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天憫罪(旧題:浴槽は舟には成り得ない)  作者: 露おちぬ
第1章 戸は彼らを分かつもの
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第5話 共有

授業はつつがなく進み、昼休みを迎えた。

昼飯を忘れたと嘆き、購買へ駈け込んでいく冴里の後ろ姿を見送り、空知要はスマートフォンを操作し端山と間川を第3音楽室へと呼び出した。バイブレーションとともに通知が表示される。タップして画面を開けば、端山から丸々とした猫のスタンプが送信されていた。了解にゃと記されたそれは、良い趣味をしている。端的に評すれば、かわいいスタンプだ。

「あのスタンプ可愛いな」

合流しての第一声に、端山は面を喰らった表情をしていたが、はにかみ「かわいいだろ。あれ気に入ってるんだ。」と返してきた。スポーツ万能、賢さも兼ねそろえている男だ。一方的に親近感は抱きづらい奴だと考えていたが、そうでもないらしい。

「対して間川は、なんだあのスタンプ。」

二枚貝から人間の手が生えて、敬礼しているスタンプが送られてきたときは疑問符を浮かべた。

了“貝”ってか。

「え、かわいくない?」

「否定はしないが…イイ好みだな…。」

「褒めてないでしょそれ。」

ねえ空知君が酷いと端山を揺さぶる間川の姿には、未来の女傑を見た気がする。

そう遠くない未来で、間川に押し切られている端山の姿が見えた気がした。

押し切られつつも離れ離れが想像できない二人の背後には、相も変わらず戸が存在していた。

「間川にも戸が出たのか。」

端山を揺さぶる手は留めずに、間川は首肯した。

「昨夜ね。夢がこの戸を連れてきたみたい。」

おもむろに、間川は語りだした。

巨大な女が両手を広げて迫ってくるのだと

対して、端山も語りだす。

巨大な女が頭を下げてくるのだと


二人の報告に倣い、空知要も冥に聞いた話を伝える。

「今現れている戸が神の身体の各部位をこちら側に召喚するもの、という前提があっているならば、間川は右手、端山が頭、冴里が左手、源三と俺のはわからん。」

「よく見たら、私たちの戸は少し開いてるしね。」

間川の戸からは右の指先がそっと出ており、端山の戸からは長い髪がはみ出ている。

「なんか、俺の背後だけホラー感が凄まじくないか。」

青い顔で空知要に話しかけてくる端山の声は、微かに震えている。

空知要も“髪の毛が戸から出ている”という現実から目をそらしたい。

髪の毛があるならその先には顔があるだろ。いつ覗き見てきてもおかしくはない。

目が合おうものなら…。

「 うん、気のせいだろ。」

現実から目を逸らすことに決めた。

薄情なクラスメイトに端山はわなわなと青い顔で震えていたが、気を取り直したように質問を投げかけてきた。

「自分の戸は開いてないからって…。

 ところで教えてくれた男の人って誰なんだ。」

当然の疑問ではあるのだが、素気無くした意趣返しのように感じた。

何にせよ、説明に困る男ではあるのだ。

「俺の命の恩人で、神」

「え…大丈夫なのかその人」

言外におまえも大丈夫かと問われるので首肯する。

あの男に不信感は感じなかったな、と空知要はふと思い返す。

不信感も疑心もなく、ただ信頼感だけは存在していた。

信頼も愛着も、二週間目に出会った男に抱くようなものではない。

あの男の言動も、それなりに交流を深めた者へのものだった。

俺が覚えていないだけで、何某かの関係性を築き上げていたのだろう。

空知要は、学ランの詰襟をいじりながら言葉を紡いだ。

「…まあ悪いことはされてないしな。」




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