第4話「依頼の夜」
ギルドからの伝令が来たのは翌朝のことだった。
内容は簡単だった。ミルガから三十分ほど離れた採掘場で、魔物の巣が発見された。放置すれば村に被害が及ぶ。近隣の冒険者に討伐依頼が出ているが、まだ誰も来ていない。
「ランクは?」とアレンが伝令の男に聞いた。
「A相当と聞いています。冒険者が来るまで一週間以上かかるかもしれない」
一週間。その間に巣から魔物が溢れ出れば、ミルガは終わる。
「わかった。行ってくる」
「報酬は?」
「いらない」
伝令が目を丸くした。アレンはもうコートを羽織っていた。
エリアがついてきた。
「また来たのか」
「はい」
「今回は本当に危ない」
「でも行くんですよね」
「そうだ」
「では、私も行きます」
アレンは止めなかった。前回の山での判断を見ていた。パニックにならない、足を引っ張らない。それだけわかれば十分だった。
採掘場は廃坑になった洞窟だった。入口から魔物の気配がした。「骨喰い」。屍食系の群生型魔物で、暗所で巣を作る習性がある。一頭一頭はCランク程度だが、数が多く、乱闘になると手がつけられない。
「何頭いると思う?」とエリアが聞いた。
「五十以上はいる」とアレンは答えた。
「一頭ずつ倒していくんですか?」
「そうはしない」
アレンは洞窟の入口に立った。目を閉じた。
地の下に、争いの気配がある。五十、いや七十か。ひとつひとつに敵意がある。それを全部、同時に感じた。
息を整えた。手を広げ、洞窟の奥に向けた。
五秒後、洞窟の中が静かになった。
地鳴りのような音がして、それが止まった。
アレンは手を下ろした。
「終わりか?」とエリアが言った。
「終わった」
「中を確認しなくて良いのか?」
「必要ない。残っているものは何もない」
エリアが洞窟の入口に一歩踏み込んだ。暗闇の中に、骨も牙も何も残っていなかった。七十以上の魔物が、跡形もなく消えていた。
エリアが洞窟から出てきた。表情が読めなかった。
「消したんですね」
「今回は消す必要があった。あのまま増殖すれば村が終わっていた」
アレンは淡々と言った。しかし声の端に、かすかなものがあった。エリアにはそれが何かわかった。
「後悔しているんですか」
「していない。必要なことをした」
「でも」
「でも、好きじゃない」
アレンは歩き出した。「魔物を消すことも、人を消すことも。どちらも好きじゃない。だからずっと封印していた」
村に帰る道で、エリアが静かに言った。
「あなたが封印していた理由がわかりました」
「へえ」
「優しいから、ですよね」
「違う」
「違いますか」
「俺が恐ろしいから、だ。自分が」
エリアは何も言わなかった。アレンも何も言わなかった。
夕暮れの中で、二人の影が並んで伸びた。
村に戻ると、グランが出迎えた。
「終わったか」
「終わった」
「ギルドへの報告は?」
「伝令の人に任せた。ランク確認が必要なら骨が残っているはずだと言えばいい。でも何も残っていないから困るかもしれないが」
グランが笑った。「ほっほ、まあいい。ありがとう、アレン」
アレンは頭を下げた。エリアが隣で同じように頭を下げた。アレンがちらりと見ると、「私も一緒に行ったので」と言った。
グランが二人を交互に見て、また笑った。
その夜、アレンは一人で村の外れに座った。ルシウスたちは今頃どこにいるだろう。心配がないといえば嘘だった。でも、戻りたいとは思わなかった。あの場所では、いつかスキルを使う場面が来る。そうなったら誰かを消してしまう。
草が風に揺れる音だけがした。アレンはそれをしばらく聞いていた。




