第11話 逃げてばかり
目が覚めると、リンがオレの腹の上で寝ていた。明け方の朝露でテント内が肌寒かったせいだろう。そっとクッションの上に寝かし直してから外へ出てあたりを見わたす。
辺りに魔獣の気配がないのを確かめ、ベラから渡されたバスケットの中からバケットとチーズを取り出してそれぞれスライスした。
朝飯の用意が整いリンを起こしに掛かる。
”アイツ寝起き悪ぃ~んだよなぁ。無理やり起こすと噛みつこうとすっからアブねぇんだよなあ。昨日は遅くに寝たから自分じゃ起きねぇだろうし・・・”
しかし、なるべく早めに先を目指したい。仕方がないが揺すって起こす事にした。
「リン、おい、リン!テント片付けっから起きてくれ。先に朝飯食っててくれよ」
「ん?んん~っ、ふあぁ~。おはよう、ルイ♪片付けるの?手伝うよ、一緒に食べよ?」
「ああ、ありがとう・・・どったの?なんか、こう・・・何にも出ないよ?」
朝からご機嫌なリンが怖い。オレ、何かしたか?覚えがないのが余計に怖い。取り敢えず、機嫌を損ねない様に注意しなければ!
「んじゃあ、頼もうかな。そこの枝から護符を剝がして来てくれ。そっとだぞ?落とすと発動しちまうからな、気を付けてやってくれ」
「うん、わかった。そこの岩にならべておくね」
オレがテントを畳みカバンに丁度しまい終えたとき、リンが口から閃光の札を落としてしまった。地面に落ちるや否やバッと強い光を札が放つ!!
「やばい!」「ごめんっ!」オレたちは咄嗟にうしろ向きになり目を庇ったが、それでもチカチカする。まともにならしばらくは目が見えなかったろう。
「ごめんなさい。なんか、まだ、寝ぼけてたみたい」
決して寝ぼけていた訳ではない。テントを片付けるルイの横顔に見とれてしまっていたのだ。弱くはなってきたが未だに光を放つ札を見てしょげているリンに
「ま、そういうこともある。おぉ~、まだ目がチカチカすんな。イタズラに使ったことはあるが、自分で喰らうのは初めてだぜ。ハハッ、結構利くな!」
そう励ましの声をかけ頭を撫でてやった。ちょっとうれしそうに顔を上げたリンの顔色が変わる。
「ルイ!あれ!!こっちに来るよ!」
護符めがけてデカいのやら小さいのやら、虫共が塊りでこっちに向かい飛んで来やがった!虫自体は大した問題じゃない。厄介なのは、その虫共を餌にしている魔獣がここに集まっちまうってことだ。奴らからすればオレ達も虫みたいなもんだ、餌にされちまう。
危険を察したリンは直ぐに腰ベルトをオレに投げてよこしカバンを口に咥えた。
その場から急いで森の中へ逃げ込もうと、必死に走る背中越しにバキバキ、グチュっと嫌な音が!早速虫共が喰われているようだ。昨日のフクロウのようなデカいヤツが現れたらひとたまりもなくやられてしまう。地上なら戦えるが空のヤツはムリだ!とにかく隠れなければ!!
オレ達は一番近くの巨木の根を目指し無我夢中で走った。
「ねぇ!ルイ・・・大変なんだけど!!」
「あ?ゼェゼェ・・・大変だから、ゼェ・・逃げて来たんだろ!?ゼェゼェ・・・うっへ~~、キッツイな~!走るの・・・」
「それもそうかもだけど、あそこの赤いのってブリックさんから貰った弓、だよね??」
「えっ!?あ”あ”・・マジか!必死だったから忘れて置いてきちまったぜ・・・うげぇぇ、でっけえ魔鳥が虫喰ってるよ。口から翅とか脚とか飛び出してんじゃねぇか!蛾とか喰うなよ!!グチュ!って聞こえたぜ!ひー!ありゃ、無理だ!!ブリックの弓よ、そこで安らかに眠りたまえ・・・」
ブリック、本当に済まないと思う。だけど、あれは無理だ。
「ダメでしょ?ちゃんと取りにいこ?ね?」
「イヤ、オレ、ムリ。オマエ、ヨロシク」
「なんでカタコトなの?自分で行きなよ。ルイが貰ったんでしょ?ボクだってあんなグチョグチョの傍に行くのイヤだもんっ!」
「そうだ!とりあえず鳥になれ!心も鳥に成りきれ!多分イケる!オマエならやれる・・・頼むよぉ・・リンちゃん・・・取って来てくれたら、チュウしたげるからさ~!!」
「な!?い、いらないよ、そんなの!フンだ・・・ルイのバカ!!」
”結局、ボクが行くんだよな・・・もぅ!なにが、チュウだよ、そんなの・・・ほしいけど言えないじゃん!それよりも、自分の心配しなよバカルイ・・・カラ元気を見てるコッチもつらいよ・・・あの時から、どんなにバカなこと言ってても、目から光がなくなってるんだもん。自分でも解かってるはずでしょ?いつかまた自棄になって無茶しないといいけど・・・。ボクもこういうのじゃなくて、力になれたらなぁ・・・ルイの支えになりたいよ・・・”
そう思いながら大きめの鳥に姿を変え、食事中の魔鳥を刺激しないよう、こっそりと近づいた。、
オレは弓を取りに行ってもらっている間、情けないが大樹にしがみついていることしか出来なかった。
「逃げでもばっかりだなぁ・・・オレは」
ふと、幹の裂け目にコケではない草が茂っているのが目に留まる。
「コイツはたしか、かゆみ止めの薬になるキンカン草じゃねえか!街までのつなぎにちょっと使わせてもらいますか」
リンからちょっと死角に入るような茂みに近づき、背を向けて下着ごとズボンを下ろすとキンカン草を握りつぶして汁をツルツルの丘に塗り付ける。掻き傷とナイフ負けした肌にヒリヒリと染みる。思わず声が出そうになるのをその辺の枝を握りしめ我慢していると、一匹の岩キツネがこちらを見ているのに気が付いた。
「なんだ?珍しいな。森ん中に岩キツネが居るなんてよ。ん?このキノコは食いもんじゃねえぞ?ほれ、あっち行け」
オレは急いでズボンを上げてキノコをしまった。食いつかれでもしたらたまらん!それにしても見られたのがリンじゃなくて良かったぜ。ホント、カッコワリィからな。
「はい、取って来たよ!もう!最悪だよ。すっごいバッチかったんだからね!しばらくトロッとしたものとかソースのかかってるの、食べられそうにないや。夢にも出て来そう・・・ん?なにしてたの?」
「イヤ何って、あれだよ、森にな、水と養分をだな、差し上げてたのよ・・・おお!ありがとう、リン!!恩に着るぜ!!ほれ、お礼のチューだぞ?」
唇をべろべろと舐めまわしタコの様に突き出しリンに近づくと
「ばっちい・・いやだ、絶対に、イヤ」
物凄いヒキ方で離れて行った。そんなに嫌かね?イヤか・・オレもこんなのされたら嫌だな・・・反省。またやるけどな。
「冗談はさておき、急いで逃げたから方角が定かじゃ無くなっちまった。が、そこの小川があっちに向かって流れてる。恐らく湖に注がれてる筈だから、こいつを辿って行こう。昼前には湖に着けるかな、って感じだな。そこから次の町まではそう遠くないと思うから一気に行っちまおうぜ」
沢沿いを湖目指して下る。途中、二度ほど高い崖を降りなければ為らなかったがリンに食い千切ってもらったツタのお陰で難なく降りることが出来た。備えあれば、だな。
ただ、今目の前にそびえるデカい岩山はどうにも迂回できそうにない。森側ルートは斜面がきつ過ぎて登れねぇ。川は岩山を深くゆったりと回り込むように流れているが恐らく向こう側は滝で、落ち込みになっている筈だ。巻き込まれでもしたら二度と青空は拝めねぇだろうな。さて、どうしたもんか。




