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もふもふとスローライフ、たまに世界を救うくらいで 〜ちょっとおかしなもふもふと暮らしています〜  作者: はかんどぅ


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1/6

1.もふもふの毛並みが少し変だった日

たしか、前はもう少し忙しく生きていた気がする。

朝も夜も関係なく働いて、気づけば一日が終わっているような、そんな生活だった。


……まあ、今となってはどうでもいい。

今はこうして、静かな場所で暮らしている。


転生して十年。

この村での生活にも、すっかり慣れた。

朝は早く起きて、水を汲んで、簡単に食事をして。やることがなければ、森の方までふらっと歩く。

特別なことはない。

でも、それが嫌というわけでもなかった。


「……まあ、悪くない」


誰に言うでもなく呟いて、家の外に出る。

空気は少し冷たくて、でも嫌な感じはしない。こういう日は、だいたい静かだ。



……ただ、今日は。


「ん?」


ふと、視線を感じた。


嫌な感じじゃない。危険でもない。


でも、なんとなく気になり振り返る。



そこに――いた。



少し離れた場所に、小さなキツネが立っている。

茶色がかった毛並み。

耳はぴんと立っていて、こちらをじっと見ていた。

逃げる様子はない。かといって、近づいてくるわけでもない。


ただ、そこにいる。


――そして。

しっぽだけが、妙に白かった。



キツネって、こんなだったか?

先が白いのは見たことがある気がする。でも、ここまでじゃなかったような気もする。


「……なんだ、お前?」


声をかけても、反応はない。

けれど完全に無視しているわけでもないらしい。


しっぽが、ゆっくりと揺れている。一定じゃない。


少し揺れて、止まって、また揺れる。

落ち着かないようでいて、どこか心地いい動きだった。


警戒はしている。でも、敵意はない。


――そんな感じがした。


俺は少しだけ近づいて、しゃがむ。それ以上は行かない。


ゆっくりと手を出す。触れはしない。

ただ、そこに置くだけ。


するとキツネは、一歩だけ後ろに下がった。

やっぱり警戒はしているらしい。


 ……でも。


完全には離れない。

じっとこちらを見たまま、少しだけ首を傾げる。


考えているみたいだった。

しばらくそのまま、何もせずに待つ。

時間にして数秒か、もっと短いかもしれない。


やがて――


キツネが、一歩だけ前に出た。

ゆっくりと。

様子をうかがうように。


そして、止まる。

距離はまだある。

けれど、さっきよりは近い。


「……来るのか?」


問いかけても、やっぱり返事はない。

ただ、しっぽの動きが少しだけ変わった。

さっきより、柔らかい。


もう一度、少しだけ近づく。

今度は下がらなかった。


代わりに、ほんのわずかに身を引いて、

それからまた元に戻る。


迷っている。


そんな感じだった。


そして――


ふわり、と。

キツネのしっぽが、手の甲に触れた。


ほんの一瞬。


すぐに離れる。

でも、その一瞬で十分だった。


「……すごいな」


思わず声が出る。

軽くて、暖かくて。触れたところだけ、妙に心地いい。


キツネはじっとこちらを見ている。

逃げる様子はない。


もう一度、今度は少しだけ長くしっぽが触れた。

確かめるように。


それから、ほんの少しだけ体を寄せてくる。

完全に寄りかかるわけじゃない。

でも、距離は明らかに縮まった。


――選ばれた、という感じがした。


ゆっくりと揺れるしっぽが、また目に入る。

一定じゃないその動き。

 落ち着かないくせに、妙にしっくりくる。


「……ユラ、って感じだな」


なんとなく、口に出していた。

意味はない。


ただ、その動きがそんなふうに見えただけだ。


「ユラ、って呼ぶか」


キツネ――ユラは、少しだけ耳を動かす。

名前を認識したのかどうかは分からない。でも、悪くはなさそうだった。


そのまま、ゆっくりと立ち上がる。


「とりあえず、家来るか」


歩き出すと、少し遅れてついてくる気配がした。

振り返ると、ちゃんといる。

一定の距離を保ちながら。

離れすぎず、近づきすぎず。

……まあ、悪くない距離だ。


そのまま家に戻る。

扉を開けて中に入ると、ユラは少しだけ迷ったあと、ついてきた。


中を見回して、問題ないと判断したのか、部屋の隅にちょこんと座る。


「……自由にしていていいぞ」


そう言っても、特に反応はない。


ただ、しばらくすると――気づけば、すぐ近くにいた。


さっきより、少しだけ距離が近い。俺が座ると、自然と横に来る。

そして、何も言わずにしっぽを伸ばしてくる。


――まあ、そうなるよな。


軽く撫でる。

すると、しっぽがゆっくりと揺れた。

満足そうに。


「……これからよろしくな、ユラ」


返事はない。

でも、しっぽの動きだけで十分だった。



静かな生活に、ひとつだけ増えたもの。

それが思っていたより悪くなさそうで――俺はもう一度、しっぽに手を伸ばした。


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