表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天憫罪(旧題:浴槽は舟には成り得ない)  作者: 露おちぬ
第2章 戸が喰らうは神の痛切
25/25

第11話 通信

雪が降っていた。深くは積もらず、大地に蓋をするように薄く重なるように降っていた。

雪に隠され始めた、柔らかな毛並みを見つめる。

ああ、お前はずっと待っていて、これからも待ち続けるのか。

忠義の在り方は人の数ほどある。待ち続ける忠義、反目する忠義、己の手を汚してまでも示す忠義、寄り添う忠義。

主が己の心に応えずとも、追いかけ、最期は雪に身をうずめ、春先に骨となろうとも、お前は唯一人の主を待ち続ける。目覚めた後、主の姿形が違えども、忠義の先を違うことはない。



半覚醒状態の頭を叩かれる。

「おい、置いていくぞ」

お前の殊勝さは、主にだけ向けられているらしい。空知要は、半目でレンジを見つめた。灰の瞳は光に弱く、日頃は手で目を覆いながら覚醒する。その必要は無いほど、現在身を横たえている場所は暗いようである。

寝ぼけ眼の空知要は自宅の寝具の品質を疑ってしまった。自身が倒れていた場所を右手で叩く。自宅の寝具が粗悪なのではなく、寝起きの自分の脳がお粗末である事実だけが残った。暗がりで見えづらいが、衣服に付着した砂も踏みしめる床もぬばたまの黒色である。床はかなり古い時代に人の手により敷き詰められた石でできているようだ。…いや、人の手で敷きつめられたとは断定しがたい。なぜなら敷石は一つ一つが5m近い大きさを誇っているからだ。モアイ像を運んだ方法のように巨石が運ばれた可能性もあるが、今までの経験からまた人外関連だろうなと決定付けて周囲を見渡す。映像作品でみたことがある地下牢のように、陰鬱とした雰囲気を放っている。今の暗さでは建物等は見受けられないが、足を踏み下ろした時の音の反響で空間がかなり広いことが分かる。

「道祖神モドキのせいか?」

自分たちが岸辺に続いて、謎の場所に飛ばされたことに頭を悩ませる。準備運動だろうか、レンジは足首を動かしている。この先に準備運動が必要な展開があるとは、なるべく考えたくない空知要であった。

「俺としてはお前に手を取られたあとから記憶がないが…流石に空知の瞳にも空間転移の力は無いだろうからな。お前じゃなく道祖神モドキの仕業と思っていいだろう。そも岸辺自体が転移の役割をもっているのだし…。」

空知要は首を傾げる。傾げたことにより首筋を学生服の襟が擦る。痒い。

「改めて聞くが、岸辺を嫌悪する理由は何なんだ。」

「あの岸辺に存在するモノは、お前が気軽に触れた道祖神モドキみたいに襲ってきて、岸辺に踏み入った者の息の根を止める。仕留められなければ何処かに転移させるんだ。転移させるだけならまだいいが、転移させる相手にとっての嫌な記憶、最悪な記憶を思い出させて、記憶に連なる場所、または単純に都合の悪い場所や忌み地に飛ばすんだ。」

レンジは冥の奉神によりこの場に飛ばされ、暫く最悪な記憶に連なる土地を行き来させられていたらしい。あらゆるものを漂流させる岸辺、確かに漂着よりも漂流の名が相応しいようだ。

「最悪な記憶をずっと思い出させられるんだ。最高に気分が悪いだろ。」

腕を折られ、未だに完治していない空知要としては冥の奉神の処断に天晴を与えたいところであるが、いざ自身が置かれた状況を考えると趣味の悪さに顔を顰めてしまう。冥の奉神により、レンジは岸辺を中心として行動させられているらしい。であるならば、レンジが路地裏に現れたのも、岸辺にいる存在により記憶に連なる場所や物、者の元に飛ばされたのだろう。レンジが追っていた存在は腕を折ったり、目を抉ったことのある空知要ではなく、王原千だった。レンジは嫌な記憶を持ち、嫌な記憶には王原千が関わっている。空知要が垣間見た記憶はレンジのものだ。今回、空知要とレンジが転移させられた場所もレンジの記憶関連であると考えていいだろう。

幸い、空知要にとっての嫌な記憶は見ずに済みんでいるため、人知れず息をつく。

空知要が黙考している間に、レンジは話を進める。

「何にせよ、俺たちは冥の奉神の管理下にいるらしい」

いち早く目覚め、周囲の警戒を行っていたレンジは相も変わらず冥の奉神の愚痴をこぼしている。

「たしかに冥さんは道を管理しているらしいが

…。ここは広過ぎる。道というよりは部屋みたいだ。言葉通りなら部屋は管理していないだろう。」

「立ち入れる場所があり、繋がる空間があれば、広義で戸であり道さ。物理的に戸や道の有無は関係ない。認識の仕方さ。奴が開き、閉ざすことが出来ると思えば、全てを開き、閉ざすことが出来る。」

壮大な話に目を白黒させる。空知要は凡人である。「全て」と言われても想像が及ばない範囲がある。とりあえず、冥の奉神は認識次第で空間を管理下に置くことが出来るのだと把握した。

「全ての空間は冥の管理下にある。その中でも岸辺と禁足地は奴が目をかけている場所だ。」

岸辺など更なる危険な地への通過点でしかなく、凡人が想像しえないほどの忌み深き地に己達は立ち尽くしている状況なのではないか…。岸辺は通過した、であるならば自分達がいる場所は…。

「禁足地」

「ご名答だ。俺の記憶に連なる場所ではないし、お前の反応を見ていても来たことがある場所じゃないのは明白だ。記憶に連なる場所じゃないなら単純に嫌な場所ってことだ。」

レンジも顔を顰め禁足地自体に足を踏み入れたのは初めてだと曰う。禁足地など生まれて初めて口にした言葉だが、話の流れと音の響きで良くないものだと脳内で警鐘が鳴り響いている。空知要は項垂れる。自然と視線は下がり、自身の膝を見つめる。放りなげられたり、転んだりした制服の膝小僧部分は、砂に塗れただけでは飽き足らず、穴が空いてしまっている。母親に抓られる未来が見え、二重の意味で気が重くなる。

「不死国にさえもまともに行ったことがないのに、なんで曰く付きの場所に足を踏み入れているんだ。」

「元気出せよ。と言いたいところだが、俺が予想するに元気を出せるようなものはこの場には存在しな

『さあ、今夜も始まりました空空TONIGHT!!元気の無い現代人の皆様に元気を与えてみせます!』

レンジの言葉を遮ったのは、道祖神のパカリと開いた口から流れたラジオである。

潰したはずの道祖神が健在であり、岸辺から離れたにも関わらずついてきたことが恐ろしい。なによりも背後を取られていることが恐ろしい。


だがしかし

「道祖神から…ラジオ?」

インパクトが恐怖に勝った瞬間である。

「元気をくれそうなものがあったな。」

「嫌な予感しかしない。」


禁足地とやらが片鱗を見せ始めたらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ