるとは、修行が足りんぜ!京ちゃん!」
「え、エリナさん……!?」
「忍者学校で何を学んでいたのさ!」
「通っていません」
「無免許の里長!?」
「里長でもねぇのよ」
「ツッコみの前の、こちらの話を聞いてくださーい」
「ひぅ……!?」
今、愛花さんの舌が一瞬耳たぶを!?
鼻先を、彼女の綺麗な黒髪が撫でる。くすぐったさと共に、いい香りが鼻腔を占拠してきた。
「私も雫さんも、偶に不安な気持ちになっちゃうんですからね?反省してください」
「わ、分かりました。分かりましたから、その……!」
「いいえ、まだです。そもそも、私達が京太君から離れていくかもって思考が、ちょっとショックです。なので……」
エリナさんと挟む様に、愛花さんの華奢な体が押し付けられる。
ささやかながら確かに柔らかい胸ごしに、彼女の鼓動が伝わってくるようだった。
「今晩は……私達の番……ですからね?」
そう囁きながら、愛花さんが雫さんの背中をこちら側へ押す。
小柄な体格には不釣り合いな巨乳が、脇腹に押し付けられた。というかこの人、もしかして以前よりまた大きくなったんじゃ……。
「その……まあ、なんだ。わ、分からせ?っていうの……してやるからな。覚悟しろよ……!」
リンゴみたいに顔を赤くした雫さんが、抱き着きながらこちらを見上げてくる。
可愛いと思うと同時に、もう何度も色々しているはずの彼女の肢体に、気づけばごくりと喉を鳴らしていた。
「今夜は寝かさないぜ!京ちゃん」
「は、はい……!」
エリナさんの言葉に、ただ頷く事しか出来なかった。
母さん、父さん……この世に産んでくれて……ありがとう……!
* * *
「……あの、大丈夫ですか?」
「はい、まったく問題ありません」
ジャンホール伯爵の城。その門前にて、問いかけてきた影山さんに満面の笑みを浮かべて答える。
睡眠不足?そんなものは、鍛えている覚醒者には存在しない概念だ。いや、それは言い過ぎだけど、多少の事なら何も問題ない。
むしろ、気力に満ち溢れている。きっと今の自分の瞳は、夏の海の様にキラキラとしたものに違いない。
だがなぜだろう。不思議な事に影山さんは不審者に遭遇した言わんばかりの顔だし、カタリナさんは若干怯えている様子だ。
なお、教授だけは『婿殿……ひ孫……フライングひ孫は……!?』と期待の眼差しを向けてきている。
いや、貴女その辺に関しては、珍しくミーアさんから真面目に注意されたでしょうに。
「ま、まあ、大丈夫そうなら何よりです」
若干引きつった顔の影山さんだったが、視線を手元に向けるとその顔も引き締まったものへ変わる。
「この新型の魔道具の力、存分に試させて頂きます」
自衛隊への許可は、既にとっていたらしい。彼女の手には、昨日雫さんに紹介された『魔力熱線放出装置』……もとい、熱線銃が握られている。
自分用に作ってくれた方は、教授に一旦預かってもらっている。というか、『アレ』はこのダンジョンだと過剰火力になりかねない。
壁や天井を不必要に破壊してはならない以上、実験は日本のダンジョンで、となるだろう。
『ふぅむ。しかし、熱線銃とは。少々味気ない名前だとは、思わんかね』
アイラさんが、イヤリング越しにそんな事を言ってくる。
「良いじゃないですか、分かり易くて」
『分かっていないな、京ちゃん君。なぜ各国の軍隊が、兵器にわざわざ物騒だったり神話に出てくる武器の名前だったりとつけると思う?』
「え、さあ……」
『格好良いからだ。格好の良さとは、士気の高揚につながる。敵の名前なら兎も角、味方の装備にはもっと良い名前が必要だと私は思うね』
「あー、それは、そうかも……?」
『ゆえに、私が名前をつけてやろう!安心したまえ、公的な名づけの親は勿論雫君達という事で良いからさ』
「やたら自信がありますね……」
『ふはははは!勿論だとも!なぜなら……そう。既に浮かんでいるのだから!』
念話越しでも、彼女がビシリと虚空を指さしているのが伝わってくる。それぐらい自信満々な声だ。
『『レーヴァテイン』!北欧神話に伝わる、炎の剣とも杖とも呼ばれる武器の名を、私は推すね!』
「レーヴァテイン……ですか。確かに格好いいですね」
『だろう!?』
『ちょっと待ったぁ!』
『むむ、なにやつ!』
いやエリナさんでしょうに、どう考えても。
『私にも良い案があるよ!』
『ほう、聞かせてみたまえ……私以上のネーミングセンスが、君にあるというのなら、ね!』
「……いや。レーヴァテインっていう名前自体は、大昔の人が考えたものじゃ」
『知らんな。その大昔とは、何時何分何十秒の頃だい?地球が何回回った時の話だね、京ちゃぁんくぅん?』
「こいつ……」
『小学生みたいな事を言う姉さん……可愛いです!ランドセルを用意しますね!』
『待って?というかどこから出したのだね、それは。え、まさか常に持ち歩いているのか……?』
『安心してください、姉さん。姉さんに会いに行く時だけです』
『助けてエリナ君!』
『発表しよう!じゃじゃん!』
『聞いてエリナ君!?』
『私の考えた名前は、そう!『超忍具!火遁発射装置EX』だよ!』
「だっっせ」
『ないわー』
『流石にどうかと思います』
『!?』
そんなアホなやり取りをしつつ、『魔装』を展開。
兜や胸甲の状態を軽く確かめ、腕輪とマント、LED型のランタンを装着する。
「では、行きましょうか」
「はい」
教授の問いかけに、頷く。
そして、ゆっくりと城の扉を開いた。
随分と久々に感じる迷宮へと、足を踏み入れる。
読んで頂きありがとうございます。
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『雑種と未来人の現代ダンジョン』も投稿しておりますので、そちらも見て頂ければ幸いです。




