第1話「追放の朝」
「アレン、お前はクビだ」
朝の光が差し込む宿の食堂で、ルシウスはそう言った。笑顔で。
テーブルには残り四人分の朝食が並んでいた。アレンの皿だけがなかった。
アレン・グレイは椅子を引いて立ち上がった。驚きもなかった。怒りもなかった。ただ、「ああ、来たか」という感覚だけがあった。
「理由を聞いてもいいか」
「戦力不足だ。お前のスキルは鑑定石でも読めなかった。サポート系か何かだろうが、俺たちには必要ない。これから魔王城に乗り込む。足手まといは連れていけない」
ルシウスは言葉を選んでいるようで、その実、何も選んでいなかった。
パーティの他のメンバーは誰も口を開かなかった。治癒師のミレーナは視線をテーブルに落としていた。斥候のカルは窓の外を向いていた。魔術師のレイは自分の爪を眺めていた。
三年間、ともに戦った仲間たちだった。
「わかった」
アレンはそれだけ言った。
「荷物はどうする」とルシウスが続けた。声にわずかな安堵が滲んでいた。もっと揉めると思っていたのだろう。
「いらない。持っていけるだけ持っていく」
自分の部屋に戻り、ベッドの下から麻袋を引き出した。衣類が二着。携帯食が五日分。小刀が一本。それだけだった。三年間の冒険で蓄えた金はルシウスが共同口座に入れていた。引き出す権限は彼にあった。
だから今、アレンの手元には銀貨が十二枚しかなかった。
食堂に戻ったとき、誰もいなかった。四人はもう出発の準備を始めていた。食卓に残ったパンが一つ、アレンのために置かれていた。ミレーナだろう、と思った。
アレンはパンをポケットに入れ、宿を出た。
街道を歩きながら、アレンは自分のスキルのことを考えた。
【調停者】。
鑑定石は「判定不能」と表示した。ルシウスはそれを「戦力ゼロ」と読んだ。間違いではなかった。アレンが意図的にスキルを使わない限りは、実際にそうだった。
使ったのは一度だけだ。四年前、家族が盗賊に襲われた夜。十四歳のアレンはスキルを使った。何が起きるかも知らずに、ただ「終わらせたかった」という気持ちだけで。
盗賊は七人いた。
翌朝、七人分の衣服だけが残っていた。
アレンはそれ以来、スキルを使っていない。使わない理由は恐怖ではなかった。ただ、もう誰かにそれをしたくなかった。たとえ悪人であっても。たとえ自分の命が危ない状況でも。
争いを終わらせる。それがスキルの効果だ。終わらせる方法が、消滅だとしても。
だから、俺は役立たずでいい。アレンはそう思っていた。
ルシウスが自分を追放してくれて、むしろ助かった部分もある。あのまま魔王城に向かっていたら、スキルを使う場面が来たかもしれない。
風が吹いた。街道の両脇に広がる草原が揺れた。
どこへ行こう。
金は十二枚。食糧は五日分。スキルは封印している。それでも、生きることはできる。そのくらいの自信はあった。
辺境の地図を頭の中で広げながら、アレンは歩き続けた。どこか人手が足りている村があれば、雑用でもして暮らせる。スキルがなくても、体は動く。
もう誰かを消さなくていい。その事実だけが、今のアレンには十分だった。




