第五話 神子様の多大なる勘違い
アサナ視点です
「神子様!死神だ!死神が村に!」
その知らせを聞いて、あたりは騒然としました。死神。この世に不幸をもたらすもの。遠い昔、この国へと訪れた黒い髪に黒い瞳の死神の話は幼い子供すら知っているものでした。死神を滞在させた村や町は原因不明の病と不作に悩まされ、最後にはどの村も町も滅び、今もなおその跡地に行って帰ってくるものは一人もいません。
この国、いいえ。世界には黒い髪と瞳をもつ人間など一人もいません。断言できます。皆が鮮やかな色を持っているのです。そんな中、黒い髪と黒い瞳の若い男。そんな死神にぴったりと当てはまる条件の人間がいるとは思えません。では、
「本当に…死神が…!?」
とにかく皆に家の中にいるように言って、死神が来るのを待ちました。そして、私が見たのは、
美しい、黒髪黒目の男性でした。
それは人形のような、いえ。人形ですらここまで美しくはならないであろうという様な美しさ。神であると言われれば納得してしまうような…あぁ、そう言えばあの方は死神だったのでしたね。死神であっても神とは美しいのですね…。
死神様は私など歯牙にもかけない様子で速足に村を進んでいきます。あぁ、あの方のお声を聞きたい!そんな思いから、自分でも思いがけない様な大声が出た。
「待って!」
私ったら、死神様に何て失礼な口を!そうは思ったもののもうこうなったら勢いだ、と声をだす。
「な、何が目的なんですか?」
目的、そう。この村に来た目的を私は聞きたい。何故こんな中心都市から離れた村に訪れたのでしょうか。死神様は無言のまま私をジっと見つめました。
「な、何か言って下さい…!」
死神様はそれでも黙ったままでした。私は死神様のご不興を買って死んでしまうのでしょうか…。頭のどこかでそれでも良いと思っている自分を信じられなく思いながら、死神様の返事を待ちました。
「騒がしいぞ小娘。我が主に何用だ。」
その声は死神様の肩から聞こえました。そこに居たのは、神気を纏う猫。すらりとした体躯と穢れなき純白は死神様の漆黒を際立たせていました。
「ね、猫…?いえ、この気配…まさか、神獣ですか!?」
「ほぅ…?我の気配に気づくとはな。…その神力…神子か。」
なんということでしょうか!この死神様は神獣に「主」とすら呼ばれる存在なのです。恐らく、とても位の高いお方なのでしょう。一体どうすれば…
「…その通りです。私はこの村の神子、アサナと言います。」
「アサ、ナ?」
死神様の口から出たその声は、美しかったです。その言葉が私の名であると認識するのが少し遅れてしまう程に。…何故私はもっとこの方の素晴らしさをお伝えするに最適な言葉を見つけられないのでしょうか!
「俺に…敵意はない…」
「本当、ですか…?」
「嘘をつく理由が…どこに…?」
上から下まで死神様を見る。この森と崖に囲まれた村に来るには不似合いの軽装。ひょっとして何か訳があるのかもしれません。とにかく、先ほどの失礼を謝らなくては…
「えっと…疑ってしまってごめんなさい。死神様」
死神様は、少しだけ戸惑ったような顔をした。…私、何かしたでしょうか。
物語進んでなくてすみません。でも勘違いsideはちょこちょこ入れて行きます。