第36話 ハンドパワー
薄暗い部屋でルイと身体を重ねていた。ゆっくりとルイが動く度にボクの身体もそれに合わせて揺れる。
「あぁ、ルイ、ルイ・・・ボク、幸せだよ・・・」
覆いかぶさるルイにそう囁く。
カエルのように開かれた、ルイの背中にまわした足に力が入る。
・・・待って?!カエル??・・・ホントだ!!まるでひっくり返ったカエルみたいだ!・・・このボクが??
「リン・・・リン・・・」
ルイが顔を近づけてボクの名前を呼んでる!嬉しいけれど、こんな無様なみっともないカッコ、嫌だ!!恥ずかしい~~!!
「うう~ん・・・カエルは!カエルは嫌~~っっ!!」
ガバッ!!
ぱんっ☆
「痛てて・・・おう!リン!!目を覚ましたか!!大丈夫か?だいぶ、うなされてたぜ?」
寝起き不意打ちビンタを喰らう。
「フエッ?ん・・・?!ゆ・・め?!
エッ?なに?あっ、うん。体?大丈夫!体は何とも無いよ。うん、心配ない心配ない!
・・・ちょっ!顔、ちか!!離れろ!バカルイ!!」
「なんだよ。起き抜けにいきなり引っ叩いてさらに馬鹿呼ばわりかよ。まぁ、別に大丈夫だってんならそれでいいんだけどよ!・・・いつものことだし・・・まだ顔、赤ぇけど、とにかく大丈夫なんだな?」
「うん」
「よし」
“ああ!びっくりした!!変な夢見ちゃうなんて!!あんなカッコになるのはちょっと・・・もう!!ルイの顔、いろいろ恥ずかしくってまともに見られそうに無いよ”
「ねぇ・・・ここ、ドコ?」
なるべくルイと目が合わないように聞いた。
「ん~?ああ、此処はあのドワーフのオッサンの家・・・いや、家、つーか・・・城?宮殿?オレも分からん」
実際、オレも分からんのだ。
・・・言われるままついて行った先は何も無い只の切り立った岩壁だった。そこへ爺さんが吸い込まれたかと思うと、頭だけヒョッコリ出して来て「付いてこい」と。恐らく視覚を惑わすなにかしらの魔法が入り口に掛かっているのだろうが、あン時は、岩に生首が貼り付けてあるみたいでみんな仰け反ったもんだ。
「オレが先に入る」リンを抱えられたままだし何より悪意を感じない。大丈夫だろう。
岩壁を抜けると中はひんやりと真っ暗だった。そっと柄に手を伸ばし身構えると、まるで見計らったかのように爺さんの声が暗闇に響く。
「我の願いを聞き我の助けとなれ。我の欲するものとしてその姿を現せ・・・」
呪文?!しまった!!罠だったのか?!
「リン!!」
剣を抜き気配に集中する。しかしこの暗闇の中じゃ爺さんの居場所が不確かだ!!
「くそっっ!なんてこった!!」
少し油断していた自分に苛立ちを覚えるが、今は気配探りに集中する。そんなオレの横を、一筋の光の線が横切る。
光の線はやがて四方から飛び始め、呪文の聞こえた辺りに集中していった。線は光球を形作り、爺さんの左手の上で漂って辺りを照らす。これは!?・・・ただの灯りだ。
オレの勘違いだった。剣を鞘へ収めるとホッとして、思わずちょっと上ずった声が出る。
「凄いですね!色々魔法が使えるのですね」
お世辞のつもりではなかったのだが、爺さんは気にさわったのか少しムッとしているように見えた。
中はまだ薄暗いが声の反響でだいぶ広い事が窺える。壁を照らす光球が見事なレリーフが浮かび上がらせているがヒト族にはみられない、薄ら気味の悪い様式で不安になる。今ここで化粧の濃い道化師に出くわしでもしたら、心臓の止まる自信がある。
「此処で少し待ってろ」
オレ達を少し広めの客間のような部屋へ通しリンをベッドへ寝かせると、後から続いて来たセリセリ達も部屋へ入ってきた。爺さんはなぜか、ちらとセリセリの持ち物を一瞥するとそう言い残し何処かへ去った。
部屋を見渡すと、さすが戦の民、斧やら剣やら兜やらとが整然と並んでいる。その中の一番重そうな両手斧をセリがひょいと片手で持ち上げ、二度三度試し振りしながらオレに尋ねた。
「なぁ、お前はどうしてついて行っても平気だって思ったんだ?さっきご飯の時ちょっとあの爺さんと話したけどね。いい奴だったよ?けどな“魔法の使えるドワーフ”なんてさ、聞いたことないんだよ。うん。それはさ、いい奴、ってのとはまた別の話しなんだよね。だろ?なんかありそうだな」
なぜついて行ったのか?ごもっともな質問だ。リンを膝に乗せ背中を撫でてやりながら考える。それはオレには漠然とだが、もしかするとあのドワーフの爺さんこそがシグなのではないか?という思いがあったのだ。
ドワーフ族は他種族を見下すような節がある。若い世代(酒場のダイアンのような・・・)は大分友好的だが、年寄りは・・・。まあ、そこはヒト族も変わらんか。
自分の一族こそが誇り高き戦士であり、魔力は持たず己の鍛え上げた肉体で戦い、戦場で倒れる事こそが誉れなのだと。
それなのにあの爺さんは魔法を使っていた!!なにかありそう、というよりなにかあるのだよ。あり得ないことをするにはそれなりの代償を払うか、なにかを成し遂げた者、という事だ。
・・・その答えは、今戻って来たご本人に聞くとしよう。
「あの・・・すみませ・・・」
「ホレ、そこのツレに飲ませてやるといい。俺の一族自慢の強壮薬だ。すぐに元気を取り戻すだろうよ。俺の見たところ、お前のツレはただの変身疲れだな・・・なんだ?心配ならまず、お前さんが試してみろ。まてまて、舐める位にしておけよ?お前さんは元気なんだから大変な事になっちまうぞ!!」
「たいへ・・・?じゃあまず、失礼ながらひと舐めさせていただきますね」
銀製の薬瓶はやはり見慣れない彫金でおどろおどろしく、不安感を誘う。匂いは甘ったるい感じだが確かに薬っぽい。指先に一滴のせチュッと吸うように飲んだ。
「くおっっっ!!こっ!これは?!」
喉元を過ぎて身体に染みわたったな、と感じた途端、手も触れていないのに膝の上のリンが持ち上がった!!思わず
「ハンドパワーです」
とか言いたくなるが、こいつは、アレだ!!オレのナ・ニ・がナニしてナニになっちまってるんだ!こっ、こいつぁスゲェ!オレは神の槍を手に入れた!いや!!亀の槍か?!
あまりにもはしゃぎ過ぎてテントの頂きのリンが揺さぶられる。
・・・あぁ、いかん。リンに飲ませてやらなければ。ホレ。
「・・・・エル・・・」
「カエルは!カエルは嫌~~っっ!!」
ガバッ!
ぱんっ☆
寝起きの不意打ちビンタに驚いてオレのナニは頭を垂れて治まった。
「痛てて・・・」




