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天憫罪(旧題:浴槽は舟には成り得ない)  作者: 露おちぬ
第2章 戸が喰らうは神の痛切
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第5話 金色

空知要は困っていた。

「こそこそ付いてきて何がしたい!?」

染めていない純粋な金の髪が靡いて、宙に光の線を描いた。彫りが深い顔立ちに、ホイップクリームの先のようにささやかに跳ねる目尻は彼女の気の強さを表しているようだ。よく手入れがされている髪を掻き乱して空知要を睨めつけた。鮮やかな桃色の唇が大きく開いた。

「ナンパ!?ナンパか!?慎みのない野郎が多すぎる!」

「いやナンパじゃ...」

空知要の灰の瞳が泳ぐ。

空知要の16年の人生において、邪険に扱われた経験は少ない。経験値の少ない少年は、怒れる少女を宥める方法など考え付かなかった。放課後の街中での少年少女のじゃれ合いに見えているようで、道行く人々は微笑ましそうに立ち去っていく。

「じゃあなんだ追い剥ぎでもしようってのか!?」

「追い剥...?もうナンパってことでいいから話を聞いてくれ。」

怒りが天元突破しているのか、少女の言葉使いが荒い。

相手が同年代の少年とはいえ、付きまとわれれば腹に据えかねるというものである。

空知要自身も中学時代に付きまとわれた経験があるため、少女の怒りには同感である。

「ここ数年付きまとってくる人間が多すぎる。それにお前、怪我してるのにナンパとか、どれだけ飢えてるんだ。」

「たしかにナンパは多いよな。でもお願いだ。俺は君を口説きたいとか、そういう邪な気持ちがあるわけじゃなくて…」

「ナンパ野郎は皆同じことを言うんだ!もうついてくるな!」

歩道に敷かれたレトロな色合いのインターロッキングブロックの上を少女は軽やかに走り去る。走りづらいローファーで空知要をあっという間に引き離してしまった少女の背に、少女とよく似た強気な瞳の40代程の男性が見えた気がした。


三角巾の上から折れた前腕を撫でる。

空知要の薄い目蓋が疲弊により閉じられる。体力はさておき、少女との会話に疲れた。

 誘惑の奉神より「金色の少女の王子様を見つけろ」と任務を与えられたものの、空知要の本分は学生である。急ぎではないと言われているため、学生生活を送りつつ金色の少女を探していたのだ。部活に所属していない空知要は、放課後に町の本屋に出かけていた。表紙に陸橋が描かれたサスペンス小説を手に取った空知要の隣に、一人の少女が立ったのだ。金糸の髪、空知要が通う縁前高校の隣町の制服を纏った少女だった。誘惑の奉神の抽象的な物言いが納得できる程、純度の高い金の髪が「金色の少女」が誰であるかを物語っていた。

 悲しい哉、空知要は友人が少ないため隣町の高校に知り合いもいなければ、噂などにも疎い。幸い、唯一の友人である冴里君一に探りを入れて、3日程金色の少女に話しかける機会を伺っていたのである。そして、ナンパ扱いされ逃げられるという今に至っている。

「誤解をとかなきゃな…。」

閉じていた目を開いた時、空知要の視界に上空映像のようなものが映った。空から町全体を俯瞰し、カメラで拡大するように徐々に対象を絞っていく。セピア色の視界に燦然と輝く黄金が、雑貨屋の隣の路地裏に駆けこんで行くのが見えた。

「…視界が変に…。それより…なぜ路地裏に…。」

こめかみを針で突くような痛みに、眉を寄せる。視界は未だに俯瞰状態で、金色の少女が見覚えのある赤林檎色の影に追いかけられている様子が確認できる。気づかぬうちにしゃがみ込んでいたが空知要は立ち上がり、姿勢の取り辛さを物ともせずに駆けだした。


「あいつ、冥さんに捕まったはずだろう!?」


空知要を不死国に関わらせ、左腕を骨折させた奉神―。

金色の少女は、幸福の奉神に追われていた。




よろめきながらも確かに走り始めた空知要の背を、冴えない少年が見つめていた。


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