第31話 背中が痛え!
真っ暗だ・・・。何も判らない・・・。自分が今なお落ち続けているのかさえも解らない。不思議と落ちて行くような感覚がなかった。実はもう既に底に叩きつけられて死んでしまっているのかもしれない。
もがくオレの右手に何かが触れた。崖のコブだろうか・・・。
”何でもいい!とにかく摑まらなければ!!触れる、ということはまだ俺は生きている!”
オレはそのコブを必死に掴み、崖に身体を寄せた。こんな所でまた死んでたまるか!!
左手で崖の表面を弄るとゴツゴツとした感じだが、まるでゴムの様な手触りだ。そういう地質なのだろうか?右手の近くにもうひとつ、コブがあった。オレはそいつをしっかり掴み身体を安定させた。取り敢えずこれ以上落下することは無いだろう。しかしこのコブ、妙に柔らかい・・・。崩れて落ちやしないだろうか?・・・暗闇の中ではどうにも悪い方にしか頭が働かねぇな・・・。
「おい、ルイ。ルイ!」
小さく、セリの声が聞こえた気がした。
「ははっ。まさかな!あいつは・・・セリは・・・さっきので殺られちまったハズだ・・・。くそっ!!セリ・・・いい奴だったのに!!」
セリの死を悲しむ最中、突如オレの両足首に痛みが走る。「つっ!!」なんだ?何かに噛みつかれているような??
「ふはあ!へっっひゃんほふへはは、へほははへ!!(んナァ!セッちゃんの胸から手を放せ!!)」
「ははふい!!はひはっへふほは!!(馬鹿ルイ!!なにやってるのさ!!)」
ん??オイデとリンの様な声?
「これは・・・!?」
やっと暗闇に目が慣れてきたようでうっすらと辺りが見えてきた。
どうやら今しがみついているのはセリのオッパイで、オレの足首にそれぞれオイデとリンが噛みついている様だ・・・。
「おんやぁ?どゆこと??なにこれ?なんで?」
「おっきな声出すなよ!見つかっちゃうだろ?うん、とりあえず、私の胸から手を放そうな?」
「・・・・ごめんなさい」
取り敢えず謝って話を聞いた。アイツが攻撃を仕掛けて来た瞬間オイデが地面に穴を掘り、ソコに逃げ込んで難を逃れたらしい。そしてそのまま掘り進みオレの真下まで来た、と。
実際・・・オレはち~っとも落ちて無かったらしい・・・。はずかしい。実に、はずかしい!一人でもがいていたなんて!!
「もう!ホント馬鹿!もし落っこちたってボクが捕まえるから平気じゃん!!・・・それに触るんならボクの・・・ごにょごにょ・・」
「んナァ!!次やったら喉に噛みつくかっな!!」
いや、もう、ホントにゴメンナサイ・・。
「っと!それどころじゃねぇっ!地響きがすげぇ!!」
そっと穴から顔を出しヤツを確認すると、獲物を失ってイラついている様でそれぞれの口元に焔と冷気がため込まれている。今出るとアレの餌食にされることは間違いなさそうだ。
「さて、どうしたもんかねぇ。ほかの奴らはほぼ全滅しちまったろうし、あんなにデケェんじゃ剣はおろかオレの攻撃系呪符は全く役立たずだぜ!」
「たしかにアイツ大きすぎ!ボクの焔も効かないと思う・・・。翼じゃ刻んでる間にみんなやられちゃうし」
「オイラの方は、ナァ~ンもだナァ・・・」
「う~ん・・・弓は良くても、矢が弱っちくて、アイツにはちょっとなぁ・・・うん?そうだ!護符ってまだあるか?」
「範囲はねえが、個人なら何枚かある筈だ。でも安いヤツだからそんなに長くは続かねぇぞ?」
「うん!それでいいぞ!オイデとリンちゃんで前足を攻撃してくれ!!頭が下がれば私が一発、ガン!って喰らわしてやるよ!!脳震盪でも起こせれば何とかなるかも!!」
「おお!?わんちゃんいけるかも!だぜ!!犬だけに!ってか?それで時間を稼いでくれてる間にオレは地面を軟化させる。少しの間おとなしくさせられりゃ、このご禁制結晶化の護符で固めてくれてやるぜ!!
わんちゃん、ワンちゃんのオブジェの出来上がり、みたいな!」
「・・・」「・・・シツコイ」
「なんだよ、空気重てぇんだもん!大丈夫、いけるって!オレ達なら!!」
「うん・・・リンちゃん・・・キミも大変だね・・・」
「ああゆう病気なの。慣れれば平気だよ?」
「・・・うん・・・そうか・・・なら、いいや。とりあえず!チャンスは一回きりだな!一発ガツン!と喰らわせてやっか!!いち、にの、さん!!でいくよ!・・・いち、に~の、さん!!」
皆が一斉に飛び出す。オイデは左脚を、リンは右脚、セリは顎狙いとそれぞれ向かうが、放電が行く手を阻み中々近づくことが出来ない。すんでの所で回避はしているがいつまでもつか・・・。
オレはその間に護符を設置してく。広範囲に地面を軟化させるには四点に張り付ける必要がある。今は二枚、ここで三枚目だが、残りの一枚はどうしてもヤツの目の前を通らなければならない。
リンがそれに気が付き、囮に為るべくヤツの眼前をヒラつくが、リンに攻撃が通じないと解ると、狙いをセリとオイデに絞ってきた。
「まずいな・・・!このままじゃ、いずれやられちまう。急がねぇと!!」
焦りが、油断を生んだ。背後に迫る放電攻撃に直前まで気が付かなかった。ギリギリ直撃は免れたが、左腕を焼かれてオレは吹っ飛ばされてしまった。皮膚が爆ぜ、肉の焼ける匂いがする。
「ルイ!!」
「大丈夫だ!!わけねぇぜ!ってか、吹っ飛ばされたお陰で四枚目、貼れたぜ!!今だ!ぶちかましてやれ!!」
「分かった!!全力で行く!能力向上!!」
オレの声を合図に、回避から攻撃へと再び移った。直線的に、放電すら凌ぐスピードで二匹が突っ込んでいき、オイデは左脚を破壊し、リンは右足を切断した!!
「グオォォーーン!!」
流石のケルベロスも前脚を同時に失い、雄叫びと共に顎を上げた。間髪、セリが一撃を入れるべくヤツの身体を駆け上がっていく!!
「いっっけぇぇーー!!」
右腕に目一杯力を籠め、渾身の一撃でヤツの頭を打ち抜く!!・・・筈だった!
あろうことか、ケルベロスの周りを取り巻いていたワイバーンどもが、セリの身体に纏わりついて攻撃を止めたのだ!
ヤツがその隙を見逃すはずも無く、ワイバーンごとセリを尻尾ではたき落とした。攻撃をまともに受けたセリは石造りの家を二軒ぶちぬき、三軒目の壁に叩きつけられてようやく止まった。
オイデが叫び声をあげセリの下へ向かうが、ぴくりともしない・・・。
「もう・・・駄目だ!やっぱり、オレ達だけで、なんて無理だったんだ!くそぅっ!!すまない、セリセリ!!もはや打つべき手が思い浮かばねぇ・・・」
(あぁ・・・背中が・・・いてぇ・・・)
為す術なく、ただヤツを見上げることしか出来くなったオレの背後に生き残った街の人々が集まっていた。
「私達、助からないの?」「・・・嫌だ!死にたくねぇ!!」「ウワァァン!ママァ~~。怖いよぅ」「何だよ!竜飼いっつたって、役立たずじゃねぇかよ!!」
「女神様!私の子だけでも助けてください!!」
逃げる者、動く気力もない者と様々だが誰からともなく、オレに向かって石を投げ始めた。そのうちの一つが頭に当たり、額を血が一筋流れる。
(せなかが・・・いてぇんだ・・・)
人々の不安や怒り、恐怖がオレに向かって流れ込んでくるのが判かる。
いつの間にか“少女”のリンがオレの胸に顔をうずめ泣いていた・・・。
「ルイ・・・。もうどうにもならないね・・・ボク、最後まで一緒に居るよ。・・・ヒト型の今なら、いくら竜のボクでも、たぶん死んじゃうと思うんだ・・・」
(リン・・・駄目だぜ・・・そんな事・・・くそ・・・せなかが・・・)
「二人でさ、リッチェに会いにいこ?ねぇ・・・ルイ、ボクね、ルイの事が好・・・」
リッチェ?・・・リッチェ!!ああっ!リッチェ!!!
「ゔゔゔゔゔ・・あ”あ”!!」
背中が、いや、それだけではなく全身が焼けただれ崩れ落ちていくかのような感覚!!いてぇ!!だれか、たすけてくれ!!




